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蓮華異譚  作者: ジェーン
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第3話:天使

第3話になります。



第3話:天使


ギルドの外に出てみると、街は混乱に包まれていた。一般人と思われる者たちは逃げ惑い、冒険者有り得ないと言った表情で、兵士ですら.....武器を構えてはいるものの絶望したような表情で空を見上げていた。


レンゲとエリックも空を見上げてみると、そこには真っ白な門を背に街を見下ろす天使たちの姿があった。数は100体は超えてるだろうか?

その姿はとても美しく、普通ならばその神秘的な光景に人々は歓喜しお祭り騒ぎになっていても不思議ではない。


だが、現状がそうではないのだと戀華に告げていた。


「エリック.....天使は、味方じゃ.....ない?」


「そうだねぇ......後で詳しく説明するけど、天使は敵だよ。それも.........最大級のね」


念のため確認したレンゲの言葉に返ってきたのは肯定だった。本来なら、魔王などに使われるその言葉が天使に使われる......。蓮華はなぜそんな事に?と思いながらも、もう一つ確認した。


「もう.....攻撃しても良い?」


「あぁ。奴らは混乱する俺たちを見て楽しんでいるだけだからね。容赦なくやっちゃって構わないよ」


「ん.......」


(楽しんでる......ね。相手が魔族とかだったらすぐに納得できるんだけど.....あれかな?この世界の神様とかが人類を滅ぼそうとでもしてるのかな?.......まぁいいや、とりあえずやれるだけやってみますかね!)


そう思った時だった。レンゲの司会の端に、ボロボロな姿になって座り込んでいるアイシャの姿が映った。

レンゲは慌てて駆け寄りながら、アイシャに声をかけた。


「アイシャ!?」


「あ.......レンゲ.....ちゃん」


弱々しい返事と共にアイシャが返事をしたので、一先ず安心したレンゲ。改めて見ると、装備はボロボロになってしまっているが、どうやら付いている血はアイシャのものではない事が分かった。


「なにが.....あったの?」


「リーダーたちが.......みんながぁ!」


どうやらフリッツ達に何かあったらしい。泣き出してしまったアイシャを宥めながら、なんとか話を聞いたレンゲ。

どうにも、フリッツ達は天使達が現れたのを見てすぐさま街から逃げ出そうとしたらしい。アイシャは止めたようだが、街を出てすぐの所で天使達から放たれた魔法を受けてしまったそうだ。ギリギリ街から出ていなかったアイシャは攻撃から逃れたそうだが、土煙が晴れた後に見えたのは、黒焦げになって死んでしまっている3人の姿だったそうだ。


「私が.....私が!もっとちゃんと止めてたら!きっとレンゲちゃんが倒してくれる.....レンゲちゃんなら天使にだって負けないって....ちゃんと、止めてればぁ!!」


(なるほど......アイシャは本当に俺のことを信じてくれてたみたいだな。フリッツ達は自業自得にも思えるけど......)


戀華はそう思いながらも、視線を天使達へと向けた。どうやら、まだ本格的に襲ってくる気配はない。だが、戀華そんな天使達に激しい怒りを感じていた。


(アイシャを泣かせたのは許せないな。色々と確認しながら戦おうと思ってたけど........やめだ。あいつらは全力で叩き潰す!)


「ん!」


どうやら体の方もやる気らしい。その事がちょっと嬉しい戀華だったが、そのまま立ち上がるとアイシャへ言葉をかけた。


「アイシャ.....見てて。アイシャが信じてくれた私の力.......今から見せる」


「レンゲ.....ちゃん?」


若干の戸惑いを見せたアイシャの声。その声を背に受けて、レンゲは静かに息を吸うと詠唱を始めた。


『飛翼......飛べ、飛べ、飛べ.....汝が得るは堕天の翼。風を纏いて空を舞え!』


詠唱が終わった瞬間だった。騒いでいた人間達も、地上の様子を伺っていた天使達も、レンゲの変化に驚愕した。

レンゲの背中から3枚一対の真っ黒な翼が生え始め、それからとてつもない大きさの魔力を放ち始めたからである。


その光景には、友人であるエリックすら驚いていた。


本来.......この魔法は天使の加護を受けた者のみが使える飛行用の魔法だった。だが、戀華は敵が天使であることを考慮し即興で詠唱呪文を改変したのである。

それは.....エリック達が長年研究し続けていたものであり、そして未だに結果を出せていないものでもあったのだ。


それを......この世界に来たばかりのレンゲがこともなげに成し遂げた。エリックは驚きと同時に、これでこそレンゲだと苦笑を浮かべた。


「全く......俺たちが何年も研究してる改変をこうもあっさりやりやがって」


「ん.......行ってくる」


レンゲはそう返すと、何度か翼を羽ばたかせて調子を確かめてから一気に空へと舞い上がった。


一方.....天使達はというと、今目の前で起きた光景が信じられなかった。いつもの通り、主神の意思に従い人間を浄化する為に地上へやってきた彼ら。すぐには攻撃せず、魂の穢れた人間を探し出し浄化する作業は順調に進んでいた筈だった。


ところが、突然発生した急激な魔力の高まりに驚き、視線を向ければ.......まだ幼さの残る1人の少女から、人間のものとは思えない量の魔力が溢れ出していた。

それだけなら......天使達も驚きはするものの信じられないとまでは思わなかっただろう。

人間の中でも、上位の実力者にもなれば自分たちとも互角にやりあえる者が存在するのも知っていた。


だが、そういった人間は極少数しかおらず、事前の情報ではこの街にはそのような者は存在していなかった筈なのだ。

さらには、あり得ないことに少女の背中に自分たちと似たような翼が現れたではないか......。それも、3枚1対......しかも色が黒いのだ。


あきらかに異常。人間として......いや、例え同じ天使だったとしても、存在してはならない.....。

何故ならその色は、堕天した者の象徴だから。天使でありながら、主神に仇なす敵である事の証明。


天使達のリーダーであるアルヴィースは、一瞬唖然としながらもすぐに正気に戻ると部下達に命令を下した。


「呆けている場合ではありません!あれを......あの不浄なる娘を浄化しなさい!!!」


「は.....!?あ....はい!!」


流石と言うべきか......1人の天使が動き出せば、そこからの行動は速かった。

100人にも及ぶ天使達が、一斉に魔法の詠唱に入り、同時に放つ。それは、光属性中級魔法.....ホーリーレイだった。

だが、その威力は中級とは思えないほどの破壊力を秘めており、これは単純に彼らの魔力が膨大である事.....そして、天使の固有スキルである光属性強化によるものだった。


標的となったレンゲ.....。その周りにいた者達は、レンゲの変化に驚いていたのも束の間、突然放たれた高威力の魔法に我先にと逃げ惑う。

しかし、エリックとアイシャの2人だけは、その光景を目の当たりにしながらも逃げようとはしなかった。


何故なら........。


「昔見たほど.......怖いとは思わない.....かな」


自身の目の前には、信頼する友人であり、また幼い頃から憧れ続けた少女がいるからだ。


『防壁......守れ守れ守れ.....我が身を護るは黄金の盾。それは災厄すら退けるだろう!』


詠唱とと共に現れたのは巨大な盾。黄金に輝くそれは、全てを飲み込みそうなほどの存在感を有し、エリックとアイシャすら覆い隠す程の大きさがあった。


そこに.....天使達の魔法が直撃。しかし、魔法が触れた瞬間その全てが四散し盾には傷1つつける事が出来なかった。


「ば、バカな!?中級とは言え我ら天使の魔法で傷1つつかないだと!?」


「ありえない!」


「何者なんだあれは!?」


それなりに自信があったのだろう。いくら6枚羽とは言え、こちらは100人。それだけの人数が同時に放った魔法なら、倒せないまでも大きなダメージを与えられると思っていた天使達は、本人どころか盾も.....その周囲にも傷1つ付けられなかった事に驚きの声を上げた。


そして、それを確認した戀華は相手の力をほぼ正確に把握していた。


(うーむ.......だいたい下級の魔王と同レベルくらいか?はっきり言って大した事ないな.......)


「ん.......じゃあ、次は私の番だね」


レンゲはそう言うと、何度か翼を羽ばたかせながら調子を確認すると一気に天使達へ向かって飛び出した。

それと同時に詠唱に入る。


『氷結......凍れ、凍れ....凍れ........それは全てを凍てつかせる極寒の風。汝らの刻は永遠に停止するだろう!』


レンゲが放つは刻をも凍てつかせる絶対零度の嵐。


慌てて防御障壁を張った天使達だったが、それを嘲笑うかのように突き抜け彼らを一瞬で凍りつかせた。

浮力を失った天使達は、重力に逆らえなくなり地面へと落下。激突と共に粉々に砕け散り次々と死んで行く。


それを横目で確認したレンゲは、正面へ視線を戻すと少しだけ驚いた。1人だけ......完全に凍る事なく空中に留まる天使が残っていたのだ。

だが、それでも相当なダメージをおったのだろう。その顔は驚愕に染まり、落ちて砕けていく部下達を呆然と見つめていた。


「馬鹿な........100人もの天使が.......たった一撃で全滅?私は、夢でも見ているのですか?」


「夢じゃ.....ない。貴方が見ている光景は、現実。そして.....貴方もすぐに後を追う事に.........なる」


レンゲの言葉に、ハッキリとした恐怖を感じた天使のリーダー。彼は慌ててレンゲを止めようとした。


「ま、待ってください!我々は無闇に貴女がたを殺めるつもりはないのです!我々はただ......魂が穢れてしまった者達を浄化しようとしただけで!」


「..........その基準は?」


「は........?そ、それは!罪を背負った者や他の人間を見捨てて逃げようとした者などで......」


(つまり、例えばだが.....こいつらが現れるまでは穢れていなかった魂だったとしても、逃げようとした時に穢れてしまったら浄化の対象になるって事か)


許せる筈がなかった.......。仮定の話になってはしまうが、コイツらさえ現れなければ魂を穢す事なく生き続けられた者もいたかもしれないのだ。

特に、アイシャの仲間達は皆気のいい連中だった。これからも、良きパーティとして活動していけたかもしれないのだ。それを奪い、アイシャの心に傷を負わせた......。


「そう......けど、貴方達が来なければ.....魂?が穢れずに済んだ人も、いたかもしれない.......。それに.....貴方達は私の友達を傷つけた!絶対に.....赦さない、から!」


「くっ......!?」


レンゲから放たれる殺気に怯んでしまった天使は完全に逃げるタイミングを失ってしまった。


『断罪......穢れ、穢れよ...穢れてしまえ。汝が魂は不浄の象徴。断罪するは我が刃!』


「あ...........がっ!」


なんとかこの場から撤退しようとしていた天使。だが、それよりも速く詠唱されたレンゲの魔法が、彼の体を幾重にも切り裂き絶命させた。


圧倒的.........。


仮にも天使を相手に、レンゲは傷1つ負うことなく100人全ての命を刈り取った。


それを見ていた街の人間達は、その圧倒的な強さに魅入り、そして狂喜した。彼女さえいれば......自分たちは絶対に安全だと。

だが、同時に恐怖も感じた。もし.....あの力が自分達に向いたら?天使すら圧倒する彼女の力。それが人間に向けて放たれた時、自分達に対抗する手段など無いのだと。


喜びと不安.......その2つが鬩ぎ合い、生き延びたというのに住人達の顔に喜びの色は浮かんでいなかった。


一方......天使達を全滅させた戀華は、静かに地上へ降り立つとエリックとアイシャのいる場所へと歩いていった。


「終わった......」


「ご苦労様。流石.....と言うべきかな?こっちに来て初めての強敵だったと思うけど、どうだったい?」


「ん〜......楽勝?ちょっとやり過ぎだった....かもしれない」


「て、天使相手に楽勝..........流石、レンゲちゃんだね」


どうやらアイシャも少しは気分が晴れたらしい。先程よりも表情が明るくなっていた。それを見たレンゲも、少しだけ怒りが和らいだように感じた。


3人はお互いに微笑み合うと、周囲を見回した。少なくない被害者を出してしまったが、建物などの被害はそこまで大きくなかったようで、建て直しにはそれほど時間はかからないだろう。

しかし、住民達の表情は未だに暗い.....。それ程までに心のダメージが大きかったのだろうかと、3人で顔を見合わせていると、1人の男が声をかけてきた。


「あ、あの.......エリック様。そちらの少女は.....いったい何者なんですか?」


男はそう言いながら、レンゲに恐れるような表情を浮かべていた。そこでようやく、エリックはなぜ皆んなが暗い表情をしたままなのかを悟った。


「あぁ.......彼女はレンゲ。俺の昔からの友人だ。“魔導錬士”と言えば皆も知っているだろう?彼女がその“魔導錬士”だよ。たまたま俺に会いに来てくれていてね.......レンゲがいてくれて本当に助かった」


エリックの紹介に、周囲に集まっていた者達は驚きの声を上げた。“魔導錬士”といえば、物語にすらなっている超有名冒険者だ。そんな有名人が自分達を救ってくれた事にも驚いたが、まさかのエリックの友人だった事に驚いていた。


だが.....そういう事なら、彼女が敵に回ることはないだろうと考え始めた住人達は、少しずつ助かった喜びが大きくなっていき、すぐにそれは歓声へと変わっていった。


「そうか......“魔導錬士”様が俺たちを救ってくれたのか!皆んな!この街を救ってくれたのは“魔導錬士”様だ!!しかもエリック様の友人なんだってよ!」


「マジか!?そんな人が俺たちを救ってくれるなんて.....!おい!街中に広めろ!俺たちを救ってくれたのは“魔導錬士”様らしいぞ!!」


そんな叫びを皮切りに、周囲から“魔導錬士”コールが響き渡る。それに驚いたレンゲは、顔を真っ赤にしながらオロオロし始めた。

そんなレンゲの可愛らしい姿を見た住人達は、天使と戦っていた時とのギャップに更に盛り上がる。


そのせいで余計に縮こまってしまったレンゲに、エリックがやれやれといった様子でまた手を引いて歩き出した。


「とりあえず執務室に戻ろう。これじゃあゆっくり話も出来ないからね」


「ま、待って........あ、アイシャ.....アイシャも一緒に来てぇ!」


「わ、私もですか!?いやでも.......」


アイシャは戸惑った。いくらなんでもギルドの執務室に入るのは一般の冒険者には難易度が高すぎる。それとなく断ろうとしたアイシャだったのだが.......。


「一緒........ダメ?」


無理だった......。


(あ〜んもう!レンゲちゃん、なんでこんなに可愛いの!?)


「だ、ダメじゃないけど......ギルマス?」


「まぁ......良いんじゃないかな?別に禁止してるわけじゃないし」


最後の頼みだったギルマスからも許可が下りてしまい、アイシャは恐る恐るといった感じで後に続く事になってしまったのだった......。


職場の後勤務の人なんでいっつも1時間以上早く来るんだろう......。

邪魔すぎてイライラしますw

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