#19 Beyond the 33-4
前回までのあらすじ
1ヶ月ぶりの更新
電波暗室
ルナ「ただいま」
嘉雅梨「おうルナ、遅かったな。親父さんとなに話してたんだ?」
ルナ「まぁ、色々と」
嘉雅梨「そうか・・・浮かない顔してるけど、なんかあったか?」
ルナ「・・・」
嘉雅梨「・・・ルナ?」
いちご「自分のやろうとしていることに、迷いが生じている」
ルナ「っ!」
いちご「さしずめそんなところだろう・・・違ったか?」
ルナ「ま、まぁおおむねその通りだけど・・・どうしてわかったの?」
いちご「単純。私は天才だから」
ルナ(便利だな、天才)
嘉雅梨「で、何に迷ってんだよ?」
ルナ「・・・343プロへの復讐」
嘉雅梨「そうか~復讐か・・・でぇっ、復讐!!?」
ルナ「・・・ごめんね嘉雅梨さん、今まで黙ってて」
ルナは嘉雅梨といちごに事の経緯を話した。
自分がアイドルをやっていたこと。343プロ不祥事をでっちあげられ、引退に追い込まれたこと。
立ち直れず、家に引きこもっていたこと。部屋で復活の呪文を唱えていたこと。
そして、奪われた名誉を取り戻すため、343プロへの復讐をはじめたことを―――
いちご「・・・」
嘉雅梨「・・・」
ルナ「ごめんなさい、全ては私が招いたことなの。お母さんのためにやってきたことが、逆にお母さんを傷つけてきた・・・」
いちご「・・・」
ルナ「嘉雅梨さん、前に言ってくれたよね。『私が悪い奴には思えない』って。でも、全然違うの。私は悪い子なんだよ」
嘉雅梨「・・・なんで、言ってくれなかったんだよ」
ルナ「ごめん・・・!」
嘉雅梨「お前が・・・アイドルやってたなんて・・・!!」
ルナ「そこ!!?」
嘉雅梨「なんで今まで黙ってたんだよ!!」
ルナ「いやまぁ、元だし・・・自分で言うと自意識過剰みたいに思われるから・・・」
嘉雅梨「いいじゃねぇか自意識過剰で!!アイドルやってたなんてスゲーよ。大スターじゃねぇか!!」
ルナ「か、嘉雅梨さん・・・怒ってないの?」
嘉雅梨「怒ってるわ!!!アイドルやってたの黙ってやがったんだから!」
ルナ「そうじゃなくて!私は嘉雅梨さんを裏切ったんだよ・・・?」
嘉雅梨「あ、いつだよ?」
ルナ「さっき言ってくれたよね。私のことを『悪い奴とは思えない』って。でも実際はとんでもなく悪い奴だった・・・信じてくれた嘉雅梨さんを私は裏切った・・・そうでしょ?」
嘉雅梨「いや、裏切られてねーけど」
ルナ「どうして・・・!」
嘉雅梨「だって、アタシはお前のことを悪い奴だって思ってないからな」
ルナ「っ」
嘉雅梨「お前は自分が悪い奴だって思ってるのかもしれねぇ。でもそれは、あくまでお前の中の話。アタシには関係ない。アタシがお前を悪い奴だって思ってないから、お前はアタシを裏切ったことにはならない・・・ちがうか?」
いちご(うーんこの根性論)
ルナ「・・・」
嘉雅梨「もういいじゃねぇか、そんな話。それより、お前は復讐を続けるつもりはあるのか?」
ルナ「っ、それは・・・」
嘉雅梨「迷ってんのか、まだ」
ルナ「うん・・・これ以上復讐を続けると、またお母さんが傷つくかもしれない・・・」
嘉雅梨「バカか、お前」
ルナ「ふぇっ!?」
嘉雅梨「お袋さんを守るために復讐を始めたけど、お袋さんを傷つけちまった・・・だからもう復讐をやめようって思ってんなら大バカだ。逆だぜ逆」
ルナ「・・・え?」
嘉雅梨「お袋さんを二度と傷つけないために、復讐をやり遂げるんじゃねぇか。バカ」
ルナ「!」
嘉雅梨「野球の例えだ。7回終了時点、33-4でお前は負けてる。『もう勝てないから諦めようかな』、お前は今そう言ってるんだぜ」
嘉雅梨「今はまだ負けてるかもしれねぇ、圧倒的に。でもな、まだ2回も残ってんだ。その2回で30点取れば勝てるかもしれねぇんだぜ?」
いちご(既にコールド負けな気がするが)
嘉雅梨「おいいちご。テメー今コールド負けだとか思っただろ」
いちご(なっ、私が読まれた・・・!?)
嘉雅梨「・・・真剣勝負に、コールドもリタイアもねぇ。雨だろうが嵐だろうが試合は9回までやるんだよ。勝負は最後まで何が起きるか分からねぇからな。それでだ、ルナ・・・」
嘉雅梨「お前が残り2回の攻撃で勝とうって言うなら、アタシが4番で参戦してやる」
ルナ「・・・それって、どういう?」
嘉雅梨「お前の復讐に付き合ってやるって言ってんだよ。1人より2人のほうが、効率いいだろ?」
ルナ「なっ、そんなのダメだよ!」
嘉雅梨「なんでだよ。野球はエース選手が多い方が勝てるだろ」
ルナ「そりゃそうかもしれないけど、これは野球じゃないし・・・」
嘉雅梨「バカ、人生の全ては野球に詰まってんだよ!」
ルナ「嘉雅梨さんまで危険な目に遭うかもしれないんだよ!!!」
嘉雅梨「じゃあ、ダチが危険な目に遭うのを黙って見てろって言うのかよ!!?」
ルナ「っ!」
嘉雅梨「前に言ったよな、アタシが勝手にやってるだけだって。だからアタシは勝手にやる。勝手にお前に協力する。なにか問題があるか?」
ルナ「・・・」
ルナ(お父さん、どうやら私・・・一人じゃないみたい)
ルナ「無ぇな、ノープロブレムだ」
嘉雅梨・いちご「!?」
ルナ「・・・え、2人ともどうかした?」
嘉雅梨「いや、なんか急に口調が変わったからビックリしてよ」
いちご「人が変わったようだった」
ルナ「えっ・・・ウソ!?」
ルナ(・・・ソエル、いま私の代わりに喋った?)
ソエル<喋ってねぇよ。お前が勝手に俺の口調を真似ただけだろうが。自覚ねぇのか?>
ルナ(な、ない・・・)
ソエル(・・・。)
ソエル<どうやら、残された時間は少ないようだぜ>
ルナ(えっ、それってどういうこと?)
ソエル<・・・それより、カガリが呼んでるぞ>
嘉雅梨「ルナ・・・ルナ!!?」
ルナ「ふぁいっ!!?」
嘉雅梨「『ふぁいっ』じゃねぇよ、なにボーっとしてんだよ。聞いてんのか!?」
ルナ「え、なんだっけ」
嘉雅梨「あーーーもう!!!お前はアタシが協力するってことに対して『ノープロブレムだ』って言った・・・ノープロブレムってのはいちご曰く『問題ない』って意味らしいな」
ルナ(意味わかってなかったんだ・・・)
嘉雅梨「問題ない以上、アタシはお前に協力する。お前が復讐を果たすまでな・・・それでいいんだな、ルナ?」
ルナ「もちろん・・・でもこれだけは約束して。嘉雅梨さんの身に命の危険が迫ったら、すぐに逃げるって」
嘉雅梨「わーってるよ、死んじまったら元も子もねぇからな。ただし、そん時はお前も一緒に逃げるんだぞ」
ルナ「うん、わかってる」
嘉雅梨「よし、そうと決まればさっさと行くぞ。世話になったな、いちご」
いちご「・・・どこへ行くつもり?」
嘉雅梨「あァ、どこってそりゃあ・・・・・・どこだルナ?」
ルナ「えっと、それは・・・」
いちご「・・・あなたたちは重大な勘違いをしている。しかも2つ」
いちご「1つ。大雑把なゴールだけ掲げ、そこに至るまでのビジョンを何一つ明確にしていないこと。いわゆる計画不足。小さなゴールならいいが、壮大なゴールゆえに計画もないまま行動するのは失敗確率をいたずらに高めるだけだ」
嘉雅梨「ま、まぁそうだよな。別に言われなくても分かってたけど・・・で、2つ目はなんだよ?」
いちご「嘉雅梨はさっき、復讐を果たす上で『1人より2人のほうが効率』と言った。それが2つ目」
嘉雅梨「んだよ、協力しないほうがいいってのかよ?」
いちご「違う」
嘉雅梨「はぁ、じゃあどういうことだよ!?」
いちご「『2人より3人のほうがもっと効率的』・・・私が言いたいのはそれだけ」
ルナ「・・・っ、それってまさか!?」
いちご「あぁ。西覇王ルナ・・・私もあなたの復讐に協力しよう」




