#8 最高から2番目の離婚
前回までのあらすじ
禅問答なう
6年前
ルナ「クソが、クソがぁ!![男を殴る]」
男「うぐぇ・・・助けて・・・」
ルナ「てめぇ、自分が何したか分かってんだろうな・・・あァ!!?」
男「さ、さぁ知らねぇよ・・・!」
ルナ「お前が持ってるその財布・・・俺の母さんのモンだ。さっき誰かに盗られたって言ってた母さんの財布だ」
男「そ、そんなの知らなかったんだ・・・悪かった、許してくれ!」
ルナ「いいや、ダメだね」
男「!?」
ルナ「てめぇのせいで、母さんがどれだけ傷ついたと思っていやがる・・・、まァこんなこと言ったところで、てめぇはそんなことも『知らなかった』で済ませるんだろうがな・・・!![拳を振り上げる]」
男「ひぃっ!!」
真理奈「なにをしているの、ルナっっ!!?」
ルナ「!!!」
真理奈「馬乗りになって・・・まさかその人を殴ろうとしているの!?」
ルナ「まっ、まさか!してない・・・してないよ!」
真理奈「そ、そうよね。ルナがそんなことするわけないもの・・・でもその人の顔、どうしてそんなに傷だらけなの・・・」
ルナ(・・・。)
ルナ「おい、『財布を届けにいこうとしたら転んで怪我した』って言え(小声)」
男「!」
ルナ「さっさとしろ」
男「・・・すみません。うっかり転んでしまったんですよ。あなたに財布を届けようとしている最中にね(財布を渡す)」
真理奈「っ、それは私の財布・・・どうしてあなたが!?」
男「・・・さっき道端で拾ったんです。失礼ながら中を拝見して、免許証の住所を手がかりにお伺いしようと思っていたんです」
真理奈「そ、そうでしたか・・・ありがとうございます!!何とお礼を言ったらよいか」
男「いいんですよ。では僕はこれで・・・」
真理奈「えっ、待って下さい!せめてその怪我の手当だけでも・・・」
男「いやっ、大丈夫です!さよならっ!!![逃走]」
真理奈「・・・変なの。でも、いい人だったわね」
ルナ「そうだね」
真理奈「ところでルナ、どうしてあの人の上に乗っかっていたの?」
ルナ「っ、あぁ。顔の傷を見ていたの。ちょっと腫れてるくらいで、大したことなかったよ・・・」
真理奈「・・・」
ルナ「・・・お母さん?」
真理奈「ううん。ルナは本当に優しい子だなぁ、って思ってね」
ルナ「そ、そうかな?」
真理奈「そうよ・・・それなのに、ごめんねルナ(落涙)」
ルナ「っ、どうしたの!?」
真理奈「さっき私は疑ってしまった。あなたが、あの男の人を殴っているって。ルナは優しい子なのに、ルナがそんなことするわけないって分かっているのに・・・ほんと、愚かな母親よ・・・」
ルナ「そ、そんなことないっ!愚かだなんて・・・お母さんが愚かなわけないよ!!」
真理奈「っ!」
ルナ「優しくて、いつも私のことを考えてくれる・・・そんなお母さんが、愚かなはずがないもん・・・!」
真理奈「ありがとう、ルナ・・・」
ルナ「うん・・・」
ルナ(お母さんは優しい人。だからこそ、悪い人に利用されてしまう・・・誰にだって、お母さんを傷つけさせやしない。お母さんは、私が守るんだ・・・!)
―――――
―――
―
ルナ「そうだ。私はお母さんのために、復讐を始めたんだ。私を嵌め、お母さんを傷つけた報いを受けさせるために・・・!」
片桐「正解だ」
ルナ「っ、正解って・・・どうしてお父さんが正解だって言い切れるの?」
片桐「それが、母さんと離婚した理由だからだ」
ルナ「えっ・・・?」
片桐「俺は母さんを傷つけないために。お前を傷つけないために離婚したんだ。だが気を悪くしないでくれ、お前が悪いんじゃない」
ソエル<・・・!>
ルナ「私たちのために、離婚した・・・意味が分からないよ」
片桐「あぁ。分からなくていい。俺はそんな話をしに来たんじゃないからな」
ルナ「・・・」
ソエル「いいや、話しやがれ・・・!」
片桐「っ、その口調・・・また入れ替わったのか。たしか、ソエルだったっけ?」
ソエル「なにが母さんのためだ、何が俺のためだ・・・綺麗事ぬかして、自分のしたことを美談にしようとでもしてんのか!?」
片桐「いいや。言ったところで理解されないだろうから、あえて言わないだけだ。今は時間もないしな。ま、いずれ話すさ」
ソエル「逃げんのか・・・?」
片桐「逃げるだなんて言ってない」
ソエル「じゃあ今ここで言え!」
片桐「・・・なるほど。分かった気がする。お前が俺に抱く妙に強い嫌悪感の正体は、母さんと離婚したことにあったのか」
ソエル「あァそうだ。母さんが言ってた。『離婚は父さんから切り出した』ってな・・・どうせ他に女でも出来たから、母さんを捨てたんだろうが!」
片桐「はっはっは、なかなかユニークで凡夫な発想をするんだな、お前は」
ソエル「なにがおかしい!?」
片桐「いやいやすまない。とんでもない誤解をしているから、面白くてつい」
ソエル「じゃあ、なんだ。なんで母さんを捨てた!?」
片桐「・・・俺は刑事だ。この世から悪が消えない限り、俺の仕事は終わらない。とくにお前が小さかった頃はとくに忙しくてな、家に帰ることも少なかった」
ソエル「それで・・・?」
片桐「それだけだ。俺は家に帰ることなく、母さんに寂しい思いをさせていた。だから別れた」
ソエル「あ?」
片桐「長い間、お前らに寂しい思いをさせるくらいなら、いっそのこと別れたほうが楽なんじゃないかと思ったんだ」
ソエル「・・・意味がわかんねぇ」
片桐「だ~から言ったでしょ。理解されないって。だがこれだけは分かってくれ。俺はお前たちを捨てたんじゃない。むしろお前たちのことを愛していた。それは、今も変わらない」
ソエル「ケッ、戯れ言を・・・」
片桐「信じられんか?」
ソエル「あたりめーだろ」
片桐「そうか・・・じゃああんまり言いたくないんだけどな、母さんの通帳に毎月10万振り込まれてるだろ」
ソエル「・・・あァ、あの意味不明な入金か。あるけど・・・なんでお前が知ってる?」
片桐「あれ、俺だから」
ソエル「は?」
片桐「俺は毎月、お前たちの家に金を入れている。ささやかな金額だがな」
ソエル「!」
片桐「それを愛と呼んでいいのか分からん。しかし現状、それが1番愛に近い行為だと俺は思ってるんだが・・・ダメか?」
ソエル「・・・ダメだね」
片桐「ダメでした」
ソエル「そんなモンは愛なんて呼ばねぇ。バカも休み休み言うんだな」
片桐「・・・そうだな。やっぱ理解されるわけないよなぁ」
ソエル「たりめーだ。金で愛を得ようなんて虫が良すぎる。お前の愛を理解してほしけりゃ、行動で示してみろ・・・クソ親父」
片桐「!」
ソエル「お前は俺たちを捨てたサイテーなクズ野郎だと思ってたが、どうやらそうじゃなかったみてぇだ・・・お前の話を全て信じたわけじゃねぇが、嘘を言ってるとも思えねぇ。だからあとは、お前自身が証明しろ」
片桐「ソエル・・・!」
ソエル「さぁ話せよ、続きを。ルナが通り魔であることを突き止めた・・・それで終わりなんかじゃねぇだろ。あるんだろ、続き?」
片桐「あ、あぁ」
ソエル「じゃ、あとはルナ自身に任せるから、2人で好き勝手話しな。せいぜい、ルナを守ってやるんだな・・・」
片桐「待て」
ソエル「・・・なんだ?」
片桐「ありがとう、ソエル。今までルナを・・・母さんを守ってきてくれて」
ソエル「ケッ、そんなつもり微塵もねぇよ。俺はただ、自分の存在を守るために行動してきただけだ」
片桐「ふっ、そうだな。これからもよろしく頼む、ソエル」
ソエル「・・・うるせぇよ」