第7話:錬金術と管理人
第7話になります。
寒さのせいで手がかじかんでしまいなかなか執筆が進みませんw
流石にそろそろストーブ出すべきかなぁ。
第7話:錬金術と管理人
穏やかな日差しが差し込み始める時間.....。眠りから覚めたレンゲはまだ残る眠気を感じながらも、顔に感じる柔らかい感触から離れられずにいた。
「アイシャのおっぱい......フワフワ.....くぅ」
「れ、レンゲちゃん?起きたならそろそろ離して欲しいな〜」
「やぁ......」
「やぁって.......」
昨日はバランスのいい食事が大事と言っていたレンゲ。なら、早寝早起きは大事ではないのだろうかと苦笑を浮かべるアイシャだったが、レンゲの可愛さには敵わなかったらしい.....頭を撫でながら寝顔を堪能する事にした。
10分後......。
「んぅ.........おふぁよ...う」
「おはよ〜レンゲちゃん」
「ん......ご飯、作らなきゃ」
「朝ご飯は何かな何かな?」
「ん〜.......昨日買っておいたパン、と.....スープの残りと.......目玉焼きにベーコン、かな」
そう話しながらキッチンへと移動した2人。レンゲはアイシャにスープを温め直すようにお願いすると、自身は目玉焼きとベーコンを焼き始めた。
焼けるまでの間に、食パンっぽいパンにバターを塗ってからオーブンで少し焼いておく。
「目玉焼きは半熟としっかり焼くのどっちが....良い?」
「半熟で!トロトロでお願い!」
「ん.....了解」
昨日と違って手間のかからないメニューだったため、ものの数分で完成。それでもアイシャにとってはいつもより豪勢な朝食だったらしく、驚いたレンゲは今までどんな生活をしていたのか聞いて見る事にした。
「え?今まで?........ん〜.....朝食は安宿の堅パンとお水とちょっとしたサラダ、昼食は干し肉とかでしょ?で、夕食はリーダーたちと酒場で安酒とおつまみ......みたいな?」
「アイシャ..........これからは、ちゃんと.....食べさせてあげるから、ね」
あまりの酷さに、思わず涙が出そうになってしまったレンゲ。自分の分のパンを1枚アイシャにあげながら、二度とそんなひもじい思いはさせないと心に誓った。
「あれれ?泣くほど!?でもでも、低ランクの冒険者は皆んな似たようなものらしいよ?」
「そんな筈......は、無いと思うけど....」
レンゲはそう思ったが、実際の所......アイシャの話もあながち間違いではない。一般的に、E〜Cランクの冒険者は駆け出し〜初級冒険者と呼ばれている。このランク帯だと受けられる依頼も数は多いが報酬の少ない物が多く、また人数も多い事から報酬のいい依頼はいつも取り合いが起きるほどなのだ。そういった事から、当然収入なんて多いわけもなく......はっきり言ってハイリスク、ローリターンな職業と言わざるおえない。
それでも、冒険者になりたいと思う者が多いのは、高ランク冒険者になった時のことを夢見ての事なのだ。
Aランクになれば晴れて高ランク冒険者と呼ばれるようになるのだが、ここまで来る頃には見た目からして全然違うのだ。装備は高級品だし使うアイテムもハイポーションやフルポーション。また、収入も相当多くなるので貴族にも負けないような食事が出来るようになってくる。
ただし.....それはほんの一握りの者たちに許された特権みたいなものだ。大抵は中級にすら上がれない者たちばかりで、ちょっとしたミスなんかで死んでしまう者たちも多いのが現状だったりする。
だからこそ、Aランク冒険者の者たちは憧れの対象であり、また目標でもあるのだ。
「そう言えば、今日の予定は決まってるの?」
「ん......アトリエの設定。それが終わったら、アイシャの.....特訓」
「え.....」
特訓と聞いて、一気にアイシャの表情が険しくなった。エリックが昨日言っていたレンゲは厳しいという言葉を思い出したのだ。
「あの.....具体的にはどんな特訓をするのかな?」
「ん?.......まずは、レベル上げ。昨日言った、火鼠の巣窟に行く。そこで、レベル上げしながら.....戦い方...を教える」
聞いただけだとそんなに厳しそうじゃない気がしてきたアイシャ。もしかしたら私には優しく教えてくれるのかな?なんて期待をしつつ、それなら準備しなきゃと食べ終わった食器を持った。
「それじゃあ、レンゲちゃんがアトリエ行ってる間に片付けと準備しちゃうね!」
「ん......お願い。終わったら......声、かける」
「はーい!」
元気に返事をするアイシャに微笑みかけながら、レンゲもアトリエへと向かう。
昨日同様、まだ何も置かれていない広い部屋を見ながら、アイテムボックスを確認し始めた。
(さて.....ようやくアトリエを弄れるな.....っと、その前に)
アトリエの設定が終われば、シンシアとシャルルも再び呼び出せる。だが、戀華はその前に1つ試したいことがあった。アイシャの前では少々遠慮していたのだが、1人でいる今ならば問題ないだろうと思ったのだ。
(俺の予想が正しければ.......えーっと、レンゲ。おーい......レンゲ!)
試したかった事.....それは、レンゲと意思疎通が出来るかという事だった。自身の名前と同じなので、若干の違和感を感じながらも、戀華は声をかけてみる。
「ん.....?」
(反応あり......か。レンゲ、俺の声が聞こえるか?)
「ん......聞こえて、る」
(やっぱりか......たまに俺の声に反応してるような気がしてたんだよな)
「ん......ずっと、聞こえてる。昨日は.....煩かった」
(俺に対しては毒舌!?まぁ.....良いんだけど。それなら、昨日のエリックの話はどう思った?)
「ん......?女性になっちゃった男の人の...話?」
(それそれ)
「ん〜......私は、違うかなって.....思った?」
(どういう事だ?)
「ん.....私は、別に...戀華を追い出したい?とは.....思って、ない。むしろ.....いなくなっちゃ......や」
素直な気持ちを伝えるのは少し恥ずかしかったのだろう。頰を染めながらも、側にいて欲しいと願うレンゲの想いに、戀華も体は無いというのに顔が熱くなったような感覚になった。
この熱がレンゲから伝わってくるものなのか、それとも......戀華自身が感じているものなのかはわからなかったが、こんなにもいじらしくお願いされて嫌だなんて言えるほど人が悪くは無いし、またそんなつもりもこれっぽっちもない。
(おぉう.......となると、人によって違うんだろうか?まぁ、安心しろ。お前が望まない限りはいなくなったりしないよ)
「ホント?」
(あぁ.....せっかくこんな面白い世界に来たんだ。楽しまないで消えるなんて勿体ないだろ?)
「ん......良かった」
(よしよし........それじゃあ、アトリエ設定しちゃうか!シンシアとシャルルにも会いたいしな!)
「ん......」
レンゲはコクリと頷くと、部屋の中心に手を当てた。
すると、レンゲを中心に魔法陣が現れ.....ゆっくりと回りながら部屋全体へと伸びていった。しばらくすると、魔法陣は部屋に溶け込むように消えていき、それと同時に部屋全体が魔力に循環しているような感覚になっていった。
錬金術......とは言っているが、この世界でいう錬金術とは一般的に地球で知られているような錬金術とは少し違っている。錬成陣や錬金釜を使ったものではなく、素材同士を、部屋に充満させた魔力が変質させるのだが、その際に自身も魔力を注ぐ事によって変質の方向性を誘導し、狙ったアイテムや武具などを作るというものなのである。正直、錬金術と言うよりは合成と言った方がしっくり来るかもしれない。
その為、ゲームだった頃はMPを多く使うほど品質の良いアイテムが作れた為、INT極振りなレンゲの作るアイテムや武具は、その道を極めた職人をも超えうる性能を持っていた。
(ふむ......現実だとこんな感じになるのか。知らない奴がみたら爆発とかしそうで怖がりそうだな。後は......実際にやってみないとわからないけど、やっぱ魔力篭めまくったほうが良いのが出来るのかね?)
「ん.........わかん、ない。やってみる?」
(そうだな。とりあえず.......ポーション作ってみるか。これはどれだけあっても困る物じゃないし)
「ん.......アイシャの分も、必要」
(だな)
さっそく、ポーションをお試しで作る事にしたレンゲ。まずは必要となる素材だが、これは水とハクタクソウがあれば作れる。だが、ここに更に増強剤を加える事で、ハイポーションやフルポーションになる可能性がある。そしてその確率は篭めるMPが多いほど確率が上がるようになっていた。
現実でもそれが適用されるなら.......。
素材を並べ、魔法陣を展開する。その瞬間から既に変化が現れた。少しずつ素材が光り始め、注ぐ魔力の量が多くなるにつれてそれが強くなっていく。
まずはお試しなので、そこそこ使ってるかな?という程度のところで錬成が始まるのを待った。
すると、素材同士が少しずつ1つに合わさっていき.....光が収まると、そこにはゲームで見慣れたポーションが5本並んでいた。素材の量は適当だったが、どうやら5本分の量があったらしい。
(演出はゲームの時とほとんど一緒か。さて、ポーションの出来はどうかな?)
「ん.........ハイポーションが5本。品質も良い方」
(そうか。魔力の消費量がどれくらいかわからないから、そこは回数をこなしながら掴んでいくしかなさそうだな)
「ん.......次はもうちょっと、注いでみる」
それからも、同じ量の素材で篭める魔力の量を調整しながらポーションを錬成していった。魔力の調整に慣れてきた頃には、素材と魔力が尽きかけていたが、最終的にハイポーションが120本程とフルポーションが80本ほど出来ていた。
「あぅ.......体、怠い」
(ちょっと魔力使いすぎたか。マジックポーション飲んどけ)
「ん.........マジックポーションも、作っとく?」
(あー.......そうだな。むしろ俺たちはそっちの方が使う量多いから作っとくか)
「ん.......」
マジックポーションの素材は水とハクラクソウ、それと増幅薬の3つだ。水以外は素材が被っていない為、こちらもそれなりの量を作れそうだった。
その結果、ハイマジックポーションが43本、フルマジックポーションが138本完成した。
「ん......できた」
(もう少し練習すれば、全部フルで作れるようになりそうだな。っと.......そろそろシンシアとシャルルの事も呼び出してやろう)
「そうだった.......」
2人とも、現実での錬金術に気を取られてしまいシンシアとシャルルの事を忘れてしまっていたらしい。ちょっと申し訳なく思いながらも、メニューからアトリエのページを開いた。
そこから管理者登録を選び、名前一覧からシンシアとシャルルの2人を選んで登録した。
すると、レンゲの目の前に2つの門が出現し、中から人影が現れ始めた。
(お〜.......良い演出だ............って!?なんで裸で出てくるんだよ!?)
出てきた人影は、一糸纏わぬ姿で出てくると、その上から服が現れ纏わせていった。まるで魔法少女の変身シーンを彷彿とさせる光景だったが.....それが終わると、音もなく地に降り立ちゆっくりと目を開いた。
シンシアは.....レンゲに近い銀髪を右のサイドテールにしていて、金の瞳をしている。身長は165cm程で、ロングスカートのメイド服が落ち着いた雰囲気の彼女に良く似合っていた。
シャルルの方は、薄めの金髪を左のサイドテールにしていて、蒼い瞳。身長は140cm程で、こちらはミニスカのメイド服が彼女の元気の良さをより際立たせている気がした。
『お久しぶりですマスター。またお呼びいただけて感激です』
『お姉ちゃんお久〜!忘れられてるのかと思ったよ〜!』
「ん......ごめんね。えっと、今日からここが、新しいアトリエ。また、お願い......できる?」
『勿論です。私達はマスターのために存在しているのですから』
『まっかせて〜♪頑張ってお世話しちゃうよ〜!』
色々と対照的に見える彼女達だが、その仕事ぶりは信頼できるものだというのはレンゲも良く知っているため、アトリエだけではなく家の方も任せてしまおうかと考えた。
「ん......あと、家の方もお願いしたいんだけど.....大丈夫?」
『家......ですか?ここから近いのでしょうか?』
「ん、というより.....家の中に、アトリエ作った」
『へ〜!見てみようよシンシアお姉ちゃん!』
『そうですね。よろしいでしょうか?』
「ん......」
レンゲは頷きながら、2人を居住空間の方へと案内した。まずはキッチンだ。アイシャはとっくに洗い物を終わらせていたようで、恐らく今は部屋で準備しているのだろう。
そのままダイニングを通り、トイレやお風呂を見せてから二階に上がっていく。取り敢えず使っていない部屋は後回しにして、自分の部屋に案内した。
すると、準備をしているアイシャが部屋におり、こちらに気づいて笑顔を向けてきた。
「あ、レンゲちゃん!アトリエの方はもう良いの?」
「ん........ちょうど良かった。アイシャ、紹介するね。この2人が、昨日話したシンシアと.....シャルル。で、この子はアイシャ....私の..........弟子?」
最後はなぜか小首を傾げながらの紹介となるレンゲ。どうやら弟子か仲間か友人かで迷ったようだ。
だが、アイシャの方は特に気にならなかったようで、ピョンっと立ち上がると深々とお辞儀しながら挨拶した。
「アイシャです!よろしくお願いします!」
それに対して、シンシアとシャルルは弟子という単語に驚きの表情を浮かべたものの、元気に挨拶をするアイシャを見て優しい笑みを返しながら返事を返した。
『シンシアと申します。マスターのお弟子さんですか......。頑張って.....ください』
『シャルルだよ〜♪アイシャお姉ちゃん.....かな!が、頑張ってね!』
何故か慈愛に満ちた表情で応援してくる2人に、疑問符を受けべたアイシャだったが、そのまま受け取ったのか笑顔で頑張ると返した。
「ん......取り敢えず、まだ物は少ないけど.....掃除とかお願いしたい。大丈夫そう?」
『問題ありませんね。他にも部屋はあるようですが.....アイシャさんと同室で良かったですか?』
「ん.....それで良い。シンシア達も、欲しい家具があれば言って欲しい。ベットとか、色々」
『はーい!それならベットでしょ?机と椅子も欲しいし〜.....それからそれから.....』
『こら......あまりアスターの負担を増やしてはいけません。眠れる場所があれば十分です』
『え〜!?』
叱られたのが納得いかないと騒ぐシャルル。こうして見ると.....面倒見のいい姉と甘えたがりの妹のように見えて微笑ましく思ったが、それならこっちで選んで買ってきてしまった方が良いかなと考えた。
「ん......まぁ、考えといて?それと、これから.....アイシャの特訓に行くから、お留守番.....お願いね?.......あと、これは生活費。どのくらい篭るかわからないから、一応......100万セリカ、渡しとく」
『畏まりました。大事に使わせて頂きます。行ってらっしゃいませ、マスター』
『むぅ......行ってらっしゃ〜い』
どうやら、シャルルはまだ納得いっていないようだ。100万もあれば安い家具なら揃えられる大金だったが、シンシアは無駄遣いなどさせないだろう。そんな2人の様子に、苦笑を浮かべながらもアイシャは100万セリカも必要になるくらい帰ってこないつもりなのかなと、若干冷や汗をかきながら挨拶した。
「あはは.......それじゃ、行ってきます!」
「ん........行ってきます」
(さてさて......どれくらいの期間潜らせようかね?最低でも一月は集中してレベル上げさせたいが.....)
戀華がそんな事を考えてることなど知る由もないアイシャ。
さっきの言葉が怖くはあるが、絶対に強くなる......そんな決意を胸に抱きながら、先を行くレンゲを追いかけて行った。
少しずつではありますが、ブクマ件数が増えてきていて嬉しく思っています。
今後ともよろしくお願いしたいと思います!