☆ 運命の出会い
「チッ、逃げやがった!追え!」
はっ、こんな豚共に俺が捕まるかっての。貴族やその護衛共は、普段から良い飯食って太ってるからか動きが鈍い。
俺はこのために鍛えたんだ、覚悟が違う。
どんなに敷地を塀で囲おうが、ちょっとした凹凸に足をかけりゃこの通り、
「……よっと!」
ひとっ飛びさ。
さて、大きな通りへ出たけど、まずはどちらへ逃げようか……とりあえず、左かな。
と、思って走り出した矢先。
ドンッと、割としっかり正面から誰かにぶつかった弾みで、俺は尻餅をついた。
「うぉっと……ってて、悪い、大丈夫か?」
腰に括りつけているアイツらから盗んできた金が無事であることを確認して、ぶつかった相手を見ようと視線を上げる。
すると、やけに風体の怪しい顔の整った人間が、俺と同じように尻餅をついていた。
背は見た感じ、俺と同じくらいか。歳はいくつだろう、同い年の十八と言われても納得できるし、四十と言われても不思議に思わないような感じ。
服装は、全体的に高そうな布だけど、貴族だったらもっと派手だし、商人だったらもっと小綺麗、悪党だったらこんな堂々とできない。
腰に下げてるのは、短刀だな。護身用にしては、鞘に使い込まれた跡がある。この街ってそんなに物騒だったか?
顔に一房垂らした前髪は邪魔そうだが、人のキューティクルってこうも輝けるんだな、烏の濡れ羽色ってこんな色を言うんだろう。
男…?にしては睫毛が長いし線が細い。
「問題ない、そちらこそ怪我は無かったか?」
そいつは紫なんだか青なんだかピンクなんだか、表現し難いけどとにかく綺麗な色の瞳を瞬かせながら立ち上がった。敢えて例えるならそうだな、魚の鱗が一番近いかもしれない。
声は低い。多分男だ。
おっと、偶然ぶつかった奴の見た目に気を取られてる場合じゃない。
「ああ、悪いがこれから今日の寝床を探さなきゃなんねえ。急いでるんでまたな!」
そう言い残して、俺は今度こそ走り出──そうとした。
「待ってくれ!」
さっきの男に呼び止められて、思わず足が止まる。
まさか、盗みを働いたことがバレたか?このご時世、今日の寝床すら危うい奴なんてごまんといるが、塀を乗り越えるところを見られていたならかなりヤバい。
通報されたら一巻の終わり。またあんなとこに逆戻りだなんて死んでも御免だ。
いっそ手荒な真似でもしてしばらく──
「キミさえ良ければなんだが……僕と共に住んではくれないだろうか?」
「は?」