表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『怒鳴くん』

作者: かげる

 給食の食器を重ねてカゴに入れた。それから取っ手を持って二人掛かりで運んでいる。そんな時、私の背後から声を張り上げられた。


「速く行けや!」


 その声の主は怒鳴くんだった。彼はとても優しい人だ。通路が渋滞にならないように、前の人を急かしている。私も同じように前の人を急かさないといけないのかもしれない。でないと、私だって前に進めない。


「邪魔だクズ」


 と、横合いから抜かしていく人がいた。なぜ、私が『クズ』だとバレたのだろう。隠せていると思ったのだが……。存外に人の目はごまかせないらしい。


「ほら、速くしろよ!」


 後ろの方から怒鳴くんの声が聞こえる。怒鳴くんは、いつも嫌われ役をやっている。特に、私に嫌われ役をやっていた。いつも内心『死ねえ!』と思いながら彼の怒鳴り声を聞いていた。だって、腹が立つのだから仕方ない。でも、そんな感情と同時に、優しさも感じている自分がいた。


「おい〇〇! 調子こいて休んでんじゃねーぞ! 速くしろ!」


 死ね。


「後ろがつまってんだ! 速くしろ!」


 死ね。


「後ろの人のことも考えろよ! 速く進め!」


 死ね。うん。私はどうやらクズで正解だ。怒鳴くんになにを言われても『死ね』と心の中で反復するだけなどうしようもないクズだった。














 だが。


 クズにはクズなりの、場のしのぎ方がある。それを私が、見せてやろう。


「おい速くしろ」

「邪魔だ、邪魔だー!!」


 根暗で地味な私は、大きな声を上げて前の人を抜かしてどんどん突き進んで行った。


「どけどけー!! 〇〇様のお通りだぁぁ!! オラオラのろまな奴は道を開けろぉぉぉぉ!!」


 根暗で地味な私は、食器カゴを持って進んだ。カゴの、もう片方の取っ手を持ってくれてる人が、ドン引きして顔を引きつらせていた。すまない。だが、これが私だ。


 現在。怒鳴くんの怒鳴る声は、かなり後ろの方になって聞こえなくなっている。私は、やっと息苦しさから解放された。彼は優しい人だ。自分のために、そして、他人のために動くことのできる素晴らしい人格を持っている。でも、私は、それが看過できないのだ。


 だってクズだから、仕方ない。


 誰かを責めるくらいなら、私は、誰かに『死ね』って思う。余程のことがないと、けして、口には出さない。心のストレスは、なるべく少ない方がいい。


 あの優しい人は、今、どうしてるだろう。後ろを振り向いてみても、そこにはあの高圧的な喧騒は聞こえてこなかった。私は、安堵の息を吐いた。


 ほっと一息。人と関わるって、緊張するなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] クズ、根暗、地味、優しいなどいろいろな表現が 書かれていてわかりやすく、面白かったです。 [一言] 他の作品も読ませていただきますね!
2019/07/29 22:11 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ