少女は_____を知っていた。
私は私立夕凪ヶ丘学園2年の細雪 蓮。
順風満帆で幸せな家庭に生まれ、良き友にも恵まれ、何一つと不満のない生活を送っていたはずだった女子高生もどき。
朝、100%のオレンジジュースを一杯 飲み干して学校の準備を進める。
何千回と聞いた誰かが亡くなったニュース。他愛もない会話、愛犬のポン太の鳴き声。外から聞こえる学生達の笑い声。
“今日”と変わらない”今日”が また朝を迎えた。
「蓮、おはよ」
「……あぁ、おはよう辰巳」
隣の家から幼馴染の大城 辰巳が顔を出して、気持ち悪いぐらいの爽やか笑顔で挨拶をする。
「無愛想だなぁ……もっと爽やかなろうよ」
「ニタニタ笑顔野郎の君みたいになりたくない」
何度、繰り返したか分からない言葉達が今日も空気に振動し、音となり 交わされる。
いつから?そう言われてしまうと私は口を閉ざしてしまうだろう。そんな事も覚えていないぐらい、この日を繰り返しているから。
「そういえばさ、今日 数学の課題提出の日だったっけ?」
違う。
「そういえば、そうだね」
それは今日じゃない。
この会話をした日は必ず、数学の西先生が熱を出して休むから、 提出は明日になってしまう。
「辰巳は課題やってきたの?」
まぁ、その明日が来たことは無いし。
「ん、俺?そりゃぁ 勿論……」
君はいつも、
「そんなのやるわけないじゃん!」
その答え一択だけに、 本当の笑顔を向けるのだが。
ここは時間跳躍の世界。
それは窓も扉も鍵をかけてしまった密室の様な、出口の見えない現実。
だからこそ誰もそれに気付かず、普通に暮らしている。
明日が来ると、昨日があったと、毎日が続いていると、信じながら生きている。
けれど、私はそれに異なり 気付いてしまったから。
普通にように 見て見ぬフリをして、
戻れるように 必死に目を背けて、
世界に溶け込めるように 固く閉ざして、
何事もなかったように 鍵を閉めた。