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不遜なメイドとの出会い!

「どうしてこうなった。」


 目の前に広がるのはボロボロの洋館のようなお屋敷。


「おかえりなさいませ。ご主人様。」


 そして、大扉の前で頭を下げる丈の長いメイド服を着た金髪ポニーテールの美女。


「あ、はい。ただいま…じゃなくて!ここどこ!?」

「ここは王国極東の地キルリアです。」

「へ、へぇ〜、ここが…。」


 メイドさんから視線を外し後ろを見れば僅かな家屋と僅かな雑草しか生えていない茶色い地面。


 再度嘆く。


「どうしてこうなった…。」

「勇者として召喚されたくせに無能力で使い物にならかったからでは?」

「え…。」

「いえ、なんでもありません。どうぞ中にお入りください。」


 何か聞こえた気がしたけど…うん、気のせいか。


 メイドさんに促されるままボロボロの屋敷に入る。そして辿り着いたのは応接室らしき部屋。


「お掛け下さい。」

「はい。失礼します。」


 元はソファーだったであろう、今は木の骨組みにベッドシーツを敷いただけのものに成り果てているそれに座る。

 メイドさんは横に立つ。


「俺はここで何をやらされるんですか?」

「王からお聞きになってないのですか?キルリアの領主となって再建と改革、開拓ですよ、ご主人様。」


 あぁ、無理矢理やらされることになった領主の話は本当だったのか…。


 涙がこぼれそうになるが、そうならないように顔を上に向ける。するとメイドさんの綺麗な顔が良く見える。


 あれ、そういえば、このメイドさんについては王から何も聞いてないな。


 そう思っているとメイドさんが頭を下げた。


「申し遅れました、私、『本田 れん』様専属の女給『ルイナ』です。よろしくお願いします。」

「あ、こちらこそよろしくお願いします。」


 お互い頭を下げる。だが、顔を上げるとメイドのルイナが不服そうな顔をしている。


「ご主人様、私に敬語は不要です。どうか楽な口調でお申しつけください。」


 立場は明確にしろということだろうか。確かに女給に敬語を使う領主なんて皆無だろう。


「わかりま…、わかったよ。でも、俺からも言いたいことがある。」

「はい。なんなりと。」

「俺のことはご主人様じゃなくて、せめて蓮さん、本田さん、とか、本田様、蓮様とかにしてくれると…」

「嫌です。」


 ……ん?拒否られた?頼み方がまずかったのかな?


「じゃあ、様、とか、さん、とかはいらないからせめて名前で…」

「申し訳ありませんが、嫌です。」

「……。今、なんなりとって…」

「嫌です。」

「……そ、そっか。」


 要するにお前の名前なんて呼びたくないと…。

 呼ぶくらいならご主人様の方が良いと…。

 わぁ〜、随分癖の強いメイドさんだなぁ〜。

 てか、メイドさんってこんな簡単にご主人様のお願いを拒否できるのぉ〜?

 異世界のメイドさんはこれが普通なのぉ〜?


 蓮は困惑しながらルイナを見上げるが、むしろ蓮にはルイナが蓮を見下してる様な気がしてならない。


「これからよろしくお願いします。ご主人様。」

「あ、あぁ、うん、こちらこそよろしく、ルイナさん。」


 少し口角の上がった彼女に蓮は引きつった笑みしか返すことができなかった。


 それからルイナがお茶を運んできたのでそれをリラックスしながら飲みほすと彼女からこんな提案が出た。


「ご主人様。挨拶も済んだことですし屋敷の中を案内しますが、どうなさいますか?」

「うん。ぜひ、案内して欲しいな。」

「かしこまりました。」


 ルイナの後ろを蓮がついていく形で、二人はボロボロの応接室から出てボロボロの廊下に出る。


「この廊下に並んでいる部屋は給士の寝室や物置として使われていたらしいです。」

「らしい?」

「伝聞でしか知り得ませんので…申し訳ありません。」

「怒ってないよ。大丈夫だよ。説明続けて。」

「はい。あちらが…」


 調理室、大食堂室、来客室、書斎など様々な部屋を案内される。どの部屋もドアは開けられておりその中は床が抜け落ちていたり蜘蛛の巣が張られていたり、誰も住まなくなってから大分時間が経っている様だ。


「本当にボロボロだね。」

「申し訳ありません。私もつい先日に到着したばかりでまだ屋敷には手がつけられていません。」

「謝らなくて良いよ。これは一人で何かができる広さじゃないよ。」


 むしろ補修やら掃除やらは大人数で国がやるべきだと思うし、それが終わってからこっちに来たかったな。完全に投げられたな、これ。


 続けてルイナの説明を聞いていると、ついに屋敷のほとんどの部屋を回り終わり応接室に続く長い廊下に出た。

 その時、一部屋だけ真新しいドアが付けられ閉じられているのを発見した。


「あれ、あの部屋は?」


 蓮は部屋に近づきドアノブに手を掛けた。


「開けないでください。」


 真後ろで声が聞こえたのと同時にパシッと手を掴まれた。

 その声は低くオドロオドロしく、掴む力は強い。


「ルイ…ナ…さん?」


 得体の知れない恐怖を感じながら恐る恐る振り返る。


「開けないでください。」


 飛びっきりの笑顔だった。

 が、瞳は明らかに光を失っていた。


「えーと…。」


 名前呼びを拒否された時より困惑していると次の瞬間、彼女の口から恐ろしい言葉が出てきた。


「開けたら殺しますよ。」

「っっ!?」


 開けたら死ぬとかじゃなくて殺すの!?

 ご主人様殺すの!?

 冗談じゃ…ないな!!

 やばい!この目はヤバイ!!


「わ、わかった。開けない開けない。絶対開けないから手を離そう、な?」

「……かしこまりました。」


 ジロリと蓮を見てからパッと手を離す。


 本当に俺の専属メイド…?

 会って十数分で逆らわれたり脅されてるんだけど…?


 尋常じゃない冷や汗と抑えられない足の震え。


「ご主人様?どうかなさいましたか?」

「どうかなさいましたかって…いや、何でもないです。」


 禁止された敬語が思わず口から出てしまう。

 もうこの時点でどちらが上なのか…。


「と、ところで!俺はどこで寝れば良いかな!一番損壊が少ない部屋が良いんだけど!」


 声を高々と上げ、陰鬱な気分を跳ね除けるように聞く。


「でしたら応接室がよろしいです。」

「あそこが一番損壊少ないのか…。」


 気分をあげようとしたが失敗した。もうこの際屋根さえあれば良いや、と蓮は割り切ることにする。


「わかった。あそこで寝るよ。」

「かしこまりました。後ほどベッドメイキングをいたします。」

「うん。よろしく。…それでさ…。」


 蓮は指をさす。


「開けないからあの部屋は何なのか教えてくれな…くれませんか?」

「ご主人様、敬語は要らないですよ。」


 じゃあ、その手に持ったナイフを下ろして!

 いつ握ったの!?

 ……。


「…応接室に行こうか。」

「かしこまりました。」


 再び同じ構図になる。


「これからどうなさいますか?」

「そろそろ日も落ちるし夕食やお風呂とかにしようか。」

「そうですね。ご主人様は長旅でしたから早めに準備いたしますね。」

「そうしてくれると助かる。」


 王城から極東キルリアまで実に五日。馬車にサスペンションやゴムタイヤなどなく体に骨に直接響く揺れでろくに眠れず、おまけに体力は疲弊しており、正直今すぐにでも寝たい。が、食事を取っておかないと体調を崩す恐れもあるし、お風呂も入っておかなければ不衛生である。だから、蓮は重たい体に鞭打って食事の席に着いたというのに…


「なにこれ…。」

「サンドワームの幼体のステーキ肉です。」


 地球風に言えば、茶色い芋虫焼き。

 はっきり言って気持ち悪い。

 そして、蓮は一緒に食べようと誘った対面に座るルイナを見る。


「なにそれ…。」

「ドラゴンのステーキ肉です。」


 地球風に言えば、アメリカンステーキレア焼き。

 すごく美味しそう。


「ルイナさん、サンドワームって美味しい?」

「いいえ。」

「…。じゃあ、ドラゴンは美味しい?」

「はい。とても。」

「……。」


 おかしい。なぜ領主が冷遇されて、メイドさんが厚遇されているのか。そして、なぜそれをさも当然のようにこのメイドさんは食しているのか。


 その金髪ポニーテールをツインテールにしてやるぞ!


「なにか?」

「いや、別に…。」


 と言いつつも恨みのこもった目をルイナに向けながら、蓮は口の中に広がる芋虫の気持ち悪いグニュっとした感触を噛み締めながら泣く泣く夕食を食べ続けた。


「ご主人様。」

「不味いよぉ不味いよぉ。ぐすっ。」

「……。ご主人様。」

「おぇ…ごくん。…ん?なに?」

「言い忘れておりましたがお風呂はありません。」

「…え。」

何分なにぶんこんなボロ屋敷なので掃除も改修もできてないのです。」

「そう…か…。」

「申し訳ありません。」

「謝らなくて良いよ。ルイナさんも入れないんだから。お互い大変だね…。」


 むしろ女性であるルイナの方がお風呂に入れないというのは男の自分より心苦しいものがあるだろう。


「いえ、私は入れますよ。」

「っ!?なぜ!?」

「自分の部屋に設置しましたから。」

「領主のお風呂を作るより先に?」

「はい。」

「……。」


 蓮、あなた疲れてるのよ。

 この一ヶ月は夢なのよ。

 だって授業中にクラス召喚されて異世界に飛ばされ、「勇者様!どうか魔王を倒してください!」なんて、そんな非現実的なこと有り得ないじゃない。

 きっと、このゲロ不味い芋虫も、メイドさんが領主に優しくないのも夢で、本当は授業中に居眠りしてるだけなのよ。


「あの、ご主人様…」

「俺、こんなに綺麗な美女メイドさんが専属になってくれて嬉しかったです。…ま、夢の中なんだけど。それとご馳走様でした。じゃあ、ルイナさん、おやすみ。」

「あ…」


 蓮は夢の住民の美人メイド、ルイナさんにニコッと笑顔を向けてそのまま食堂を後にして応接室に引きこもった。


「さっ、夢は終わりだ!次起きたら教室!だからお風呂にも入らないし歯磨きもしない……いや、歯磨きはしておこう。」


 鞄の中からクラスメイトの一人がチートスキルでクリエイトした歯磨き粉自動生成機能付き歯ブラシを使って口内をスッキリさせる。


「はい、完了。」


 そう言うとヘッドだけカバーをつけてそのまま鞄の中に突っ込む。ゆすぐ必要はない。構造を理解しているものは作成できるチートスキルと浄化魔法陣というチート魔法様々である。が…。


「だが、夢だ!そして寝る!」


 間違いなく体を痛めるであろうソファーだったものの上に横になる。


「さようなら異世界。こんにちは現世界ぃ〜。…すぅすぅ。」


 蓮はあっという間に深い眠りに落ちた、次の瞬間には担任の女教師に起こされるのを期待して…



 ⁂そうして迎えた次の朝⁂



「あぁ、知らない天井…てことは…。」


 ベッドから起き上がり蓮は窓の外を見る。


「わぁ、ドラゴンが見えるぅ〜。異世界だぁ〜。…いや、これが夢なんかじゃないっていうのは本当は分かっていたけどさ…。」


 つい現実逃避したくなるようなことが昨日は沢山起こってしまったから仕方がないのだ。


「いつつ…、案の定背中痛めたし。」


 蓮は伸びをしてから腰をトントンと叩きながら再び万能歯ブラシで歯を磨く。


「はぁ。今日こそお風呂入ろう。ルイナさんに頼んだら入れてもらえるかな…。いや、余計なことは言わないようにしよう。」


 もう完全に蓮の中ではルイナの方が立場は上だ。どんな命令でもひょいひょいと従ってしまう自信しかない。


「俺、執事でもやろうかな、ルイナさん専属の…。」

「それは良いですね。」

「だよねー…、ファッ!?」

「どうしたんですか、そんな変な顔して。不快です。」

「元々こんな顔なんだよ!ていうか不快!?」

「はい、とても。」

「今度、整形でもしてくるよ…ってなんでこの部屋にルイナさんがいるの!?」

「なんでって扉が開いてましたから。」

「開いてるというか外れてるね。」

「それともう一つ、一人でブツブツ何か言っててるのが気持ち悪いと伝えようと。」

「気持ち悪い!?」


 あれれ、おかしいぞぉ〜。昨日よりルイナさんが辛辣だぞぉ〜。


「あのー、ルイナさんって女給だよね?」

「そうですね。しかし、女給と言っても別にこちらがへり下る必要はないのではないかと思いまして…。昨日のご主人様を拝見して判断いたしました。」


 俺を拝見して…。あぁ、昨日、ちゃんと怒っておけば良かったのかなぁ〜。


「もう遅いです。ちなみに矯正しようとかは思わないでください。これが私の素なので。」


 そう言ってニッコリと笑みを作る。


「もちろん、仕事はしっかりと勤めさせていただきます。ですので…あらためまして、ご主人様。どうぞよろしくお願いします。」

「……。よろしく…。」


 そう言うしかなかった。だが、しっかりと勤めてくれるのだろうか。昨日のあの態度を見ていると甚だ疑問ではあるが。


「ところで私の専属執事になるのですか?」

「…ノーコメントで。」

「そうですか。では、朝食にしますか?」

「うん。そうしようか。」

「かしこまりました。」


 随分と接しやすくなったが一方で毒の量が増大した、そんなルイナに連れられ朝食の席に着くとすぐにお皿が置かれる。どうやらもう作り終えていたらしい。蓮の対面にルイナもお皿を置いて座る。


「あれ、今日は一緒?」


 蓮とルイナのお皿には同じ野菜のようなものが盛り付けられている。


「はい。」

「でも、昨日の夕食は違かったよね?」

「昨日の夕食に出しましたサンドワームの幼体は滋養強壮に良いとされているもので、ご主人様がお疲れでしたのでお出ししました…が、本当にお口に合わなかったようですね。申し訳ありませんでした。」

「え?あれって意地悪とか嫌がらせの類じゃなかったの?」

「……。」

「あ、悪い。今のはデリカシーなさ過ぎた。」


 頭を下げ謝罪する。頭を上げると本当は俺の体調を心配してくれてのことだったのか、と蓮は思わずルイナを見つめる。


 改めて見るとやはり美人だ。

 金色の髪と、ややつった目、ぷっくらとしたピンクの唇、背は蓮より少し低く、胸はメイド服の上からだが適度な大きさで美しく綺麗に見え、立った際、時折スカートの裾から見える御御足おみあしは適度に細く、お尻の形も綺麗で肌は雪のような美白だ。

 要するにルイナは美人、美乳、美尻、美脚、美白という美しさという概念をそのまま表したような女性なのだ。


「なんですか…ジロジロと…。」

「あ、あぁ、ちょっと感激しちゃって。ありがとうルイナさん。」

「どういたしまして、と言いたいところですが意地悪と嫌がらせも無かったわけではないので礼は半分だけ受け取ります。」

「おいこら。俺の謝罪と感動を返せ。」


 ふふ、と笑ってルイナは蓮の非難の目をかわす。


「はぁ。ちなみにお風呂は?」

「お風呂も使っていただこうと思ってましたよ。」

「あ、そうだったん…」


 いや、待て。騙されないぞ。俺のこと殺すとかなんとか言ってたよね?そんな人が素直にお風呂を貸す?


「貸そうとはしてましたよ。あまり貸したくはなかったのですが…。」

「だよねー。」


 もうこれ以上聞くのはやめよう。悲しくなるだけだ。


「ご馳走様でした。」

「ご主人様、昨日も言ってたその言葉はなんですか?」

「食後の挨拶。作ってくれた人への感謝を示す言葉だよ。食前の挨拶は、いただきます、って言うんだよ。」


 異世界転移もののテンプレが発動できたことに蓮は満足感を得る。


「じゃあ、ご主人様は私に感謝しているのですか?」

「え?そりゃしてるよ?」

「そう…ですか…。」


 え、なにその歯切れの悪さは…。

 また気持ち悪いとか?それとももっと感謝しろとか?


「もっと感謝しても良いですよ?」

「やっぱりか!いやでも本当に感謝してるよ。ありがとう、ルイナさん。」


 蓮はそう言ってテーブルに視線を合わせお皿を重ね始めた。


「…えへへ。」


 えへへ?

 え、誰!?今の声!?


「どうかなさいましたか?」

「ルイナさん今何か言った…?」

「いえ、何も。それより、お皿はそのままで結構です。私が片付けますので。」

「あ、はい。わかりました。」


 蓮は椅子を少し引きルイナがお皿を片付けるのを尻目に考える。


 あの声、ルイナさんだよな。でも、えへへ、なんて言うか?なんかすごく嬉しそうな声色だったけど。ボロ屋敷に住み着く幽霊の声とかの方が納得できるんだけど。


 そんな風に考えてルイナの後ろ姿を見ているとルイナがこちらを振り向いた。


「ご主人様。気持ち悪いので見ないでください。」


 ひどく冷たい目だった。皿を持たない片方の手はお尻を隠している。


「待って!そういう目で見てたわけじゃ…すみませんでした。」


 その手にどこからともなくナイフを持ったのを見て謝った。


「結構です。」


 やはり、あれは幽霊の声だったのだろう。そうに違いない。これ以上考えると死ぬ気がするからここで止めておこう。


 蓮は再び優雅に歩き始め金髪ポニーテールを揺らすルイナを見て首を振るのだった。


「それで今日はどうしますか?」


 お皿を置いて帰ってきたルイナが蓮に質問する。


「領民に挨拶巡りをしようか。」

「そうですね。私もどんな方が住んでいるのか知りたいのでお供します。」

「オッケー。じゃあ、お互い支度しよう。」

「かしこまりました。」


 ルイナの返事を聞くと蓮は立ち上がり応接室に戻る。着替えてもいないしお風呂にも入っていないので体を早く拭きたいのだ。


「では、お召し物をお脱がせ致しますね。」

「はい、お願い…ってなぜいる!?」

「なぜとは?女給の仕事をしようとしているだけですが。」

「いや、この仕事はしなくて良いから!命令だよ!」

「……。」

「え、なに…、まさか着替えさせたいとか…。」

「私も準備してきます。失礼します。」

「あ、はい。いってらっしゃい。」


 冷えた目を再び向けながらルイナは廊下へと消えていった。そして扉が閉まる音が聞こえた。


「ふぅ。そういえばルイナさんってどこの部屋使ってるんだ?あそこの開かずの部屋なのか?」


 蓮は廊下に顔を出す。すると閉じられた扉が一つしかないことに気づき、その部屋は案の定開かずの部屋だった。


「あそこがルイナさんの部屋なのか。そりゃ勝手に開けたら殺す…いや、殺すまではいかないな。開けたら殺すほどって、一体何があるんだよ…。」


 なぜだか震え始めた己の体を抱きしめて扉の外れた応接室に引っ込み、蓮は若干乾燥し始めているウェットティッシュで体を拭いて鞄の中に入れていた別の服に着替えた。


「さて、女性の支度は長いと言うし先に外で待ってるかね。」


 応接室を出て開かずの扉の前を通る。


「ルイナさん。先に外で待ってるよ。急がなくて良いから。」

「かしこまりました。」


 やはりルイナは開かずの扉の住民らしい。扉越しに聞こえる凛とした声の返事を聞いて蓮はボロ屋敷の外に出る。


「これから、これが俺の自宅なんだよな。はぁ、クラスのやつらは今頃どんなところに泊まってるのかな。」


 蓮の出発と同じ日に魔王討伐の力をつけるために魔法学園に出発したクラスメイトに思いをはせる。


「お待たせいたしました。」

「おー、来た…か…。」

「どうかなさいましたか?」

「いや、何を支度したのかなぁ〜って。さっきと同じメイド服のままじゃん。」

「これは外出用のメイド服です。」

「メイド服って外用と内用があるの!?」

「はい。もちろん。」


 へぇー、知らなかったー。


「何か?」

「いや。…じゃあ、行こうか。」

「はい。」


 蓮とルイナは歩みを進めた。まだ見ぬ極東の領民達に様々な想像を巡らせながら。もちろん、良い人だけでなく変な人もいるだろう。例え、絡まれたとしても想定の範囲内だ、と、蓮とルイナは思っていた。

 しかし、そんな極東キルリアの領民達は蓮とルイナの想像の斜め上を行く人達ばかりであった。

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