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Rな領民へ挨拶回り!

 勇者として召喚されたのに無能力すぎて領主をやらされることになった本田 蓮。

 そして、女給であるのに領主に逆らったり脅したり意地悪や嫌がらせを平然とやってのけるメイドのルイナ。


 ある意味癖のある二人だが、彼らは今焦燥としていた。


「なぁ、ルイナさん。」

「なんですか、ご主人様。」

「ヤバくね?」

「えぇ、ヤバいです。」


「「キルリアの領民、ヤバい(です)。」」


 二人はボロ屋敷の入り口に繋がる階段に座ってため息をつく。その二人の距離はかなり近くヤバいと評される領民達が蓮とルイナの距離を近づけてくれたのは確かだ。


「でも、決めつけるのは良くないか。愛の形は人それぞれって言うし…。」

「ご主人様。王国の法律では三親等以内の婚約は禁止されています。なので、父子、母子、兄妹、姉弟での近親婚はご法度です。」

「……全員捕まえなきゃダメか?」

「……知らなかったということにすれば…。」

「じゃあ、俺たちは何も知らなかったということで。」

「いえ、ご主人様は領主なので言い逃れできませんよ。」

「じゃあ、ルイナさんは?」

「……今日、私は屋敷の掃除をしておりました。」

「…おい、領民連れてくるぞ。」

「……。」

「わかった。連れてこない。連れてこないからナイフを仕舞え!」

「ご主人様はお優しいですね。」

「ははは、ありがとー。ルイナさんは世渡り上手だよね。」

「ふふふ、ありがとうございます。」

「あははは…。」

「うふふふ…。」


 蓮とルイナは顔を合わせて笑いあう。そしてどちらともなく再びため息をつく。


「ルイナさん。」

「なんですか、ご主人様。」

「真面目な話、知らなかったってことにしない?あの人たち普通に愛し合ってたし、それを引き裂くっていうのはどうにもなぁ。」

「そうですね。確かに愛し合ってましたし、引き裂くのは心苦しいですね。」


 二人はボヤきながら先程挨拶をして巡った領民達を思い出す。



 ⁂



 まず、初めに訪ねたのはボロ屋敷に一番近いレンガで作られた家の一つだった。


「トイレのノックって二回だよね?」

「は?」

「いや、なんでもない。」


 どうしよう、どんどんウチのメイドさんが不遜になっていく。どうやったら、ご主人様っ!、みたいになってくれるかな…。無理だな。


「じゃあ、ノックは三回で。」


 コンコンコン


「こんにちは。新しく領主となった者ですがいらっしゃいますでしょうか?」

「はい。いますよ。」


 扉の向こうからそんな女性の声が聞こえて、扉はすぐに開かれた。出てきたのはルイナほどではないが綺麗な女性だった。


「こんにちは。領主様ですか?」

「はい。新しくこのキルリアの領主となりました本田 蓮です。隣にいるのは女給のルイナです。」

「こんにちは。蓮様専属女給のルイナです。」


 蓮…様…だと?うぉ、寒気が…。


(ご主人様。)

(へ?)


 ーバチっ!


(いてっ!おい!このメイド!ついに手をあげるようになったな!)

(申し訳ありません。今、なぜかイラッとしたので、つい…。)

(つい!?)

(あ、ほら、ご主人様。目の前の女性がご主人様のことを変な目で見てますよ。恥ずかしいのでじっとしておいてください。)

(……後で覚えておけよ。)


「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもないです。」

「そうですか?…あ、申し遅れました。私はアニーと申します。今、主人は不在なのですがもうすぐ帰ってくると思いますので中でお待ちになってください。どうぞ。」

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。」

「お邪魔いたします。」


 アニーが前を歩き二人を先導する。その際、蓮はレディーファーストに則りルイナが先に入るように促すと驚かれ何かをさぐるような表情をされた。


(なんだよ。)

(いえ、なんでも。)


 二人はルイナ、蓮の順に家の中に入っていった。


「どうぞお掛け下さい。今、お茶をお出ししますね。」

「「失礼します。お構いなく。」」


(……和やかな家だな。)

(そうですね。)


 玄関から入ればすぐリビングで、そのリビングも広いというわけではないが全体的に暖かい色の家具や観葉植物が飾られていて、あのドアも消失した応接室とは全く対称的だ。


「粗茶ですが。」

「「ありがとうございます。」」


 二人は薄味のお茶をすすり、ふぅ、と同時に息を吐き出した。


「美味しいです。」

「ありがとうございます。それで領主様がなぜうちに?」

「あ、突然すみません。新しく領主となったので領民の皆様に挨拶をと思いまして。」

「そうですか。それはご丁寧にどうも。」

「いえいえ。」


 蓮とアニーは社交辞令をまじえながら世間話をする。すると扉が開く音がした。


「帰ったぞー!」


 現れたのはガタイのいい大柄の男性だった。


「あ!お兄ちゃん!おかえり!」

「ただいま、アニー。」


 ーぶちゅ〜


「「Oh〜。」」

「あ。」

「ん?なんだ、お客さんか?」

「うん、新しく領主になる方とその女給さんだよ。」

「「……。」」

「アニー、その領主と女給固まってるぞ。おーい。…おい。」


(ご主人様。)

(はっ!ごめん。ありがとう、ルイ…)

(キスごときで停止しないでください。気持ち悪いですよ。)

(そっちも止まってただろうが!)


「大丈夫か?」

「すいません、大丈夫です。それで、私、新しく領主になりました本田 蓮です。こっちは女給のルイナです。」

「よろしくお願いします。」

「おぉ、本当に領主様か!じゃあ、ついにあのボロ屋敷に住む人が現れたってことか!」

「ちょっとお兄ちゃん!すいません。」

「良いですよ。ボロボロなのは本当のことですから。」

「がーはっはっは!!」


 男の笑い声が響く。それをアニーは呆れた顔で見てから蓮とルイナに頭を下げてくる。それに二人は手を振って大丈夫だと示す。


「あぁ、笑った笑った。おっと、そういえば自己紹介はまだしてなかったな。俺はアニーの兄のマルコだ。よろしくな、領主様。女給さんも。」

「「よろしくお願いします。」」


 マルコは随分と気さくな人の様だ。蓮はまず最初に訪れた家に変な人がいなくて安心する。が、まだ帰ってきていない人の事を思い出した。


「アニーさんのご主人は…。」


 蓮はアニーとマルコを見て質問する。すると二人はなぜかバツの悪い顔をしてから苦笑する。


「あぁ、領主様。言ってなかったけど、主人は俺だ。」


 ん?どういうことだろうか?


「え、お兄さんでは?」


 蓮は兄のマルコを見て言う。ルイナも同様に疑問符を浮かべる。


「だから、兄でもあり夫でもあるんだ。」


 ……ん?


「えと、義理の兄妹で結婚したんですか?」

「いや、実の兄妹だな。な、アニー。」

「うん、あなた。」

「……。」


 ……どゆこと!?


(ルイナさん!ルイナさん!どういうこと!?)

(すみません、ご主人様。頭の悪そうなご主人様は仕方ないと思いますが私にも理解しかねる状況です。)

(……おい。今ので冷静になれたよ。)


「つまり、お二人は兄妹間で婚約をしている…ということですか?」

「「そうだ(です)。」」

「そうですか。…では、もう一つ質問を。」


 蓮は椅子から立ち上がり抱き合う兄妹の前に立つ。


「お二人は幸せですか?」

「「もちろん!!」」


 兄妹夫婦の息の合った返事に蓮は笑みをこぼす。


「なら、良いです。私たちは帰りましょう。ルイナさん。」

「はい。」


 蓮はルイナを呼び玄関に向かう。


「何かあればボロ屋敷に来てください。それでは。」

「失礼します。」

「いつでも来いよ!」

「お待ちしてます!」


 こうして蓮とルイナは衝撃的な挨拶巡り『一軒目』を終わらせたのであった。



 ⁂



「なんであの時大物感を出していたんですか。似合ってなかったですよ。」

「領主だから!似合ってなくても大物なんだから良いんだよ!てか、そんな大物云々はどうでも良いんだよ!ルイナさん領主に魔法使って攻撃したよね!?」

「……記憶にございませんね。」

「…マジでいつか倍返しにしてやる。」


 そう言うとルイナは小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。より一層、蓮の決意は固いものとなった。


「でも、あのマルコ、アニー夫妻だけじゃなかったよなぁ。」

「そうですね。姉弟夫婦のジャン、リアン夫妻。母子夫婦のジーン、ミネ夫妻。父子夫婦のオットー、ゾイ夫妻。どなたも深く愛されていましたね。」

「そうだねぇ。あ、あと、近親婚じゃない夫婦もいたよな。」

「マクベスさんとアントワーさんですね。」

「あの二人も中々ヤバかったな…。」

「ヤバかったですね…。」


 再び回想の世界へ。



 ⁂



「……。」

「……。」


 蓮とルイナはもう言葉を発する気力も残っていなかった。それは先程まで挨拶巡りをしていた近親婚者達の精神攻撃によるもので、今、『ステータス』を開けばヒットポイント(HP)は三分の一まで削れている気がする。


「「…ふぅ。」」


 二人で同時に息を吐く。


「もう、日も暮れてきましたね。」

「そうだね。あと、二軒だけどその内の一つは外れにあるから今日はもう一軒だけだね。」

「そうですね。…行きますか?」

「行こうか。」

「かしこまりました。」


 二人は立ち上がり今日最後の戦場へと向かう!


 で、到着した同じレンガ作りのお宅。


「……。」

「……。」

「……さぁ、いこ」

「早く行ってください。」

「今行こうとしてたよね!?」

「……。」


 その冷えた目はやめようか。何かに目覚めたらどうすんだ!


「じゃあ、行くよ。」

「はい。」


 コンコンコン


「こんにちは。新しく領主となった者ですがいらっしゃいますでしょうか?」

「はーい!ちょっとお待ちくださーい!」


 中から若い女の人の声と共にドタバタとせわしない音が聞こえてくる。そして扉が開かれる。


「お待たせしました!あら、随分若い領主様ですね。」


 出てきてそう言った女性は若いが年上のようだった。印象としてはお姉さんという感じだった。


「えぇ、まだ10代ですからね。」

「それは本当に若い!あ、どうぞ中に入ってください。少し散らかってますけど。そちらのお付きの方も。」

「お邪魔します。」

「失礼します。」


 女性に促されて蓮とルイナは家の中に入っていく。もちろんその時もレディーファーストも発動させた。そして、短い廊下を歩きリビングに入った。


「なん…だ…これ…。」


 その時、蓮は己の目を疑った。

 床に沢山の散らかる何か。それは様々な形状をしたもので、蓮にはそれが……

 大人の玩具にしか見えなかった。


「ご主人様?どうしたんですか?」


 恐々となっている蓮にいち早く気づいたルイナが声をかけてくる。どうやらルイナは床に転がっているものがなんなのかわかっていないようだ。


「あら、領主様には分かっちゃいますか。よろしかったらお一ついかがですか?」


 そして、遅れて蓮の様子に気づいた女性が笑顔でそんなことを言ってくる。


「い、いえ、け、結構です。」


 なんとか声を絞り出して蓮は丁重に断る。が、内心は穏やかではなかった。


(なんでこんなものがこんなにころがってるんだよ!?)

(ご主人様、ここに転がってるもの、何なのか知っているのですか?ご主人様が知っていて私が知らないというのはなんだが癪に触るので教えていただきたいのですが。)

(いや、ルイナ。これは知らなくて良いものだよ。それに、これは俺の口から言えるものじゃ…)

(…そうですか。ふーん。)


 明らかに納得はしていない声色だったが意外とすんなり引き下がったことに蓮は驚く。そして、驚きそのままについついルイナの顔を覗きこむと睨まれたので蓮も大人しく引き下がった。


 それから、今までのお宅と同じ様に椅子に座ることを促され、座るとお茶を出されて自己紹介という形になった。


「アントワーです。もう少しで主人も帰ってくると思うのですが…。」

「アントワー帰ったぞ。ん?誰かいるのか?」

「あ、帰って来た。あなた、領主様が来てるのよ。」

「領主様が?」


 リビングに段々と近づいてくる足音。そして現れたのは、細身だが筋肉質な腕や足を持った少し白髪の混ざったナイスなおじさまだった。


「領主様、主人のマクベスです。」

「こんにちは。新しく領主になりました本田 蓮です。今日は挨拶に参りました。隣にいるのは女給のルイナです。」

「こんにちは。ルイナです。」

「これはこれはご丁寧に。マクベスです。」


 三人は順番にお辞儀をして簡単な挨拶をすませる。それからアントワーさんも混ざって世間話をする。その間、お兄ちゃん、姉さん、母さん、お父さんのような危ない言葉ワードが出ることはなく、この夫婦の関係性は普通なのかと思い始めたころルイナがある質問をしてしまう。


「アントワーさん。」

「なに、ルイナちゃん。」

「あそこに落ちてるモノって一体何ですか?」

「あ、ちょっ、ルイナさん!それは聞いちゃ…」

「「よくぞ、聞いてくれました!」」


 蓮の声を遮って、途端に声を大きく高くしたマクベス、アントワー夫婦がテーブルから身を乗り出す様にルイナに顔を近づけた。


(ご主人様。これはもしかして面倒なことに…。)

(なるね。確実に。)


「あれは二十年前のことだった。私が16歳。アントワーは15歳だった。その時、私はアントワーの執事として働いていてな……」


 とても長い話だった。が、内容はとても面白かった。だが、やはり長かったので要約すれば…


 アントワーさんは元々貴族のお嬢様でマクベスさんが執事で、20年前にアントワーさんが政略結婚させられそうになったので両想いだった二人は駆け落ちしたとのこと。そして様々な場所を巡ったが、二人には市井しせいとの接点があまりないキルリアの地が一番落ち着いたので現在はここに住んでいるとのこと。だが、ここに住んでから事件が起きたらしい。


「それでな、駆け落ちまでして愛の逃避行をしていた私たちは誰よりも深い絆で繋がれていると思っていた。だが、この地に移り住んでから、それは勘違いだったと気づいた。なぜだか分かるか?」

「……血の繋がりには勝てないってことが気づいたからですか?」

「そうだ!」


((そうなんだ…。))


「兄妹間・親子間。あの夫婦達だ!あの夫婦達には絶対に勝てないのだ!」


((……。))


「それで私達は考えた。どうしたら血の繋がりに私達の愛が勝つことができるのか…。私達は考えに考えた…。そして数年が経った時、私達夫婦はある結論を出したのだ!」


「「繋がりは勝てないけど、繋がりかたで勝てば良いのではないかと!!」」


 あー、これはダメなやつだ。


「ルイナちゃん。さっき私にこれは何と聞いたわよね。」

「はい。」

「これはね、私と夫の繋がり方、あるいは交わり方を凄く濃厚にしちゃうアイテムなのよ!」


 はい、アウトー。この夫婦は何を言ってるんだろー。元、お嬢様でしょ、アントワーさん。それと執事はお嬢様に何をやらせてるんだ。


「つまり!私と夫のセッ「もう良いですよ!」…そう?」

「そうです!ね、ルイナさん!」

「……。」

「ルイナさん?」


 蓮は隣に座っているルイナを見る。だが、そこにいたのはいつもの不遜極まりない態度のサドメイドではなく、床に転がるブツを見ながら、セッ、セッ、セッ!と壊れたラジオのように繰り返す、赤い顔をしたとても可愛らしいメイドだった。


「もしかして、ルイナさん、こういうの弱い?」

「にゃにが!?」

「……。」


 意外な弱点発覚。

 ルイナさん、実はエロ系に物凄く弱い。

 それも思わず猫語を発するほど。


「っ!し、失礼いたしました。」


 そう言うルイナに蓮は大きく首を振り今年一番の笑顔を彼女に返す。


(…後で記憶を消してやります。うっかり死んでも恨まないでくださいね?)

(ルイナさんはやりかねないな!……いや、やめてよ?さすがに仲間の勇者に助けてもらうからな?)

(…消してやりますぅ〜。)

(言い方変えてもダメだよ!)

(ちっ。)


 可愛らしい顔から一転、恐ろしい形相で蓮を睨みつけ、小さな舌打ちをしてからルイナは繋がり方濃厚夫婦に顔を向けた。


「お話楽しかったです。ありがとうございました。」

「「いえいえ。」」

「では、そろそろ私達は…。」

「そうですね、日も傾いていますね。またいつでもいらしてくださいね。」

「……機会があれば。」


 蓮は苦笑いをしながら席を立つ。一方、ルイナは蓮を冷えた目で見たが蓮は無視した。

 それからマクベスが先行しルイナが先に玄関を出て、後に蓮とアントワーが続く形で廊下を歩く。その時、蓮の制服をポケットに何かが入れられた。


「やっぱりこれ持って行ってください。女給さんとあんなことやこんなことできますよ?」

「……。」


 蓮は半目でアントワーを見ながらポケットの中を探ると出てきたのは大人五人ぐらいがくぐれるだろう、ゆとりのある長さで輪っかになった赤いヒモだった。


「使い方分かってるんじゃないんですか?」

「…えぇ、分かりますよ。」

「じゃあ、持って行ってください。新品ですから安心してくださいね。」


 結局、蓮はその赤い輪っかを受け取ってしまった。


「「領主様、女給さん。いつでも来てください。」」

「あはは、ありがとうございました。」

「……。」


 蓮はまた苦笑いしながら、ルイナは一礼をしてマクベス、アントワー夫妻の家を後にした。そして、暗くもなってきたので二人はもう一軒を残してボロ屋敷に帰還することになり、階段で焦燥することになったのだ。



 ⁂



「で、貰ったのがこれですか。」


 回想から帰ってきた蓮は同じく帰ってきたルイナにさっそく貰ったブツを取り上げられていた。


「ろ、ろくな使い方しないのは分かっていますが…こ、これはどうやって使うのですか?た、ただのヒモにしか見えませんが?」


 領主に対しても饒舌だったはずのルイナがタジタジになりながら聞く。やはりエロ系は苦手らしい。現に頬も赤らんでいる。


 可愛い。


「可愛い。」

「はぁっ!?」

「あ…。」


 しまった。思ったことが口から出ていたらしい。咄嗟に俯き口を抑えても時すでに遅し。蓮は、赤から黒になり冷えた目を向けるであろうルイナの顔を恐る恐る見上げる。


「……っ!?」


 見上げた蓮は固まった。


 ルイナは頬が更に赤が増して耳までも赤くなっていたのだ。そして、その蓮の気付いたのかルイナは目を見開き片手をバチバチさせ始めた。


「うぉい!その電気はヤバい!その魔法はやめろ!」

「死んでくださいっ!」

「いやぁぁああーー!!」


 その日、遥か東の地で光り輝く龍が降臨なさったとして数ヶ月後に各国合同調査隊が勇者を伴い派遣され、同じく魔王軍も調査隊を派遣され、さらにさらにそこで大規模戦闘が起こるのは彼らは知る由もなかった。


「…な、何に使うかは分かりませんがとりあえず、これは私が預かっておきます。」


 黒焦げになって地面に横たわる蓮の横でルイナはいそいそとそれをポケットの中にしまった。


「ふぅ。…ご主人様、そろそろ起きてください。起きないとまた浴びせますよ。」

「っ!誰が起きれない状況にしたと思ってるんだ!」

「起きましたね。」


 ちくしょう!絶対に復讐してやる!


「…はぁ。しっかし、結局知らないで通すしかないな。」

「そうですね。」


 二人は頷き知らぬ存ぜぬで行くことにした。そしてしばらく沈黙が続いたが再び蓮が口を開いた。


「婚約者がいるって良いな。」

「突然どうしたのですか?気持ち悪いです。」

「……。みんな幸せそうだったからそう思っただけだよ。」

「そうですか。」

「もしかして、ルイナさんもいちゃったりする?」

「はい、いますよ。」

「そうだよなー、いるわけないよなー。……え!?いるの!?」

「はい。でも、勝手に親に決められて嫌だったのでここに逃げてきました。」

「そ、そっか…。」

「…ま、嘘ですけど。」

「おいこら。」


 ふふ、とルイナは笑う。しかし、それはただの笑みには見えなかった。蓮にはその笑みが寂しそうな嬉しそうな、いろんな感情がい交ぜになったものに見えてしまった。


「なんですか、ご主人様。」

「いや、領主を頑張ってから婚約者を見つけようかなーって。」


 誤魔化すように蓮は答えた。


「そうですか。」


 ルイナは蓮の目をじっと見る。しかし、すぐにそのつり目は珍しく柔らかいものになって…


「頑張ってくださいね。」

「うん。頑張るよ。」


 そう言った二人の顔には夕焼けが照りつけ、頬はオレンジ色に鮮やかに染まっていた。

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