王子様
「おーい、小鳥遊せんぱーい」
呼んでいいのか!?見たところ、相当な人数の女子生徒に囲まれているようで、170cmの長身のお陰で頭は見えているものの…
「あ、みひとちゃんじゃないか」
その小鳥遊先輩は喜色を満面に浮かべて女子生徒の山を掻き分けてくる。その際、「ごめんね、小鳥ちゃん」「また会いに行くよ」などと囁くことも忘れない。
流石は学校の王子様といったところか。
「おや、こもるちゃんがいるってことは…」
「そうなんです、いてもたってもいられないと思って、後をつけてたらバレちゃって」
「まあ、どうせこうなったんだし、いいんじゃないかな」
「良かった!怒られちゃうかと思いました」
「まさか。君のルカくんへの想いは知ってるからね、怒るわけないよ」
美人と小鳥遊先輩が親しげに話していることにも驚いたのだが、それ以前に、そう。
美人、喋り方変わりすぎじゃないか?
まさか、前世で知り合いだったとはいえ、いやだからこそ、意中の相手……なのだろうか。
ありうる。大いにありうる。
元々美人は男が好きであったようだし、今や女なわけで、王子様に夢を見ていたとしてもおかしくない。今も見せている、麗しい金髪を揺らして笑う様は、一部の女子の間で国の文化財だと言われるほどだ。
「あの、心守も戸惑ってますし、一旦場所を変えません?」
「そうだね、あらぬ誤解を生んでいるようだし、ね」
「誤解?」
「ふふっ、こもるちゃんは顔に出やすいんだね」
言われるがまま、体育館裏へ移動する。始業式前とあって、人気は一切無い。
「おーい、心守?」
「……ハッ」
「起きたかな?」
しまった。小鳥遊先輩と美人の喋り方という二つの衝撃で我を忘れていた。
「どした?」
「……名前、呼んだな」
「アタシだって人の名前くらい呼ぶぞ」
「そ、うだな」
何故だろう、会ったばかりだが、今まで「お前」と呼ばれていたのに名前で呼ばれると、どうにもくすぐったい気がする。
「へえ、もう仲良くなったんだね」
「うっせえ」
おや、喋り方が戻っている。
やはりこちらの方が、聞き慣れた感じがして落ち着くな。
「さて、じゃあ自己紹介でもしようか」
「いや、小鳥遊先輩のことは有名だから存じ上げている」
「そう言わずにさ」
そう言うと小鳥遊先輩は王子様らしく、胸に手を当てて自己紹介を始めた。
「初めまして、こもるちゃん。ボクは小鳥遊刃。
好きなものは小鳥ちゃんたちと美しいものだね。もちろん君も美しいから好きさ。
それと、前世での名前はレオン・シュバルツ。ま、ルカくんは専ら殿下って呼んでたけどね」
「テオはクソ王子って呼んでたぞ」
「そんなところもテオくんの魅力さ」
殿下、クソ王子、ということは。
「つまり、先輩は前世では、王子……?」
「そうさ、第一王子だね」