修羅場と入れ物と中身
「これはまた……随分と高貴な人物と知人だったのだな」
「知人っていうよりかは、幼馴染じゃないかな? 生まれたばかりの頃に出会ったし」
「そうなのか?」
「どさくさに紛れて変なこと教えんじゃねえ!
“ルカが” 生まれたばかりの頃だろうが!大体ルカの自我構築システムは身体が出来たときには完成済だったつーの!!」
人造人間とは聞いていたが、大分メカメカしいタイプだったようだ。そんなものまで転生できるとは、魂の概念というものは緩いのだな。
「でも、幼馴染ってお得だよね。少女漫画だと、小さい頃から好きで、高校生くらいでくっつくって相場が決まっ──」
「決まってねーし!後から出てくる主人公のライバルキャラになるのが多いってーの!」
「じゃあ統計でもとってみるかい?」
「望むところだな!」
「2人ともどうしてそんなに少女漫画に詳しいんだ……」
ともかく、2人の会話から察するに、テオと知り合う以前に、レオン王子と面識があったようだ。
余談だが、幼馴染キャラに関しては、彼女より大切にされる幼馴染もいるので一概には言えない、というのが私の持論だ。
「と、に、か、く、だ!心守のために特別に一緒にいるのを許すんだからな。くれぐれも手ェ出そうなんて考えんなよ?」
「おや、キミが大切なのはルカくんだろ?あくまで、『こもるちゃん』は入れ物でしかないワケで」
ニヤリと。小鳥遊先輩は不敵に笑う。
単に、美人を茶化そうとしたのだろう。
事実でしかないそれが、少し、胸に重たかった。
美人にとって私は、ルカという人間の魂でしかなくて。
小鳥遊先輩の言う通り、この体は入れ物でしかない。
どこまでが魂でどこからが身体かなんて知る由もないが、少なくとも美人が用があるのは『私』ではなく『ルカ』だろう。
すると、美人が。
「てめェ、今のもっかい言ってみろ」
小鳥遊先輩の胸ぐらを、思いっきり掴んでいた。
……いや待て待て待て!流石にそれはまずい。いくら親しいとは言えど、小鳥遊先輩にそんなことをしたら、全校生徒を敵に回しかねない!!
「……何か、まずいことでも言ったかい?」
先輩は涼しい顔をしている。簡単に振りほどけるだろうにそれをしないのは、余裕の現れだろうか?
始業式早々修羅場すぎる。
「………ヤ、わかんねえか、てめェには」
美人は小さく舌打ちをして、ようやく小鳥遊先輩を解放した。
今の場面を誰かに見られていないことを確認する。よかった。とりあえず周りに人はいなかったようだ。
「入れモンと中身の境って、一体どこなのかね」
先程私が思ったことを、もっとずっと深刻そうに、少女は呟いた。