《序章》 盲目の・・・女神?
もう何百年も目が見えない。この生活には慣れた。目が見えなくてもご飯はおいしいし、色んな想像もできる。まあ不便じゃないとは言いづらいけど、この生活にはそこそこ満足している。
と、いうのも、聞いて驚くなかれ、私は魔女だからだ!昔々の某魔物との戦いで、両目が見えなくなってしまった。アレが今までで1番苦戦した相手だったが、ある程度までは難なく倒すことができるくらい、私はまあまあ強い・・・はずなのだ。
かの魔物が姿を消してからというもの、どういうわけかこの辺りにはすっかり魔物の類は現れなくなった。もともと好戦的な質ではないので助かるのだけれども、いささか刺激に欠け・・・と言うと村人たちに魔女狩りとかいうので村八分にされかねないので、ここらへんでやめておこう。
最近の楽しみは薬草や宝石を探して来て、鍋でグツグツ。色々な薬や道具を作っている。最近といっても、かれこれ何年になるやらわからないくらいには続けている。その甲斐あって腕の方は上々だ。
どうしてこんなことをしているのか、というと、もちろん魔物がまた現れ始めたときに備えてというのもあるが、魔物が来たくらいで大騒ぎしてしまうようなかよわい村人たちの病気や怪我を治してあげたいと思ったのが1番大きなところだと思う。
私の目は治せないのかって?それについては私もよく考えたのだけれども、なかなかどうして、私の目だけは治すことができないのだ。私の目、というよりは、かの魔物にやられた傷 ー私に限らず他の者たちもー だけは治すことができないのだ。まあ彼らはとっくに寿命やなんやで死んでしまったし、この類の傷を持つのはもう私だけだろう。
そんなこんなで、村のみんなには、《盲目の女神》とか言われて歓迎されている。昔とは大違いだ。
女神なんてそんなことはないのだけれど、悪い気はしない。
このまま何も起こらず、平穏な日々が続けばいいなあ、と、そんなことを思いながら、夜風がぴたぴたと頬を撫で去って行った。