ある意味刺客
「衝撃な……しょーじき言って、アタシ……っつーかテオがいた世界は、男色は少なくなかったし、そこんとこのギャップとか、たまに戸惑うんだよな」
「………そんなものか?」
「そんなもんさ」
世界に置いてけぼりを食らったような感覚なのだろうか。生まれ変わる前の記憶があるというのは、難儀なものなのだろう。
その点、前世で深い業があっただろう私が記憶を持っていないのは、ある種の救いでもあるのか。美人が言うには、取り戻さなければならないようだが。
「で、ルカは人造人間だったんだけど───」
美人が話を再開しようとしたとき、校門に着いてしまった。見覚えがなかったということは違うクラスなのだから、もうすぐ別れなければならないだろう。
「美人、私とキミは違うクラスだろう。話がまだ続くなら、キリのいいところで終わりにしないか?」
「えっ、あっ、おう」
美人が何故か目を白黒させている。おかしなことでも言ってしまっただろうか?
「何かおかしなことでも言ったか?」
「や、名前、呼んだなぁと」
「ああ、呼んだな」
「……初めて、呼んだなと」
「私だって人の名前くらい呼ぶぞ」
「お、おう、そうだよな」
すると突然美人はこちらをバッと振り返り、
「言っとくけどな、アタシはルカが好きなのであって、お前は眼中にねえからな!!」
と強い語気で言い放った。
「当たり前だろう? キミも私も今は女であるし、私はその……ルカ、ではないからな」
「おう、よく覚えとけよ」
記憶力はあまり自信がないが、努力するとしよう。
「あとな、お前忘れてるみたいだけど」
「何だ?」
「今日、始業式だぞ」
そうだ、忘れていた。
別に作者が何の考えもなく始めたとかそういうことではない。
単純に、私が忘れていた。その一言に尽きる。
おい、そこの読者、疑うな。
「とりあえず、クラス割り見に行くか」
「そうだな」
クラス割りは確か昇降口に貼ってあるはずだから、そちらへ向かう。
「あ、それとだな、この学校にはアタシ以外にもルカとテオの近くにいたやつがいる」
「………奇跡か?」
「や、多分神の思し召しとかじゃね? 人数結構いるし」
これから私はその結構な人数とやらに付き纏われるのか……。
項垂れていると、昇降口前の数メートル手前に見慣れた人だかりを発見した。
「小鳥遊先輩は3年になっても女子生徒に人気があるのだな」
小鳥遊刃、読みはタカナシヤイバ。上はセーラー服、下はスラックス、身長170cm、性別不詳。
生徒を先輩、後輩、容姿問わず「小鳥ちゃん」と呼び、その端正な容貌から、男子生徒、ひいては教師にまでファンは多いという噂だ。
噂に疎い私までその存在と身長を知っているほどの、学校内の有名人。
「ああ、アイツもルカの知り合いの生まれ変わりだ」
よりによって、一番面倒そうな人が前世持ちだったらしい。