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NはNでも〜〜箸にも棒にもかからない、お金だけかかるNってなーーんだ??

N(にんげん)N(にんげん)でも〜〜箸にも棒にもかからない、お金だけかかるN(にんげん)ってなーーんだ??』

『ニーーートォォーーーー!!!』


会場にこだまする観客の声に対し、派手な衣装に身を包んだ司会者が正解!と拳を振り上げる。観客たちは一斉にどっと笑い、賑やかなBGMと人々の笑い声に俺みたいなちっぽけな存在はかき消されそうだった。


『さぁ!今宵も始まりました!NVN!お前ら職は欲しくないか!?欲しいなら〜〜勝ち残れ!!』


心臓がばくばくする。照明が強く当てられた会場とは対照的な薄暗闇のなかで、俺は生涯初めてではないかというくらいの緊張に襲われていた。それはただ多くの人前、ましてやテレビに出るという緊張ではない。いやそれもあるが、これで自分を変えるという重大さ、自分の駄目さをさらけ出すことへの恐怖などが、入り混じってこの足を震わせているのだ。


『まずAブロックからいくぞ!Aブロック1戦目1人目のバトラーは、こいつだぁ!!』


派手なロックンロールに乗って、俺の正面にある舞台袖から出て来たのは、いかにも冴えない風体の眼鏡をかけた青年だった。彼はまるでなにかを守っているかのような猫背で、顔は年中陽に当たらないニートらしく青白かった。


『このニートの名前は佐々木了!高卒で職が見つからず、そこからニートになった!現在22歳、ニート歴は4年!職歴ナシ!なかなかの強者だぞぉ〜〜!!』


司会者がおちょくるように彼のプロフィール、もといニートエピソードを披露する。バトルリンクをぐるりと囲む観客席では爆笑が起こり、時々司会者の声をも掻き消していた。敵ながら少し同情していると、彼はこの喧騒のなかで、何事かをぼそりとつぶやいた。


『あれ??佐々木くん?何か言いました?』

「っせーんだよ……俺のことをそんなに馬鹿にして!!お前のなにが偉いんだよ!!」


瞬間、会場が静まり返る。さっきまでの喧騒が嘘のように、観客も司会者もそのバトラーのことを見つめた。当然だ。ただの司会者に彼をそんなに罵る権利はないはずだ。たとえこれが番組のためのショーであったとしても……。

司会者は、今度は真剣にマイクに向かった。


『偉いですよ。私は大学を出て、激しい就職活動や出世争いを勝ち進んで今ここにいるんです。あなたとは違うんですよ』


閉口。閉口するしかなかった。まさか本気でこんなことを言う奴がこの世にいたとは。利●川先生もびっくりである。しかしそうだ。ここはNVNなのだ。ニートたちが夢にさえ見ることのできない、名の知れた大企業への内定を奪い合う見世物なのだ。ここに来た以上、番組に従うしかない。ここでは俺たちは人間ではなく、ただのニートなのだから。

足の震えはもう止まっていた。先ほどの出来事で覚悟はできた。俺はーーもう一度人としての名誉を取り戻し、あの人を見返す。


『ではそんな佐々木くんと対戦するバトラーを紹介するぞ!川瀬ーー守くん!!』


鳴り響くロックンロールに1歩踏み出す。俺は、勝つために、人生をやり直すために、その喧騒うずまく眩しい会場のなかへ飛び込んでいくのだった。

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