運命の出会い(仮)
夢を見ていた。
夢の中の私は妙に視点が高くて、隣で嬉しそうに笑う赤毛の青年を、ただ見つめていた。
辺りの街並みも、その青年も、まるで記憶にない筈なのに、ああ幸せだと、確かにそう思った。
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最近、視線を感じることが多々ある。
それは例えば体育の授業中であったり、下校中であったり、給食中であったり。
気のせいじゃないかと思うかもしれない。
私も最初は思ったし、思っていたかった。
今朝のことだ。
女子中学生の朝は早い。本日も規則正しく5時に起床をキメた私は、自宅から学校までの無駄に長い通学路をそれこそコンパスのように一定の歩幅とリズムで歩いていた。機械的な動きは、昔からの譲れないこだわりである。何故か心が落ち着くのだ。
通学路が長いのは、片田舎に住んでいるため学区が広いからだ。傾斜のある道も多いため、我が校の陸上部はそれなりに優秀な成績を収めている。
と、その時だ。また視線を感じた。
流石にこう何度も何度もあっては、ストーカーの存在を少しは疑っても許されるのではないか?
自分の容姿にそこまで自信は無いが、世の中には変態が多いと聞く。私を構成する何らかの要素に興奮を覚える野郎がいないとも限らない……のか?
だから、そう、ほんの遊び心だ。
早朝と言って差し支えないこの時間帯。セーラー服の少女が突然背後を振り返ったって、誰も見てやしないだろうと。見ていたとしたって、近所の野良猫のゴエモンくらいだろうと。
振り返った。そして、見た。
想定していた野郎は、当然いなかった。
が、私と同じセーラー服の少女ならいた。
電柱に隠れて、張り込みをする刑事の如く、私を見つめていた。
「……何をしているのか、聞いてもいいのか?」
「ダメって言ったら?」
「………すまない、質問が悪かった」
美少女というべきその顔にそぐわぬ、不敵な笑みだった。
髪も瞳もアンティークの家具のようなブラウンで、大きな瞳とくっきりとした二重瞼が羨ましいほどに黄金比を形作っている。
髪型は…そうだな、ハーフアップの纏める方の束が三つ編みにしてあって、下ろした方の束は右に流している、と言えばいいのか。
私より少しばかり背は低いのだが、スタイルが良い所為か、あまりそんな印象は受けない。
「何をしていたんだ?」
「お前を見てたんだよ」
「それは見れば分かる」
「じゃあ一体何を知りたいってーの?」
掴みどころがない、というか、私はこういった会話は好きなのだが、ともすれば面倒臭いと受け取られかねない話し方をする。
「では…何故、私を見ていたんだ?」
「見つかっちゃった以上はしょーがねェよな…」
ボリボリとその少女は乱暴に頭を搔いた。三つ編みが全く崩れないのは何故だろう?
「ではやはり、ここ最近の気配はキミだったのか」
「気づいてたのかよ、やっぱ変わんねえな」
そう言うと、彼女は懐かしそうに、なのか、若しくは愛しそうに、なのか、とにかく目を細めた。
「変わらない、か……すまないが、私はキミに会った記憶が無い。名札の色からして、同級生だとは思うが…」
「ん、知ってる。じゃあ覚えてよ、アタシの名前はヤカタミヒト。はっぽうびじんって書くんだ、覚えやすいだろ?」
八方美人。確かにこれ以上ないほど覚えやすいことこの上ない。
相手に名乗られたのならば、それがどんな相手であろうと自らも名乗らねばなるまい。
「私はきりさ───」
「それも知ってる。キリサキコモル、木材の桐に山崎さんの崎、心を守るで桐崎心守。好きなものは小動物とマカロン、特技は辞書の一発引き。苦手なものはワサビとナスと雨上がりの匂い……どう?」
「………全て当たっている」
驚いた。雨上がりの匂い──あれはぺトリコールというらしいが──が苦手なのは、あまり人から理解されにくく、家族にしか話したことはない。
何故この少女、美人は、そんなことまで知っている?
「なんでアタシがこんなにお前に詳しいのか、知りたいって顔してるな」
「知りたいだろう。というか、キミも教えたいのではないか?」
「ははっ、そうだな、一理ある……単刀直入に言おう」
もはやあまり単刀直入ではないとは思うが、美人はここで1度楽しそうにもったいぶった。
「アタシとお前は前世で───恋人だったからだ」