少女は_____の為に走り出した。
「はぁ? なんだこれ、意味分からないぞ……」
私の肩から顔を出し 目を凝らした辰巳は、眉間にしわを寄せて首を傾げた。
「辰巳、邪魔。 イケメンパウダー振り撒いてないで さっさと朝練行け」
手のひらを固くして、真横にある顔を遠ざける。
こんな顔の良い優男が幼馴染で いつも近くにいるなら、少女漫画の主人公のようだね。と側から見れば そう思うだろうが……。
私は ”今時の女子校生”みたいな者ではない。
流行りには疎いし オシャレにも興味ない。メイクもしないし、放課後に友達と一緒にカフェも行かない。
よく行くのは図書館や古本屋、誰も行かない古喫茶。だった……と思う。
細雪 蓮。
すなわち私を一言で言うと、古くさい。 その言葉に限るのだ。
「ちぇ……はいはい、朝練行ってくるよ〜」
……そうやって つまらない表情をした彼の背後を遠くから見つめることしか出来ない程。
私と辰巳には時の流れに時差がある気がして……
「……たまに、不安になるよ」
君は新しくて よく私を置いて先に行ってしまうけれど、
すぐに後ろを振り返って 一緒に歩こう と手を差し伸べてゆっくり進む。
私は それに甘えて手を取ってしまう。
かつて 私が君を救ったように、君はその真似をして助けてくれる。
『見なかったフリは もうやめようか。』
再度、手元の短い手紙に視線を落として 目を閉じる。
肺に酸素を供給して 吐き出す反復運動を大きく繰り返して、小さく一言。
「そうだね」
また、この重たい鎖を壊していいなら 君の救いを止める事が出来るなら。
私は、その為に出来る事を考えて 行動しなければいけない。
今日ではない、本物の明日の朝日を浴びる為に……。
私がこの世界から許される為に。