銃口
「恋、人」
「そ、恋人。」
なるほど、私とこの少女、八方美人が前世で恋人、なるほどなるほど……
「精神科の受診を強くお勧めする」
「なんでだよ!?」
なんでも何も、突然初対面の人間にそんなことを言われれば、正気を疑うのも当然だろう。
「それとも何だ、私と仲良くなりたくて、冗談のつもりで言ったのか?生憎あまり面白くなかったぞ」
「冗談でンなこと言うかっての、天然か!」
ふむ、この少女、なかなか良いツッコミのセンスの持ち主のようだ。評価が少し上がった。
これでもお笑い番組は、人より嗜んでいる自負がある。
「そうだった、コイツこういう奴だった……」
美人は遠い目をしている。やはり精神科を受診するべきではなかろうか。
ともかく、忘れてはならないのは、今が登校中だということだ。
「すまないが、学校に遅れてしまう。キミもだろう?まだ話があるのなら、歩きながらにしてくれないか」
「それもそうだな、このままだとお前ちゃんと話聞かねえし」
こうして、私の静かな日常は崩壊を告げる。
◇◇◇
「まず、キミの目的が聞きたい」
「ん。アタシのやるべきことは2つ」
まずひとつめ、と美人はその長い人差し指を立てた。
「お前とできる限り長く、できる限り近くにいること」
「……つまり、私はキミに今後付き纏われるとでも?」
「せーかい、流石、理解が早い」
褒められても全くもって嬉しくない。
ふたつめ、とまた美人は追加で親指を立てた。
そこは中指ではないのか?
「お前に前世の記憶を思い出してもらうこと」
「本当にそんなものあるのか?」
「ま、疑うのも無理はない」
そう言って美人は、L字になった自らの手の人差し指側を私に向けた。ご丁寧にもう片方の手で反動を抑えようと銃身──に見立てた手──を支えている。
「こうすりゃ分かるだろ」
何をする気だろう?まさか、拳銃で撃たれる真似事をするだけで記憶が戻るなんてことはあるまい。
これがもし実際の銃で、私を殺そうとしている、なんてことなら別だが……
「バーン」
「………………っ!」
美人の唇が銃声を紡ぎ出した時には、既にその銃口、正確に言うならば人差し指は、ひっくり返って彼女自身の眉間を狙っていた。
私の手によって。
「つまりこーゆーこと」
「………なるほど、その点については、考えを改めよう」
美人の腕から固めていた自分の腕を解く。
こんな腕の絡め方、見たことがないしましてややったこともない。
考える間もなく、体が動いていてたとしか言いようがなかった。
しかもこんな反射神経、私は持ち合わせていない。
こうして生まれいでる以前、私は相手が殺意を持っているなら容赦なくそれを返せる人間だった。そういうことだろう。
「ああでも安心してほしい、ルカはそれはそれは優しい男だった……しかも超絶イケメンだ。ある時なんかは、道端で死にかけてた鳥を──」
「もういい、分かった……しょうがない、私はキミを受け入れざるを得ないようだ」
ここまで来れば、自らの前世について知りたいと思う気持ちが頭を擡げてくる。
何より、真似事とはいえ相手に銃口を向けられる人間が私の中にいると思うと、薄気味が悪くて仕方がない。
「良かった、これで納得してくれなきゃどうしようかと思ったぜ」
「……それで?やるべきことは聞いたが、目的は聞いてない」
「おっとそうだ、これが一番重要だ、よく聞け」
言われなくても聞く。
「お前の、ルカの魂が消えかかってる」
キャラがブレる…(涙)