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蓮華異譚  作者: ジェーン
2/12

第1話:スーシーの都

第1話になります。

誤字脱字などがあれば修正していきます。

第1話:スーシーの都


あまりの現実に絶叫を上げてから少しして、なんとか冷静さを取り戻した戀華は女の子の体になってしまったという現実から一旦目を背け、一先ず1番近い街へ移動する事にした..........道中のモンスターを薙ぎ倒しながら。


こうでもしていないと、体の事が気になってしまって精神的に保ちそうにない.....。


だが.......この戦闘が全く無意味な行動じゃなかったのは幸運だった。

まず、草原一帯に現れるモンスターの強さは戀華が思っていたよりもだいぶ低いようだ。だいたい、レベル15〜18と言ったところだろうか?パーティを組むなら、駆け出しでもなんとかなる程度の難易度に下がっている。

他のフィールドやダンジョンも同じとは限らないけれど、1つの目安にはなるだろう。


それに、戦闘をこなす内にこの体にもだいぶ慣れてきたように思う。現実の体が180cm近くあったせいか、最初は150cmすら無いこの体を動かすのにも苦労したが、今では歩幅やリーチもわかってきたおかげでスムーズに戦えるようになってきたな。


(後はスキルかな......。こっちはまだ試行錯誤が必要だけど、剣技は発動モーションがあるらしいな。モーションを取ってからスキルを発動しようと念じる事で初めて使えるようになっているようだ。)


まだまだ慣れが必要で、発動までに時間が掛かるけれど威力は絶大なので、出来るだけ早く使いこなせるようになっておきたい。

それに加えて、発動モーションを取っておきながら別の行動に出ることも可能なようなので、フェイントとしても使えるのはゲームだった頃と比べると使い勝手は上がっていると思えた。


(他には........どうやら発動してからも軌道の修正は可能みたいだな。慣れてきたら急所を狙えるようにする練習も必要だろう。恐らく、それがゲームだった頃のクリティカルヒットと似たような効果を出すのだと思うしな)


次に........魔法についてだ。戀華の職業(クラス)はメインが魔導剣士でサブが錬金術師な事もあって、魔法も結構使える職業になっている。むしろ、戀華は魔法の方が得意だ。

ちなみに、ゲームだった頃は剣士と魔術師のレベルを70以上にするとソードマスターと賢者、魔法剣士の3つの中位職業にクラスチェンジ出来るようになって、さらにこの3つをレベル70以上にする事で、剣聖、大賢者、魔導剣士の3つの上位職業にクラスチェンジできるようになっている。


(俺がこの世界に来る直前のアップデートで4次職業........覚醒職業というのが実装された筈なんだけど.........今のこの世界に、覚醒職業が実在するのかはまだわからないからなぁ)


っと.........思考が逸れてしまった事に気付いた戀華は、思考を魔法についてに戻した。一応、ステータス上にはMP.......マジックポイントが表示されてはいるが、実際に魔法を使ってみると......MPは精神力......みたいなものだとわかった。

魔法を使うと、少しだけ疲れるような感覚があったのだ。試しに、適当に魔法を使い続けてMPが残り1割くらいになるまで減らしてみたら、とてもじゃないけど動き回れそうにはなかった。


例えるなら.........重い風邪をひいて、熱が40度近くある時みたいな感じだろうか?

あまりの辛さに急いでマジックポーションを飲んで回復するしかなかった。


他に挙げるとすれば.........この世界のモンスターには当然、HPバーなんてものは存在していなかった。両腕を切り落としても攻撃してきたモンスターもいたし、体を真っ二つにしてもすぐに死んだりはしなかった。

それと、ドロップアイテムも無いみたいだった。素材は自分で解体しないと手に入らないみたいだ。


(面倒だけど.........唯一の救いは、解体せず死体のままでもアイテムボックスに入れる事が出来たことかな)


そんなこんなで、最初はモンスターを斬った時の感触や血の匂いに顔を顰めていた俺だったけど、数十匹倒す頃にはそれも気にならなくなり始めていた。


(慣れるのが早すぎる気もするけど.......まぁ、いつまでも嫌な気持ちになるのに比べれば些細な変化だとも思う)


気づけば、いつのまにか草原から街道に出ていたみたいで、モンスターの数も随分と減ってしまった。

この位置だと......恐らくスーシー街道の方だと思う。反対側にはスーシー緑道という道があるんだけど、そっちはダンジョンに繋がる道なので今は用はない。


(本当はマップで確認しながら進みたいところだけど......まさかマップ機能も消えてるとは思わなかったなぁ。多分、街に行けばこの辺の地図くらいは売ってるだろうから、真っ先に購入しなきゃ。

というか、お願いだから売っていて欲しい!)


「っと.......街......見えてきた」


(ん......今俺は喋ろうとしたっけ?)


そう思いながら進行方向を見て......驚いた。


「私の知ってる街じゃ......ない?」


そう.....視界の先に見えるのは、ゲームの時なら大都市と言っても良いくらいの大きさがあった。戀華の知っているスーシーの街は、良くて中規模の街と言ったくらいの大きさしかなかった筈だ。

防壁なんてものも無かったし、門の前に兵が立っていたりもしなかった。


だが、今戀華の目の前にある街は、周りが高い壁で囲まれていて、5mはありそうな門の前には鎧に身を固め槍を持った兵士が2名立っている。


(もしかして.......入国審査的なものもあるんだろうか?だとすると不味い.....。ぶっちゃけ身分証っぽいものなんて何も持ってな.......)


そこまで考えて、戀華はある事に気がついた。


「もしかして......これなら使えるかも?」


そう言って取り出したのは、薄い青色のクリスタルで作られた一枚のカード。そこには、レンゲの名前と職業。それに、Aランク冒険者と書かれていた。


(って......Aランク!?俺ってSランク冒険者だった筈なんだけど.......。ま、まぁこの際ランクはどうでもいいか?今は取り敢えず街に入れれば良いんだし?それにしても......さっきから声に出そうと思っていないのに喋っちゃってるのはなんでだろう?)


そんな疑問を感じながらも、心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキしながら門の前まで歩いて行くと、兵士が訝しげな顔で俺に声をかけてきた。


「止まれ。子供1人とは珍しいな.......入国証か、身分証になるものは持っているか?」


(へ、平常心だ......変に狼狽えれば怪しまれるに違いない!ここはそう.......むしろちょっと偉そうなくらいでちょうど良い筈!!)


「入国証は無い......けど、これでは駄目......かな?」


(なんで自信なさげなの!?」


そう言いながら冒険者登録証を兵士に渡すと、兵士はあからさまに驚いた顔でカードを凝視した。


「これは.....!?く、クリスタルの登録証!?」


「バカな!?クリスタルのカードが与えられるのは、冒険者の中でもAランク以上の者だけだぞ!?」


ふむ.......ゲームの時ならAランクの冒険者なんてゴロゴロいたけど、そんなに珍しいのかな?

なにはともあれ、これはチャンスだ。)


「それと......私を子供扱いしないで欲しい。少なくとも、貴方達2人よりは年上だから」


(嘘ですごめんなさい!中身は17歳のガキなんです!!けど.......もし、俺の予想が当たっているのなら。)


レンゲの年上発言に、片方の兵士が我慢できないといった感じで声を荒げた。


「ふ、ふざけるな!!お前のような子供が年上なわけが.......」


「ま、まて.......」


だけど、それを止めたのはカードを受け取った方の兵士だった。彼は、レンゲの言葉を聞いてすぐに、カードに記された名前を確認して驚愕の表情を浮かべていたのだ。


「クリスタルのカードに.......レンゲという名前。もしや貴女は、“魔導錬士”のレンゲ様.......ですか?」


(よし......どうやら予想の1つは当たっていたみたいだね。)


もし......この世界のAランク冒険者というのが、相当な地位にあるのなら.....。恐らく、レンゲという冒険者の名前はそこそこ有名になっている筈だ。

だとすれば、その名を表に出せば大抵の場合は受け入れてくれるだろう。

戀華はゲームだった頃の二つ名だった魔導錬士という単語を聞いて、レンゲのことで間違いなさそうだと思った。


問題は、どう見ても14〜5歳くらいにしか見えないこの体だけど........。


「ん......それと、この見た目だけど........錬金術によるものと理解しておけば、良い。詳細は、私独自の技術、だから.....教えられないけど」


「や、やはり!失礼しました!どうぞお通りください!」


どこか焦ったように素早く道を開けてくれる兵士。もう1人の方は、理解が追いついていないのかレンゲを見つめたまま棒立ちになっているところをもう片方の兵士に無理やり引き摺られていた。


「ん.......ありがと」


レンゲがそう言うと兵士2人は頰を染めながら声を揃えて「恐縮です!」と答えた。


(ふふふ......こんな美少女に笑顔を向けられたらそりゃそうなるだろうさ!.......中身は男なんだけどね)



街の中は随分と賑わっていた。見渡す限りの人・人・人!!!中には冒険者っぽい見た目の者もいて、もしかしたらこの中に...戀華と同じようなプレイヤーがいるかもしれないと思って注意深く観察してみたけど、ゲームの時みたいに頭上に名前が表示されるわけでもないのでさっぱりわからなかった。

声をかけてみるのも1つの手だと思ったけど、情報が少ない中で知らない人間に関わるのはやめておこうと考えを改めた。


(べ、べつに......知らない人に話しかけるが怖かったわけじゃないぞ!?)


..............とりあえず.....これだけ大きな街なら宿は後回しでも確保出来るだろう。それなら、今は知り合いがいる可能性のあるギルドに行くべきだ。

そう考えた戀華は、ギルドに向けて歩き出した。



〜2時間後〜


....................ギルドに向かっていた筈の戀華は現在、若干薄暗い路地に座り込みながら途方に暮れていた。


最初は軽い足取りで進んでいた戀華だったが、店先に並んでいる見たことのない商品に興味を惹かれて見て回る内に、自分が今どの辺りにいるのか分からなくなってしまったのだ。

気づけばこんな路地裏っぽい所に入り込んでしまい、途方に暮れてしまっている。


俗に言う........迷子というやつだ。


「うぅ.......ぐすっ....暗い〜」


(おい....待て待て!?確かに途方に暮れてはいるけど俺は泣きたいとは思ってないぞ!?)


そう思ってはいるものの、体は正直なのだろうか?どんどん涙が溢れてきて止まりそうにない。


そんな時だった。路地の向こうから、なにやら急いだ雰囲気の足音が聞こえてきて、それは徐々に大きくなってきた。

戀華は警戒しようとしたんだけど、泣きじゃくる体の方は言う事を聞いてきれなくて.......。


とうとう足音がすぐそこまで迫ってきたと言うところで、ようやく体の方も気づいたらしく慌てて立ち上がろうとして........。


「うぎゃ!?」


「あぅ!?」


勢い良く飛び出してきた人影と思い切りぶつかり吹っ飛んでしまった。


「あいたたた.......も〜!なんなのよ!?」


「あぅ.......い、痛い」


(むぅ......この体に痛みを感じさせるほどのダメージを与えるとは.......コイツ何者だ?)


「え?.......わわわ!?ご、ごめんね!大丈夫!?」


「ん.........」


どうやらワザとじゃなかったらしい。慌てて戀華の手を取って立ち上がらせてくれた相手は、まだ20歳にはなっていないだろう女性だった。

栗色の髪と瞳に皮のローブを着たいかにも冒険者っぽい出で立ちだったけど、1番の特徴はやはり.....頭に生えている獣耳と背後にある尻尾だろう。


(ふむ.......この耳は猫耳族かな?見たところそこまで強そうには見えないが.......。装備からして恐らく術士系だろうな。)


「ホントごめんね!ちょっと集合時間に遅れそうだったから慌ててたんだよ〜。怪我とかしてない?」


(悪いやつじゃなさそうだな。急いでるって言ってたけど丁度いい。ぶつかってきたお詫びって事で道案内をさせよう。)


「大丈夫......でも、迷ってたから良かった」


「ん?迷子なの?この辺り入り組んでるからね〜......。あ、お詫びに広いとこまで案内しようか?」


「いいの?」


(おぉ......向こうから提案してきたぞ。願っても無い。)


「大丈夫!ギルドに行くところだから、途中までになっちゃうけど.....」


(マジか!なんという奇跡!これはギルドまで案内してもらえるチャンスじゃないか!)


「私も.....ギルドに行きたかった。......一緒に行っても、良い?」


(美少女の不安そうな顔+上目遣い!例え相手が女性だろうとこれで断れる者は早々いない筈!)


「〜〜〜っ!ま、任せて!あ、私はアイシャ!貴女は?」


「レンゲ......よろしくね、アイシャ」


(よしよし......案内役、ゲットだぜ!)


案内してもらう道中、アイシャからは色々な話を聞かせて貰えた。

なんでも、このスーシーの都は十数年前まではここまで大きな街ではなかったらしい。14年前......突如襲ってきた魔物の軍勢によって隙を突かれたこの街は、ギルドマスターであるエリックを筆頭に冒険者達が撃退したものの、またも隙を突かれて領主とその家族を殺されてしまったそうだ。


領主を失った街の人達は、次の領主を誰が務めるかで揉めたそうだが、その内の誰かがギルドマスターにお願いしたらどうだろうと言ったそうだ。

その意見を取り入れた街の人達が、エリックに話を持ちかけたところ、最初は渋っていたようだが何度も説得を繰り返す内に承諾してくれたらしい。


それから数年で、エリックは街の復興と同時に発展までさせることに成功し、スーシーの街をこの辺では有数の大都市にまで成長させたそうだ。


戀華は内心で流石だな......と思いながらも、アイシャの次の話に耳を傾けた。


「実は私、魔導剣士を目指しててね......。何とか剣士のレベルは50まで上がったんだけど、魔術師の方がまだ23でさぁ。魔導剣士になれるのはいつになることか.....」


たはは〜と笑うアイシャだったけど、その瞳には羨望の色が見て取れた。


(誰か......憧れの人でもいるんだろうか?それに.....転職の条件が緩和されてる?)


「どうして......魔導剣士?」


レンゲがそう聞くと、アイシャは恥ずかしそうに頰を染めながらも話し出した。


「えっと......ね。私の憧れの冒険者が、魔導剣士なの。その人は......ソロなのに数多くの魔王を討ち取ってた人で、それまでは最弱って言われるくらい人気が無かった魔導剣士という職業に新たな可能性を示してくれた。他にも、サブ職業が錬金術師でね?どんどん新しいアイテムを作り出して.......世界の平和にも、発展にも大きく貢献した人なんだ!最近は.......あんまり名前を聞かなくなっちゃったけど、私もいつかその人みたいに皆んなのために戦えるような魔導剣士になりたいの♪」


(.............................それって、もしかしなくても俺のことじゃないか!?)


「そう言えば......その人の名前もレンゲっていうんだよ?レンゲちゃんと同じ名前だね!良いなぁ〜羨ましいな〜!!」


(やっぱ俺のことだったぁぁああああ!マジか......まさかこの世界で初めて話した相手が俺のファンとかどんな偶然だよ!?あと......あんまり抱きつかないでもらえませんかね?とても幸せな感触だけど本体が何を言いだすかわからん!!)


「ん.......アイシャの胸、柔らかい」


(ほらみろぉおお!?)


「ん?そ、そうかな?」


「うん....なんか、安心する」


(こらこらこら!自分から顔を押し付けるんじゃありません!!くっ......なんという至福の時間.....じゃなくて!?)


「あはは....そんな事言われたの初めてだよ〜」


(まぁ.....アイシャの性格を考えると世話される側っぽそうだしな。でもまぁ.......なんだ。少しだけ、この子の為に協力してやろうかな?悪いやつじゃないし.....道案内の礼もしたいし?幸せな時間を過ごさせて頂きましたし!)


「アイシャ......」


「ん〜?」


「強くなりたいなら.....少しだけ、役に立てるかも」


「え!?」


(そりゃ驚くわな......見た目子供だし、ついさっきまで道に迷ってたような相手だし。だがしかし!俺の正体は彼女が憧れる魔導剣士その人なのである!!俺が使っていた方法を教えてやれば、彼女も今よりずっと早く成長できる筈だ)


「ちなみに......今はどこでレベル上げしてるの?」


「え....?えっと?今は〜パーティの仲間とクエスト受けた時に一緒に経験値稼いでる感じかな?」


(ふむ......確かにパーティを組めば危険は少ないし場合によっては効率よく経験値も稼げる。けれど、それは同格同士で組んだ場合の話だ。さっきの言い方だと、あまり稼げてはいないようだし、実力に差があるのかもしくは......報酬は良いけど経験値効率が悪いクエストばかり受けているかのどちらかだろう)


「えっと......最近受けたクエストだと、どんなのが....ある?」


「最近かぁ.....前回のクエストはファイアバードの卵の納品だったよ。その前はポイズンスネークの群れの討伐だったかな?」


(ファイアバードってことはデレス火山か......あそこのモンスターって経験値めちゃくちゃ不味かったよな?それにポイズンスネイクの方もレベル相応って感じだ。これは.......報酬重視で選んでるっぽいな)


「どっちも......経験値美味しくないとこだね」


「え......そうなの!?」


「う、ん.......クエスト報酬はそこそこ美味しい...けど、経験値効率で言ったら最悪も良い、ところ」


そう言うと、アイシャは「そんなぁ〜!」と言いながら目の端に涙を浮かべてしまった。


(もしかして.....アイシャはパーティの仲間にいいように利用されてるんじゃないだろうか?これは......少し確認してみた方が良さそうだなっと.....その前に、俺が使ってた狩場を教えてやらなきゃな!)


「私が使ってた狩場だけど.....火鼠の巣窟はとても美味しい。敵は一種類しか出ないし、弱い割りに経験値は多いから」


「火鼠の巣窟.....?あそこも一回行ったけど、あんまり稼げなかったよ?」


「それは、数を狩らなかったから。あそこは下に降りれば降りるほど、敵の数が増えていく。だか、ら.......魔法が使える職業にとっては絶好の狩場。特に、魔術師が30レベルで覚える範囲系の魔法があれば、時間帯効率は凄いことに....なる」


そう言うと、アイシャは「そう言えば......」と何かを思い出したように目を見開いた。


「私が行った時も、魔術師の人達が何人かソロで潜ってた気がする!」


「ん......慣れてきて、マジックポーションをしっかり準備しておけば、1日で数レベル上げることも出来る」


「そ、そんなに!?」


嘘でしょ!?......とでも言いたげな表情のアイシャに、クスクスと笑ってしまって拗ねられてしまったけれど、戀華は更に注意点などを教えてやることにした。


まず、さっきも言ったようにこの狩場は範囲魔法が必須となってくる。けれどアイシャの魔術師レベルは23......。まだ範囲魔法は覚えていない。


けれど、このレベルなら戦い方を変えれば今よりもずっと効率良く経験値を稼げるのだ。

つまり、30レベルまでは浅い層で接近戦で敵を倒して行くというもの。範囲魔法に比べれば効率はかなり下がるが、幸いあそこに出てくるファイアラビットはある程度のレベルと武器さえあれば数回も攻撃すれば倒せる程度だった筈。

それに加えて、アイシャは先に剣士からレベル上げをしていたので、ファイアラビット程度一撃で倒せる実力はある筈だ。

というわけで、レベル30までは群がるネズミを剣でバッタバッタと斬りまくればいいわけだ。


そして、30レベルになったら今度は中層くらいまで降り、今度は範囲魔法でレベル上げ.......というわけだ。


ここで、もう一つ注意点があると戀華は考えた。

ゲームだった頃なら、どれだけ一気にレベルが上がってステータスが一気に上がろうが、強くなったぜ!って思うだけで別になんともなかった。

けれど.....この世界ではそうじゃないと考えたのだ。


ステータスが上がれば当然、今までより強い力で殴れたり、ずっと速く走れるようになったりする。

けれど、短時間で急激にステータスが増えると、自分が思っていた以上に体が動きすぎて逆に隙を生む可能性があると考えた。

例えばだが、敵の目の前まで走るつもりがスピードが出過ぎて止まれずぶつかってしまったり、軽くジャンプして避けるつもりが飛びすぎて格好の的になってしまったり......などだ。


なので......5レベル毎に、体を慣らす為に暫くは剣で戦うようにと教えておいた。


話を聞き終わったアイシャは、目を輝かせながら必死に今の情報を書き写していたが、それも終わると突然戀華の両手を握ってブンブンと振り始めた。


「ありがとー!そっか......こんな稼ぎ方があったんだね。これなら確かにソロでも効率良く経験値を稼げそうだよ!」


「ん......頑張って。応援してる」


「頑張る!......あっと....話してたらギルドに着いちゃったみたいだね。あの建物がそうだよ!」


(お.....もう着いたのか。ふむふむ、確かに冒険者ギルドって書いてあるな。この世界の文字が読めるか不安だったけど大丈夫なようだ。それにしても、俺の迷っていた時間は本当に無駄だったな.......アイシャに会ってから多分30分も経ってないぞ。)


「ありがとう....アイシャ。今度、一緒にクエストとか行こ」


「私こそありがとう!その時は是非是非よろしくね!」


お互いにお礼を言い合いながらギルドへと入ると、ゲームの時と似たような感じの光景が目に入ってきて、戀華は少しだけホッとした。

冒険者たちの喧騒と、受付嬢たちの声。ぼんやりと......そんな風景を眺めていたら、横から少し怒ったような声が聞こえてきた。


「ようアイシャ......随分と遅かったな?」


「げ.....リーダー.......あ、あはは〜」


(ふむ......こいつがアイシャのいるパーティのリーダーか)


年の頃は20代半ばといった所だろうか?

青い短髪をオールバックにした男で、軽鎧と腰に下げた直剣から恐らく剣士だろうことが伺えた。

声は怒っているようだったけれど、その表情はどこか仕方ないなぁ.....とでも言っているようで、ぱっと見はアイシャを利用しそうには見えない。


男を観察していると、更に彼の後ろからいくつかの声が聞こえてきた。


「リーダー。アイシャ来たんですか?」


「あの子が来ないと出発出来ないっすよ〜」


「あぁ.....今さっきな。ところで......隣の嬢ちゃんは誰だ?.......まさか加入希望か!?」


「違う違う!この子は......」


何故かものすごく嬉しそうにレンゲを見るリーダーの男。アイシャは慌てて両手を振りながら戀華を紹介してくれた。ついでに、彼らのことも紹介してもらう。


リーダーの男の名はフリッツ。見たとおりの剣士で、ランクはCになったばかりだそうだ。さっきの加入希望というのは、数日前に仲間が2人も他のパーティに引き抜かれてしまい、前衛をこなせるのがフリッツとアイシャの2人だけになってしまったらしい。

その事から、前衛職と後衛職を1人ずつ募集しているのだがなかなか希望者がいなくて困っていたそうだ。


2人目はココナという少女で、職業は魔術師。ランクDの冒険者で後方火力を担当しているそうだ。

年は14歳くらいだろうか?黒に近い紫色の髪をポニーテールにしていて、少しキツそうな表情をしている。これで眼鏡でも掛けてたら委員長というあだ名を付けていたかもしれない。


3人目はクラウという青年で、年は20歳くらいだろう。職業は盗賊で中衛と移動中の警戒を担当しているそうだ。薄めの金髪を短めに切りそろえており、顔もなかなかのイケメンだ。モテそうに見えるが......どうやら随分とチャラい性格をしているようで、戀華を見た瞬間「うぉ!美少女じゃん君名前は?歳は?彼氏いる?いないなら今度俺とデートしない?」などと矢継ぎ早に言ってきてフリッツのゲンコツを貰っていた。


(うーん......見た感じ、若干一名ふざけたのはいるけど悪い奴らじゃなさそうだな。)


そう思っていると、クラウに制裁を加えたフリッツがレンゲの方を向いて考える素振りを見せた。


「なるほどな、それで遅くなったのか。えっと......レンゲちゃんで良いかな?君はもう他にパーティを組んでいるんだろうか?」



なるほど.....せっかくだからこのまま勧誘するつもりみたいだな。けど、これからエリックに会うつもりでいるし......今のところは断っておこう)


「私はソロ。今のところは......パーティに入るつもりは、ない」


「そうか.....アイシャの話だと腕も立ちそうだし入って欲しかったが........仕方ないか」


「ごめんね.....」


「いや、構わないさ。暫くはランクの低いクエストを受けながら気長に探すとするよ」


フリッツはそう言うと、メンバーに向けて「最終確認するぞ!」と言って歩いて行った。

ココナやクラウも、「じゃあね」「今度デートしような〜!」と言いながらそれに続いていく。


(デートなんかするか!)


「それじゃ、私も行くね!今日は貴重な情報ありがとう!」


「ん........またね、アイシャ」


そう言いながら手を振ると、アイシャもまた「またねー!」と言いながら仲間たちの所へ走って行くのだった。


(さて.....俺も俺の用事を済ませなくちゃな)

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