第15話 嫌いになるである?
吾輩がニアたちに同行することを宣言したからか、日が沈んだころ、集落では嬉しいことに吾輩の送別にと屋外で宴会が行われていた。
肉や野菜を売った金で酒を大量に購入し、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎである。
ちなみに
基本的な食べ物、飲み物ならば問題なく食せるイーターを所持していることで、まさか酒も問題ないとは思わなんだ。一度我が友の酒を興味本位から、ペロリと一舐めしたときは、阿鼻叫喚で死ぬかと思ったである。
だが、今ではイーターのおかげで飲めているであるが……美味い。なるほどな、これは我が友も好むのも分かる気がする。――我が友と一緒に飲めなかったのが残念ではあるが。
さて、吾輩が食事を楽しんでいる間、村のワーウルフ達が次々にやってきては、吾輩にギィガの件についてや、ワイバーンを倒したことに礼を告げていった。殆ど聞き流したであるが。
あー肉美味しい。野菜美味い。魚最高。酒が進んでいい気分である。――後ろの不機嫌がいなければであるが。
「嫌だよぅ、ネコどっか行っちゃうなんて嫌だよぅ……」
「……ティア。いい加減機嫌なおすである。」
吾輩がこの集落を出ていくことにただ一人、異議を唱えたのは、まぁもちろんというか、やっぱりと言うか……ティナであった。
先程からずっとこの調子で料理もまともに食べようとはしない。
最初はギィガやラナイナが慰めていたが、機嫌は全く良くならず、2人ともティナを吾輩に押し付けて自分の持ち場へと行ってしまった。
このままティナがこの調子だと、別れた後の吾輩は寝覚めが悪くなることだろう。
仕方ない。
「ティナ。吾輩は元々この集落には数日だけいる予定だったはずである。忘れたであるか?」
「一緒に暮らすって言った。」
「それはお前の早合点であるぞ?」
初めて集落に来た日の夜にずっといるつもりはないと言われて駄々こねたのを忘れたであるかコイツ。
そんなぶすっとした顔されても吾輩は覚えているであるぞ?
「じゃあ一緒に行く。」
「は?」
「私もネコと一緒に街に行くー!!」
大声で叫ぶもんだから皆の視線が何事かとばかりにこちらの注がれる。
というか街に行くとか本当にやらかしそうだ。ギィガの方に視線をやると両腕を使ってバツ印を作っている。ラナイナは両人差し指でバツを作っているから2人は反対しているようであるな。
もちろん吾輩も連れて行く気なんてさらさらないである。
「駄目である。」
「何で!?」
「お前はまだ子供であるぞ?まだ親の庇護下にいるべきである。もう少し大きくなってからである。」
「私が弱いから?」
「いや、なんでそうなるであるか。」
「私が弱いから連れて行ってくれないの?」
「そういう訳じゃないである。」
強さ云々の話ではないであるが、そう言っても納得はしないであるな。
「私お父さんより動けるよ!?」
「止めて差し上げるである。」
その事実を突きつけられるともれなくギィガが落ち込むである。今現在も進行形で項垂れているである。
「……ネコさんちょっといいかしら?」
「む?」
いつの間にか傍に来ていたラナイナに抱き抱えられ、こっとりと耳打ちされる。それはティナを納得させるための方法だが、最後の手段らしい。
確かに子供のティナには聞きそうな手ではあるであるが……結構酷いであるな。
(言えばいいのであるか?)
(えぇ、お願いします。)
……よし、吾輩覚悟を決めるである。本当に聞くかはどうかは分からんであるが。
「ティナよ。そんなに我儘を言っているようだと……吾輩、ティナを嫌いになってしまうぞ?」
「え?」
「あーあー、辛いであるなー。ティナが我儘ばかり言うもんだから吾輩、ティナの事なんてどうでもよく思えてしまっちゃうである。吾輩、引き止めずに明るく送ってくれる女の子が好きであるなー」
うわ、我ながら凄い棒読みである。いくらティナでも流石にこれは不審に感じるであるか?
「うぁ……やだぁ、ネコに嫌われたくないぃ……が、我慢するぅ」
ティナは涙ぐみながら地に降ろされた吾輩をぎゅっと抱きしめ、吾輩が集落を出ることを了承してくれた。
すまんであるな、ティナ。お前の気持ちは本当にうれしいであるぞ。
ただ……抱きしめすぎてちょっと苦しいである……い、息が。




