第2話:ギルドマスター
第2話になります。
句読点をどこで使えばいいのかわからなくなってしまいます。難しい.....
第2話:ギルドマスター
アイシャたちと別れたレンゲは、一先ず受付でエリックが居るかどうか聞いてみる事にした。街の領主と兼任しているという話だったし、もしかしたら代理を立てて自身は屋敷かどこかにいる可能性もあると思ったからだ。
「スーシーギルドへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「ん.......エリックに会いたいんだけど....いる?」
レンゲがそう言った瞬間だった。受付嬢を始めとした周囲の視線が一気に俺に向いたのは。
それと同時に、「誰だあのガキ」や、「ギルマスを呼び捨てだと?」などという声が聞こえてくる。
(しまったな.....ちょっと失敗したかもしれない。)
エリックはこの街にとって英雄みたいな存在なんだろう。そんな人物を見た目15歳くらいにしか見えない少女が呼び捨てで呼ぶなど、不敬にも程があるのだ。
(とはいえ、友人に会いにきただけで文句を言われる筋合いなど俺にはない。堂々としていよう)
「失礼ですが、面会の約束などはしていますか?」
「してない.....ただ友人に会いに来ただけなのに、そんなもの必要?」
(はい爆弾投下しましたー!さっき友人が〜なんて考えてたせいか、それが言葉に出ちゃったよ!)
案の定、さっきよりも周囲の視線が鋭くなっていた。受付嬢なんてこめかみの辺りがヒクヒクしている。
それでも怒鳴らずに対応しようとしている姿は、しっかりと教育されたプロの仕事と言えるのかもしれない。
「では.....身分を証明できるものはありますか?冒険者登録証があればそれで構いません」
「ん.......」
受付嬢に言われたとおり、冒険者登録証を渡すと、彼女はそれをマジマジと見てから何かの機械にカードを通した。恐らく本物かどうか調べる機械なんだろう。
そうして出た結果を見て、彼女は「え?.....えぇ!?」と驚きの声を上げながらカードとレンゲの顔を交互に見始めた。
(むぅ.......早くして欲しいんだけどなぁ)
「し、失礼ですが.......Aランク冒険者のレンゲ様で間違いありませんか?」
余程信じられなかったらしい......。既に結果は分かっているはずなのに、敢えて確認を取ってきた。
「ん.......一応言っておくと、見た目よりずっと大人」
そう言うと、今度は別の意味で周りがざわつき始めた。
「まさか!?本当に“魔導錬士”なのか!?」
「あんな子供が!?」
「いや、ギルマスだって見た目と実際の年齢は違ってるし.......」
「あぁ......だとすればギルマスを呼び捨てにするのも頷ける」
「じゃあホントにあの子が“魔導錬士”なの!?」
騒めきがどんどん大きくなっていく中、“魔導錬士”という単語に引き寄せられたのだろう。別れた筈のアイシャがひょっこり顔を覗かせた後、騒ぎの中心になっている俺を見て驚いた顔をしながら駆け寄ってきた。
「れ、レンゲちゃん.......今のって」
「ん......黙ってて、ごめん。憧れてるって言われて......恥ずかしく、なっちゃって.....言い出せなかった」
「じゃ、じゃあ......私、本人に向かって言ってたの!?うぁ〜.......恥ずかしい!!」
「でも.....嬉しかったよ。それに、久しぶりに出来たお友達.......だから、これからも仲良くして欲しい」
レンゲがそう言うと、アイシャはこれでもかというほど驚いた表情を浮かべたが、次の瞬間には満面の笑顔を浮かべて大きく頷いた。
「うん!まさか憧れの人とお友達になれるなんて思ってなかったけど、これからもよろしくね!」
と、そこでハッとしたアイシャは恐る恐ると言った感じで後ろを振り向いた。
そこには、やれやれと言った感じでこちらを見ているフリッツたちパーティ一同。アイシャは慌ててレンゲに向き直ると、「そ、それじゃあ今度こそまたね!」と言いながら仲間の方へと走り出して行った。
「これはなんの騒ぎなのかな?」
と......まさにタイミングを見計らっていたように別の方向から声がかかり、レンゲはそちらに視線を移した。
そこにいたのは、薄い青色の髪を肩にかからない程度まで伸ばした眼鏡の男。レンゲはその姿を見るなり、嬉しそうに声をかけた。
「エリック......久しぶり、になるのかな?」
すると、声をかけられた男.....エリックは、目を飛び出るのではないかと思いほどに見開いてレンゲを凝視した後、小さく呟くように声を発した。
「まさか......レンゲ....なのかい?」
「ん......他に誰に、見えるの?」
「いや......その若干間のある喋り方、それにその姿.....間違いなくレンゲだね。本当に久しぶりだ」
エリックがそう言った瞬間だった。先ほどまで彼の登場と共に静まっていた室内が、またもやざわつき始める。それを見たエリックはやれやれといった感じで肩を竦め、オロオロし始めたレンゲの手を取って歩き始めた。
「.......?」
「騒がしくてゆっくり話せそうにないからね。俺の執務室へ行こう」
エリックはそう言うと、受付嬢の1人に暫く誰も執務室へ通さないようにと伝えると、レンゲの手を引いたまま階段を上って行った。
エリックの執務室は、二階の一番奥にあり室内は割と広めに造られていた。執務机の他に10人は座れそうなテーブルがあることから、恐らく会議などもこの部屋でやっているんだろう。
(昔はもっと小さい部屋だったのにな......)
エリックはそのまま奥へ進んでいくと、端の方にあったソファーに座りながらレンゲにも座るように促した。
レンゲはそれに応えて、エリックとは反対側にあるソファーへと腰掛ける。すると、全身を包み込むかのような座り心地に驚きながら体を沈めていった。
「良い椅子だろう?この建物を建て直した時に新調したんだけど、俺のお気に入りなんだ」
「ん........座ってるだけで、気持ちいい」
レンゲの反応に気を良くしたのか、エリックは一度立ち上がると飲み物やお菓子を持ってきてレンゲの前に置いてから話を切り出した。
「さて.......さっきは久しぶりと言ったけれど、君にとって本当はどれくらいぶりになるんだろうね」
「んぅ...........私としては、3日ぶりくらい....かな?この世界に来たのも、昨日だったし」
そう言うと、エリックは「やっぱりか.....」と言いながら苦笑を浮かべた。
「俺はこの世界に来て、もう18年ほどになる。俺の他にも、同時期に来ていた者や数日後.....数年後に来た者も多くいる。俺が把握しているだけでも、元プレイヤーだった者たちは2万人を超えている」
「そ、そんなに?」
「あぁ。いやぁ.....最初の頃は大変だったよ。突然この世界に連れて来られて、皆んなパニクっていた。特に、駆け出しから中級くらいのプレイヤーたちがね。中には、いきなり高難易度ダンジョンに飛ばされて命を落としたプレイヤーもいる」
エリックはそう言いながら、苦虫を潰したような顔をした。つまり.....死んだプレイヤーは生き返らなかった.....ということだろう。
ゲームだった頃なら、HPが0になったプレイヤーはデスペナルティとして今まで稼いだ経験値の10%を失う代わりに、最後に立ち寄った街で蘇生されるというシステムだった。これは高レベルになればなるほど辛く、例えば120レベルのレンゲが死亡した場合、経験値の10%を失えば4〜5レベルは一気に下がってしまうほどの量なのだ。
しかし、ゲームの世界が現実となった今では、HPが0になるということは現実での死を意味するのだと言う。
当時はそのせいで半狂乱に陥るプレイヤーも多かったらしく、比較的落ち着いていた上級者のプレイヤーたちも落ち着かせるのに随分と苦労したそうだ。
「他にも、ゲームだった頃と違う点は多くあってね。例えば、ゲームだった頃はモンスターは街や村なんかに入ってくることは出来なかった。けど、今は違う。しっかりと防備を固めていなければ、モンスターの群れに簡単に押しつぶされてしまうんだ。そのせいで、この街も一度は滅びかけている」
「アイシャから聞いた......。その時は、エリックを始めとした冒険者たちが、頑張ったって」
「そうだね.......けれど、隙を突かれて当時の領主を討たれてしまった。そのせいで今は俺がこの街の領主だ。柄じゃないってのにさ」
そう言って肩を竦めてみせるエリックだったが、それでもここまで発展させたのは間違いなく彼の功績だとレンゲは思った。少なくとも、街の外から見た防壁はそんじょそこらのモンスターじゃ突破するのは無理だろう。
「まぁ......皆んなが優秀なお陰でなんとかギルマスと兼任できてはいるんだけどね。あとは......モンスターの強さなんかにも違いがある。街に近ければ近いほど、モンスターのレベルは低くなっていく。逆に、ダンジョンなんかのモンスターは当時と比べると大分強くなっているね」
レンゲもそれには気づいていた。少なくとも、草原にいたモンスターたちはだいぶレベルが低かったからだ。
エリックはそのまま相違点を纏めて話してくれた。
一つはこの世界の相場。当時よりも、ポーションや装備の値段がかなり高くなっているそうだ。理由は簡単で、HP0=死....という現状で、アイテム類の需要が一気に増加したこと。
今までは勿体なくてギリギリまで粘ってから回復していたのを、死への恐怖から多少の傷でもポーションで回復するようになれば、消費量が増えるのも当然だった。
もう一つは在庫だ。ゲームだった頃は金さえあればNPCショップから無限に買えたアイテム類だったが、当然.....現実となったこの世界では数に限りが出てくる。そういった事もあり、ポーションなどの相場は当時の数十倍にまで跳ね上がっているのだそうだ。
他にも、プレイヤーの生産職.....特に、凄腕と言われた職人たちが減ってしまったことと、素材アイテムの入手難易度の増加から装備関係の相場も随分と高騰しているらしい。
これはひとえに、狩にでるプレイヤーが減ってしまったことも原因となってしまっているそうだ。
この世界の冒険者には、元プレイヤーだった者たちと元々この世界の住人だった者たちの2種類が存在している。
しかし、元プレイヤーに比べてこの世界の冒険者たちの実力は随分と低いらしく、高くてもCランク.......大抵はE〜Dランク程度と、中級者に届く者すら相当稀なのだそうだ。
現在は、各ギルドでもそういった者たちの育成に力を入れているそうなのだが、なかなか上手くいっていないのが現状。理由としては、当時効率の良かった狩場などの難易度の上昇が原因で、今は新たな狩場探しに奔走している状態だと言う。
(マジか......ということは、アイシャに教えた場所も難易度が上がってるって事だよな?後で注意しておかなきゃな.....それと、俺自身で確認もするべきかもしれない)
剣士のレベルが50に到達している以上、元々が適正レベル25〜である火鼠の巣窟で遅れを取ることは無いだろうと思う戀華だったが、念のため注意しておいた方が良いかもしれないと考えた。
エリックの話はまだ続く......。
次の話は、リアルとアバターの性別の違いについてだった。
たまに、精神が体に引っ張られる.....といった設定を聞くことがあるが、どうやらこの世界では逆の現象が起きていると言うのだ。しかも、それは余りにも荒唐無稽な話でもあった。
なんでも、男性プレイヤーが女性アバターでこの世界に来た場合、最初の頃は見た目は女性だが精神は操作していた男性プレイヤーとして生活していたらしい。口調はどうやらチャットでの話し方が適用されるようだとエリックは語った。それについては戀華も実感していた事なので頷いておく。
しかし.....ある日を境に、信じられない現象が起きたそうだ。
女性アバターを使っていたプレイヤーが、自身を女だと思うようになっていったらしい。だが、この時点では自分は男だったという感覚もあり、女風呂へ入ろうとしていたところで気づいて慌てて逃げ出したなどという事件が起きたそうだ。
だが......この話はこれで終わりではない。
それから数年後、その男性プレイヤーはとうとう男としての感覚を完全に無くしてしまったそうなのだ。更には、ずっと同じパーティで一緒に冒険していた親友に恋心を抱くようになってしまったという。
その時には既に、完全に女性としての感情しか残されていなかった彼は親友に想いを告げたそうだ。しかし、相手の男性はまさかそんな事になっているとは思わず“男に興味はない”と言って拒絶。
告白した男性は自分は女だと何度も言ったそうだが、頭がおかしくなってしまったと思われ、相手の男は別の街に逃げていったそうだ。
残された男性プレイヤーは、あまりのショックに心が壊れてしまい、しばらくは死んだように無気力な目をしていたという。
そこでふと、戀華はある事を思い出した。それは路地裏で迷っていた時のこと......戀華自身は泣きたいわけでもなかったのに、体は大粒の涙を流しながら泣きじゃくっていた。
その後も度々、怖いわけでもないのに体はビクビクしていたり、戸惑っているわけでもないのにオロオロし出したりしたのだ。
(まさか.....俺も既に体に引っ張られているのか?)
そう思いながら戀華が眉を顰めていると、エリックは「なるほど......」と呟きながらレンゲに視線を戻した。
「どうやら、君の中身も本来は男性のようだね。俺はてっきり本当に女性のプレイヤーなんだと思っていたよ」
どこかガッカリしたような......けれど、友人の秘密を知れた嬉しさも感じているような微妙な表情を浮かべながらエリックはそう言った。
(そう言えば......俺が本当は男だって事は誰にも教えてなかったっけか)
そう思った戀華は、いい機会だと思い彼の言葉に肯定で返した。
「ん......」
「やっぱりね.....なら、気をつけた方がいい。君も既に感じてるとは思うけど、既に君の意識は少しずつ消えようとしている。それを防ぐには、できる限り自分という存在を意識する事だ。幸いなことに......と言えば良いのかな?体は睡眠が必要だけど、君自身の意識は起きていても問題がない。そういった時間を利用して主導権....と言えばいいのかな......それを自分に引き寄せて行くんだ。俺も、そうやってどうにか今日まで意識を保っている」
エリックの話を聞いた戀華は、若干違う事を思っていた。
(うーむ......確かに、俺とは別の意識があるのは間違いないと思う。けど......そこまで危険視するような相手には思えないんだよなぁ)
そう.....1日程度しかこの世界に来てから時間は経っていないが、戀華はそこまで危機感は抱いていなかった。単純に.....自分が生み出したこの女の子が、自分を害すると思いたくないという事もあるけれど、路地裏で泣いていた姿やオロオロしていた姿を見ていて、エリックが言うほど危険な存在には見えなかったのだ。
(ただまぁ.....一応頭の片隅にはおいておこうかな)
「ん......注意、しておく」
「そうしてくれ。せっかく会えた友人が消えてしまうのは悲しいからね............さて、これが最後になるかな」
そう言いながら、エリックは一度姿勢を正し、これまでも真剣だった表情が更に引き締まった。それを見てレンゲの表情にも緊張感が走る。
これまでの内容もなかなかに驚く内容だったけど、今からされる話はそれらを上回ることが容易に予想できてしまった。
「実はね..........天」
エリックがそう言いかけた時だった.....。突然廊下から慌ただしい足音が聞こえてきて、先ほどエリックが指示を出していた女性職員が飛び込んできた。
「た、大変ですギルマス!」
「どうしたんだい?もしかして天使が現れたとか?」
「.......天使?」
戀華は首を傾げた。天使と言えば、ゲームだった頃は特定のイベントで仲間として戦ってくれる頼もしいNPCだった。その戦闘力は凄まじく、戀華がまだ魔法剣士だった頃の話ではあるが、自身の10倍以上のダメージを叩き出すとてつもない存在だった。
「そうなんです!しかも......数が尋常じゃないんです!!」
「そうか......いや、今回ばかりは逆にタイミングが良かったとみるべきかな」
「は!?」
エリックの発言に、女性職員は素っ頓狂な声を上げた。だが、それも仕方ないだろう。人知を超えた戦闘力を持つ天使が大量に出現した状況で、むしろ嬉しそうな顔をしているのだ。あまりの事に気が狂ってしまったのではないかと女性職員は思ってしまった。
「レンゲ......こちらに来て早々で済まないが、天使の相手......お願いできるかい?」
「え?......ちょっとギルマス?」
女性職員は更に驚いた。先程の下での会話で、目の前の少女が有名な“魔導錬士”である事は理解している。それでも、例えAランク冒険者でも天使1人を倒すのに5人以上で当たってようやく互角といった戦力差なのだ。
だというのに、エリックの口ぶりだとレンゲ1人で戦わせようとしているように聞こえた女性職員は何を言っているのか理解できなかった。
更に驚いたのが........。
「ん......わかった」
レンゲが二つ返事で了承した事である。
「あ......あの?ギルマス?流石に“魔導錬士”様でも1人では......」
「大丈夫大丈夫。か....のじょの力を皆んなに理解してもらうにはちょうどいい相手だ。っと.....あまりのんびりもしていられないね。外に行こうか」
一瞬、レンゲの事を彼と言いそうになったエリックはギリギリで言い直すと疑問に思われないうちに歩き出した。
戀華は危ないなぁと思いながらも、それに続く。
女性職員はと言うと、あまりの事に頭が付いて行かず呆然としていたが、ハッと現実に戻ってくると慌てて2人の後を追いかけるのだった。