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ご飯を食べ終えた後は、ディザと一緒に食器を洗ってお片付け。家事妖精さんが片付けもしてくれるみたいだけど、自分で出来ることはなるべくする事にした。
お風呂はひとりで入りたかったけど、5歳児をひとりでお風呂に入らせることにアイテール様もディザも首を縦に振ってくれなかった。結局、ディザがハーブを摘んで来て「ハーブ風呂にしよう」の言葉に5歳児が陥落した。とっても良い香りのお風呂にご満悦。
アイテール様は私たちがお風呂から上がるまで待っていてくれて「まだしなくちゃいけないお仕事があるから。また明日ね」と帰って行った。
ディザと一緒にお見送りをしてリビングのランプを消す頃には眠くてウトウトし始めてしまった。
「レイラ、もう寝ちゃっていいよ。ちゃんとベッドまで連れていってあげるから」
そう言われると、もう半分夢の中に旅立ちそう。ディザが抱っこして二階のベッドまで運んでくれる。
「今日は、いっぱいお仕事を頑張ったから疲れたんだよ。おやすみ」
ディザに「おやすみ」と返事をすると、布団を綺麗にかけてくれて、胸の上をポンポンとされるとすぐに眠りに落ちてしまった。
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『私、死んじゃったんだよね…』
ボンヤリと眠りと夢の間をゆらゆらと泳いでいるようだ。
前世の記憶が通りすぎる。
私の両親は小学4年生の時に事故で亡くなってしまった。近しい親族が居なかったので施設で育ったが、両親を亡くした悲しさに数ヵ月は泣き暮らした覚えがある。所々、記憶が曖昧だが施設の同年代の仲間が出来て中学に入る頃には笑えるようになっていたと思う。幸い、両親の保険金が降りたので大学へ行くことが出来たし、設計事務所に就職も出来た。
でも、大切な人を亡くすと言う恐怖からか、私は恋人や家族を持つことが出来なかった。無くすくらいなら居ない方がいい。そう思って、34歳まで独りで生きてきた。
だが、この世界に来てどうだろう。
まだ、たったの一日。
5歳児の体になってしまった私に対して、アイテール様はお父さんみたいに私を抱きしめて甘やかしてくれるし。ディザは、お兄ちゃんみたいに世話を焼いてくれる。5歳児の体に精神が引っ張られて感情を体全部で表現して、二人に甘えている自分にもビックリしている。
でも、この状況に慣れてしまってからまた失ったらと怯えている前世の私が居る。
『また…置いていかれるのかな…』
また。独りぼっちになってしまったら、と悪い方へ思考が傾いて行く。
『お願い…』
私は、泣きじゃくりながら真っ暗な空間の中アイテール様とディザを探し回っている。
『独りに…しないで…』
遠くで誰かが私の事を呼んでいる。
「…イラ……レイラ!」
突然、大きな声で呼ばれて夢から覚醒していく…。
ーーーーー
目を開くとアイテール様に抱きしめられていた。
「レイラを独りになんかしない。約束するから、そんなに泣かないで」
さらに抱きしめる力を強くしながらアイテール様がそう言ってくれるが私の涙は止まらない。
「僕もレイラを独りで置いて行ったりなんかしないよ」
そう言いながらディザが頭を撫でてくれる。
「どこ…にっも…いっ…かな…い?」
しゃくりを上げながら聞く私に、腕の力を緩めてアイテール様が目を合わせる。
「レイラ、神様が嘘をつくと思う?」
「おも…わ…なっ、うぅぅ」
泣き止まない私をもう一度、抱きしめ直すと。背中をトントンしながらアイテール様が穏やかな声で私に言い聞かせる。
「いいかい。私もディザもレイラを置いて何処かに行ったりしないし、独りにしたりしない。まあ、お仕事があるから留守にする事はあるけど、レイラに寂しい思いをさせるつもりは無いからね」
そう言って抱きしめてくれているアイテール様の腕の中で私は、もう一頻り泣き続けた。