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ネコは異世界で闊歩する。  作者:


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第71話 コーリィは何である?

  吾輩、このライアット王の一言に顔には出さなかったものの、驚いたである。

 コーリィにファミリーネームがあること……それを意味することではなくてだな。コーリィが吾輩の奴隷だと看破されたことである。

 コーリィも吾輩同様、黙って聞いていたが、ライアット王の揺るぎなき眼光に諦めたように溜息を洩らし、ハイドマフラーに手を掛けた。


(よいのであるか?)

(えぇ、このまま睨みあっても無駄でしょうし……申し訳ございません。)

(気にするなである。何かあれば吾輩がどうにかしよう。)


 問題があるとするならば、このライアット王にどうにかできるかってことなのであるが。

 傍に控えている黒ずくめ女も実力が計り知れない故、もしかしたらどうにかできないのかもしれないである。

 やがて、コーリィがハイドマフラーを取り終わるとライアット王はと言うと……

 涙を流していた。


「ぬぁっ!?」


 これには吾輩も声に出して驚いてしまったぞ!?

 質疑応答の時は周りが騒がしかったのに対して滅多に驚きもしなかった……あぁいや、一度だけ誰も驚いていないところで、1人で驚いていた時があったであるな。

 あれは……確か吾輩が鑑定スキルを受けたのを『吾輩は猫である』で無効にした後であったな。

 というか、根本的にこいつは何故コーリィの顔が露わになったからって泣いているのであるか……


「その顔、間違いない……生きていたのだな。コーリィよ。」

「申し訳ありません、ライアット王。奴隷へと身を落とした私を王に知られたく、このようなマフラーを装備していたのですが……やはりレイネ様には看破されていましたか。」

「いいえ、私も危なかったですよ。あと少しで見逃すところでした。良いマフラーですね。後でどこで買ったか教えて頂けます?」


 ……何だこの吾輩置いてけぼり感は。

 もしや、今の今まで自由勝手に話を進めてきたツケだというのであるか?

 まぁいい。どうにも知らない仲ではないようなのでここで吾輩が口を挟んでも仕方ないであろう。

 では、コーリィが何者なのかであるかというと……貴族であろうな。まごうことなく。

 貴族と言えばいくらか納得できる点が多かったのである。

 まずは出会った時である。言葉遣いが丁寧過ぎるのが引っ掛かったのである。

 冒険者から奴隷になったとするならば、いくらか砕けた口調になっても仕方ないのだが、コーリィは堅い敬語で話していた。

 あえて触れはしなかったが、コーリィが自己紹介をしたとき、彼女は『コーリィ・ディ……』と何かを言いかけたところで、吾輩は、こやつが普通の奴隷ではないことを察していた。


 まぁ他にも突っ込むところはあったのであるが……極めつけはここでの食事であるかな。

 あの場でただ1人、料理に対して感動をしていなかった。

 普段からいいものを食べていれば、そのようなことは無いのかもしれないが、少なくとも吾輩と寝食をともにしていたコーリィが、ここで食べた料理並みの料理を食べた記憶が吾輩にはない。

 となると――吾輩と出会う前、コーリィは、そのクラスの料理を食べてきたという事になる。

 んでもって、そういう料理を食べられる立場と言うと……貴族という事になる。



「――コ様。ネコ様。」

「ぉん?話は終わったのであるか?」


 おっと、全員の目が吾輩に向いておる。

 吾輩が考え込んでいる間に話は終わったようであるな。


「えぇ、私がネコ様の奴隷であることは説明しましたが、よろしかったでしょうか?」

「……そこは事後承諾は駄目だと思うのであるが……まぁいいである。」


 ハッとしたような顔になるコーリィに吾輩は苦笑いを浮かべ、それを許す。

 簡単な報告すら忘れるほど、王と話したかったのであろうな。ここで大声あげて叱りつけるほどではなかろう。

 そこでライアット王は椅子から立ち上がり深々と吾輩に対して頭を下げた。


「ネコよ。我が友の娘、コーリィを救ってくれて感謝するぞ。」

「……奴隷なのであるが?」

「それでもだ。聞くと、コーリィにかけられたバーサクの呪いを解呪してくれたそうだな。かの呪いは強力で解呪も熟練の者で、尚且つ相応の魔力が無いと出来ないのだ。」


 すまぬ……肉球で触っただけで解呪してすまぬな。

 だが、それほどまでに危険な代物であったのか。あの呪い。吾輩の癒しの肉球もそんな凄い呪いを解呪するほどに強力だったのであるか。


「それにお前との生活を聞いたが、コーリィを虐げることは無かったそうだな。」

「別に吾輩嗜虐趣味があるわけでも無いであるからなぁ。……ま、雑に扱ったつもりはないであるな。」

「フン、そう悪ぶるな。……さて、お前が疑問に思っているのは何故俺がコーリィが奴隷だという事が分かったことだろう?」

「うむ。……だが、察しは付いているである。鑑定であろう?」


 鑑定スキルを弾いた後にライアット王がリアクションをしたのであるからな。

 当然ともいえるである。


「その通り。俺ではなく、俺の側室のこのレイネが鑑定したのだがな。」

「え?側室?」

「おう、側室だ。」

「はい。側室のレイネと申します。ネコ様、どうぞよしなに。」


 ……黒ずくめは側室であったのか……いや、考えてみれば、王の自室に普通にいるのだ。

 相応の立場であることは明らかであるよな……吾輩、ここ最近で一番驚いたである。

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