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ネコは異世界で闊歩する。  作者:


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第21話 タオラの狙いである?

 奴隷……聞いたことはあるである。と言っても小説とかテレビの話であるが。

 人権を認められず、人の所有物として扱われる人間。もちろん吾輩のいた世界ではそのような人間は見たことがないである。――まぁ実際にはいたのかもしれないが。

 それに奴隷に近いものを吾輩は嫌というほど見たことある。が、今は関係ない。


「で?その奴隷は気軽に買えるのであるか?」

「いえ、普通は一見様お断りなところが大抵ですね。この街の奴隷商もお断りなところですが、買うつもりであれば、私も同行しますので大丈夫ですよ?」

「その言い方から察するに奴隷を買ったことがあるという事であるか。」


 攻めるような言い方になってしまったが、吾輩的には奴隷を買う事、扱う事に関しては悪いことだと思っていない。奴隷になった人間にも罪人だったり借金を返済できなかったなど問題はあるし、奴隷商はその者を売っているだけだ。

 ……まぁ罪もない人間を捕まえ、売りさばく輩は悪だとは思うであるが。


「えぇ、買ってますよ?何を隠そう従業員の30パーセントは私が購入した奴隷です。加えて、あそこで解体している解体師。彼らの半分以上が奴隷です。」


 うぇっ!?あの者たちも奴隷だったであるか?改めて解体師を見ると汚れているとはいえ、動くことに不便のなさそうな作業着を着ているうえに皆奴隷とは思えないほど生き生きとした表情をしている。

 ちなみにニアとマキリーは奴隷ではなく、元々2人は幼馴染でニアは商人としてここに勤めていたのをマキリーが後にニアの護衛として雇ってもらえたのだとか。

 知らない男より知った幼馴染なら安心だろうというタオラの配慮らしい。


「で?どうなさいますか?奴隷、買いますか?」


 買ってもいい。とは思っている。思っているのだが、大事なことを忘れていた。金だ。

 吾輩、ワイバーンを売ったとして大銀貨2枚しか持っていない。奴隷を買うのだ。それに比べたら大銀貨なんてはした金に過ぎない可能性だってある。

 加えて金になりそうなものと言ったら解体後に受け取るはずのワイバーンの素材と魔核くらいのもの。

 正直に金がないことをタオラに伝えると何だその事かと軽く笑ったかと思うと


「ご安心ください。そこは余程の金額じゃない限り、私が立て替えますよ。」


 うっわ、胡散臭い笑みである。会った当初であるならば人のよい顔だと評したのだろうが、コイツの本性を垣間見た今なら何かを企んでいるようにしか思えない。


「何が望みであるか?マジックボックスはくれてやらんぞ?」

「まさか。そこまで頑なに拒否するものを取引材料にあげるほど私は悪人ではないですよ。……冒険者という職業柄、色々な魔物と対峙するじゃないですか。その魔物の解体と買取は是非当店にお願いしたいんですよ。もちろん返済までは買取価格からいくらか引かせていただきますけどね。もちろん魔物に限らず、珍しい物品だったりも買い取りますよ?――あぁ、あと普通に物を買う時でもうちを御贔屓にしてくだされば。」


 なるほど。それならば吾輩にも大したデメリットもないであるな。吾輩からしたらどこで買い取ってもらおうと差はないし、それならば顔見知りのいる所の方が幾分か心持ちが良いだろう。

 だが、こやつは何故吾輩をここまで信用しているのだろうが。

 昨日初めて会った魔物に対して信用し過ぎじゃないであるか?


「おや?今、何故魔物である自分を金を貸すまで信用しているのかと思いませんでしたか?」

「お前エスパーであるか?」

「エスパーという言葉は知りませんが……おおよそ言いたいことは分かりますよ。ちなみに私は読心等のスキルも持っていません。」


 嘘くせぇ。そのにこやかの顔の裏に何を隠し持っているか、全くわからんである。


「さて、何故貴方を信用するかですが……まぁ偏にいうなら勘ですよ。商人の勘。それに誰かにテイムされているわけでは無い魔物であっても、人語を理解し、ニアさんやマキリーさんと仲良くなれる方であれば――と。」

「吾輩が持ち逃げするとか考えないであるか?」

「ハハハ!ネコさんはそんなことをできる方じゃないでしょう?」


 何を根拠に言っているであるかこの男は。……ただまぁ、確かに条件その物は優良ではあるし吾輩は約束を違えるつもりはない。

 もしかして元々こいつそのつもりで提案しだしたであるか?それならば、吾輩はこいつの手のひらで踊らされているのでは……?いや、考え過ぎであるな。疑いすぎはよくない。


「……分かったである。吾輩もお前をそれなりに信用し、奴隷を買うことにするである。」

「ふふ、それなりですか。ありがとうございます。」


 そう言うとタオラは手を吾輩の目の前まで差し伸べて来た。握手ということだろうか。吾輩はそれに応じタオラの手のひらに前足を置いた。


「――これで契約は成立ですね。さて、では早速奴隷を見に行きましょうか。善は急げです。」

「そうであるな。」

「ではネコさん、こちらにどうぞ。」


 吾輩はニアの腕から抜け出し、タオラの肩に飛び移る。おや、意外にしっかりした肩であるな。


「あ、あれ?タオラさん?わ、私もついていっちゃあ……」

「いやいや、駄目ですよニアさん。貴女、昨日の結果報告書まとめなきゃいけないの忘れていませんか?」

「あ゛」


 何ともまぁやってしまった感のある「あ゛」であるな。寝る前にでもやっておけばそんなことも無かったはずなのに部屋に着いた途端ベッドに突っ伏したであるからな。


 吾輩たちは肩を落とし目に見えて落胆したニアを背に解体所を後にした。

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