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【欲しかったモノ】(3)

「諦めないですね」

 ポツリと呟いた私は目を落とす。こちらへの攻撃が無意味であることを理解して諦めてくれる事を期待した。だがむしろ闘争心でも付いたかのようにがむしゃらに攻撃される結果となる。このままではフィールド外へ危険で出られない。この場合は主に周囲の事を指す。

 ちらっと史弥の横顔を見る。体のどこかが痛むのか時折、苦痛に顔を歪めている。

 少しでも早く救護処置に入った方が良い。その為には鈴原涼を黙らせる必要があった。

「史弥くん。ちょっと待ってて? あと今から私に近付いたらダメですよ?」

「え? 可憐?」

 史弥をその場にゆっくり下すと、鈴原へ振り返る。そのまま離れる。

 気付けば鈴原の攻撃は中断されていた。今が()()()()のチャンス。


『いける憐可?』

 端的に脳内のもう一人の住居人へ問いかける。

『もちろんだ可憐。一発かましてやるぜ!』

『いちよう言っておくけど、あまり私の身体で下品な事言わないでよ? 史弥くんも見てるんだから』

『ほいほーい』

 本当に分かったのか曖昧な返事を聞いた私はそのままもう一人の自分へバトンをタッチして精神の闇へ意識を預ける。任せたよ憐可。

「ちょっと待ってろよ。すぐ終わらせるから」

 向こうには容姿の変化が起きてすぐに判断できただろう。

 変化した後ろ姿を目撃したであろう史弥は呟いていた。

「全く、本当に……」

 史弥の声から安心したような安堵感が伝わってくる。あたしの言葉から伝わる自信と立ち振る舞いが伝わったのだろう。

 対峙する涼も変化に気付いたのか何か言っているがあたしはどうでもよかった。

 そのままEAを発動させる。異常に気付いた相手は必死の形相でこちらを睨んでいる。その両手がゆっくりと垂れていく。

「これが私の能力、キネティックアテンション(運動減衰)だ」

 力強く言葉を紡いで歩みを進める。


 ◇◇◇


 三人の距離はあたしを中点として史弥からは二十メートル以上離れ、涼へは二十メートル以下まで接近していた。

 キネティックアテンションは使用者を中心とする半径二十メートル内に対して効力を持つ。そのため史弥に注意を促したのはこれが原因だ。地点設定や範囲選択できない無差別範囲能力なのだから。

 発動後から対面の鈴原涼は動揺と驚愕が入り混じった表情を向けて()()()()()()()()()()

 さらに無視して進むと奴は全身の脱力感が強まり焦っているようだった。必死の形相であたしを睨みつけている。


「あんた、あたしとお近づきになりたかったそうじゃない。今がチャンスだよ()()?」

 嫌味たっぷりな比喩と呼び方の独り言を交えて歩む。

 身の危険を感じた涼は持てる能力の全てで、幾つもの鬼火を展開し、あたしへ撃ち放つ。

 しかし、その攻撃全ては近づくにつれて弱まり、目前で跡形もなく消滅する。

 涼はその場に(こうべ)を垂れるように両膝をついて虚勢を上げているみたいだった。()()()()()()()()。もう奴の足に力が入っていない。その両腕も同様だ。

 あたしは涼の至近距離で立ち止まる。そのまま奴は胸を押さえ苦しみ倒れる。

 涼は声にならない喘ぎでしか返事が出来ていない。

「このままじゃ声も減衰して話しも出来ないか」

 その言葉と共に涼の身体を解き放つ。力を抜くようにEAを解除する。停止という名の拘束から。奴の息も絶え絶えな喘鳴が響く。血流すら止まっていたかのように顔は青ざめ、手先は震えていた。

 そんな無様な姿を晒すこのクソ野郎に怒りを一先ず抑える。


「くっかはあぁ、ぐっがあぁ……」

 生命の危機に瀕した嗚咽にも似ている声をやっとあげる涼。生気を失い掛けている。

「これで聞こえるね……」

「な、何をぉ…………したぁ…………⁉」

 最早、息も絶え絶えで声も掠れている。

「効いているようで何よりだよ。だからあんたのその小さい頭に教えてあげる」

 一拍置いて続ける。

「あたしのキネティックアテンションは原子・分子運動を減衰させ、停止させる。この距離だと心筋繊維まで減衰し始める。心停止ギリギリの感想はどんな気分かな。あんたが立てなくなったのも筋繊維の運動減衰が起こって強い倦怠感になってるせい。だから力なくそのまま脱力する。炎だってそう。どのような原理で発火してるかは知らないけど、あたしの前では化学反応(燃焼反応)すら起きないし、起こせない。それはあたしに近付けば近づくほど効力を強め、消滅する事に繋がる。お分かりいただけたかい?」

「なぁん……だよぉぉ……それぇ……。そんな……EAは……聞いたこと……ないぞぉ……ぐぅ、うぅっ……こ、こんな……こと……」

 心停止ギリギリ等、色んなものから解放されてまさに命の危機に瀕した涼は既にまともに言葉も紡げない程ボロボロになっていた。まるで水死しかけたように。

「別にあんたに理解されようとも理解されたいとも思わない。ただあたしのダチ公を痛めつけてくれた落とし前をキッチリつけてもらうだけだよ」

「ちく……しょぉうがぁあ…………」

「この程度で許されたことを感謝しな。次に史弥にちょっかい出したらぶち殺す。

 さぁ、返事は‼」

「はぁ……はぁい……」

 嗚咽交じりにか細く発した奴の言葉を聞いて、あたしは反転すると史弥のところへ戻っていく。

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