第38話 昇格である!
暫く待っていると、廊下からバタバタと走る音が聞こえ――勢いよく扉が開かれた。
入ってきたのはもちろん、薬草採取の報酬を持ったペルラであるが……肩で息をするほどとは、急ぎ過ぎではないであろうか?でも何故か嬉しそうであるな。
「お待たせしました、コーリィ様!そしておめでとうございます!Eランクに昇格ですよ!」
おー、そう言えばそうだったであるな。オークの出現で忘れていたが、薬草採取で昇格することを頭の寂しい職員に教えられていたであるな。
確かランク昇格によって、受けることが出来る依頼も増え、相応の実力が認められるというメリットがあるのであるな。
ギルドカードも昇格によってリメイクされたようで、綺麗になっているであるな。書かれてあるランクもちゃんとEランクである。
(ネコ様、やりましたね!)
(あぁ、そうであるな。)
顔では平静を保っているコーリィであるが、やはりランク昇格は嬉しいのか、テレパシーの声色がとても明るい。
まぁ功績が認められるというのは、未だ低いランクであったとしても、吾輩も嬉しいであるからな。
「あ、そうだ。コーリィ様、オークの解体はここで行いますか?ちょっと費用は掛かりますが、すぐに依頼外討伐報酬がお渡しできますが。」
ふむ、普通であればその提案に乗るのであろう。しかし、報酬がもらえるのはいいが、解体費用が掛かるのは、今借金持ちの吾輩からしたらいただけない。
それならば多少面倒であっても無料で解体してくれるタオラの元に行くのが賢い選択であろう。
「申し訳ありません。行きつけの所がありますので、解体はそこで……」
「そ、そうですか。出過ぎた真似をしてすみません……で、ですが!オークの一部はお持ちくださいね?出ないと報酬が出ませんので!」
「えぇ、もちろんです。」
そこはしっかり受け取らなければならないであるな。少なくとも借金を返すまでは1小銅貨も貰えるチャンスを見逃してはいけないである。
加えて、その依頼外討伐もランク昇格の足がかりになるというのなら、無理をしない範囲で狙うのもよいであろう。ただし、本当に無理をしない範囲である。
依頼外討伐はあくまで依頼途中に魔物と居合わせたときにするである。
「では、改めてコーリィ様。ランク昇格おめでとうございます。これからも精進を怠らず励んでください。」
「ありがとうございます。」
2人は深々と頭を下げ合う。
ふむ、吾輩も何かアクションを起こさねばな……しかし、ペルラに対して話したことは無いであるし……お、そうである。
「にゃあ」
「え?ネコさ……ネコ?」
「ネコちゃん?」
ただの猫時代を思い出し、一鳴きする。
そして、尻尾でペルラの手に巻き付き軽く振る。これは、握手を再現しているつもりである。
「ふぁあっ!ネ、ネコちゃん~!!
どうやら効果はてきめんであるな。感動を隠し切れない様子でペルラは吾輩を抱きしめる。
ぐふっ、平均的なそれよりふくよかな胸が心地よいであるが、少しこれはキツイ……い、息が出来んである。
「ペルラさん、その辺で!ネコがちょっと苦しくなってますから!」
「ふぇっ?ってあっ!ご、ゴメンねネコちゃん!」
き、気付いていなかったであるか……天然恐るべしである。
まぁ?窒息未遂は置いておくとしても中々悪くない体験だったであるな!
そんなことを考えていた吾輩をコーリィは抱きかかえ……あれ?何かいつもより抱きしめる力が強くないであるか?
「それでは私はこれで失礼しますね。ほら、ネコ行きましょう。」
ニッコリと微笑むコーリィ。だが、吾輩にはその目が少し恐ろしく見えたである……
(ネコ様?)
(あっはい、な、何であるか?)
部屋を出たと同時に、脳内に響く語り掛けて来たその声はいつものコーリィの声のはずなのにどこか、重々しさを感じ、有無を言わせないような、そんな雰囲気さえ感じさせる。
(今夜は……存分に可愛がらせていただきますよ?)
(えっあっ……ハイである。)
こ、今夜は吾輩ぐっすり眠れるのであろうか……?




