第129話 クズ男を懲らしめるのじゃ!
妾とカルラの間に幾ばくかの沈黙が流れる。カルラは気絶しておるからそもそも喋れないのであるが。
い、いやここまでやるつもりは無かったのじゃが……平気かと思っていたバーサクの高揚感に妾も流されてしまっていたということか。ううむ、修行が足りぬなぁ。とと、カルラを放っておいてはいかんの。
妾はカルラの額に手を当て、癒しの肉球を発動させる。ふむ、もはや肉球もない人の手であるが、発動したようで何よりじゃ。弱っていたからか青白い顔をしていたが、生気を取り戻したように赤みを増し、やがてその目を薄っすらと開いた。目は狂操状態となる前に戻っているが――
「ん……私は……」
「カルラ、妾が分かるか?」
「ん?……どちら様?」
気の抜けた言葉に肩がガクっとなったが、そういや妾と顔を合わせたことは無かったのぅ。
しかし、その言葉には理性はある。どうやら狂操状態は解除されたようじゃな。
「妾は、ネコとコーリィの合体した姿じゃよ。ほれ、面影があるじゃろう?」
「なる、ほど?言われてみればその猫耳はネコのもの」
判断するのそこなんじゃなぁ。一応コーリィ成分の方が多いと思うんじゃが……っと、のんびりしている間ではないの。グサタに九尾を任せておったんじゃ。九尾は強力な魔物――こう言ってはすまぬが、我輩の一撃に負けたグサタには荷が重……ん?
『な、にぃ!?動けねぇ!?』
『他愛なし。この程度の物を叩き伏せても偉大なる御方に誇れる程では無いな』
何と驚いたことにグサタは、その身に一切の傷も付けずに前片脚で九尾の頭を押さえつけおるではないか。最悪時間稼ぎでもしてくれれば良いと思っておったが、予想以上じゃな。
妾が近づくと、それに気づいたグサタは九尾を押さえつけたまま妾に対し恭しく首を垂れた。
『偉大なる御方よ、これでよろしいでしょうか』
「うむ、大儀であった。――ただ、毎度そう呼ばれるのはむずかゆいのぅ。バステトと呼ぶことを許す」
『なんと……っ!このグサタ、感激でございます。改めてバステト様……ネコ様に忠誠を捧げましょう』
「うむ、励むがよい。――で。」
そこで妾は、グサタの足元の九尾に視線を落とす。ふむ、中身のゲス野郎の意識は未だ残っているようであるな。忌々し気に妾を見ておるが、痛くも痒くもない。
「呵々、無様な姿じゃのう?」
『てめぇ……っ!殺す!絶対に殺す!』
「じゃあ本体から来んとのぉ?いや?もしかしたら本当だったら九尾のままでも妾を殺れたかもしれぬ。じゃが出来ぬとなると……簡単な事じゃ、貴様が十二分に扱えておらぬからじゃのぉ」
『御冗談を、バステト様。如何に万全な九尾であろうと、貴女様を害するほどではありますまい。それでも我は手こずりはしますでしょうが』
「そうかそうか!グサタは凄いのぉ。褒めてやろ」
『ああっ!バステト様!そう撫でられては!』
ふはは、そうは言うが尻尾は正直者のようでぷるぷるしておる。本物の猫である妾にはお見通しよ。
さて、妾とグサタの煽りに九尾は悔し気に唸り動けばすぐに殺しにかかりそうなほどじゃ。ま、グサタがそれを許さんじゃろうがな!しかしまぁ少しは溜飲が下がったしそろそろ終わりにするかのぅ。
「九尾――いや、その中身のクズ男よ。妾はこの一件で貴様を明確な敵と判断した。と言っても自ら探しに行きはせぬ。面倒じゃしな!」
復讐を目的に過ごすとかやってられぬからのぉ。そんな人生つまらぬわ。
『あぁん!?』
「じゃが、次に相まみえた時、確実に屠ろう。とりあえず、貴様には妾たちに手を出した報いを一旦受けてもらおう」
『報いだぁ!?ハッ!いくらテメェがこいつに攻撃したところで、そもそも俺に痛みなんかねぇよ!』
「おうおう、そう吼えるでない。貴様の言うことは承知の上じゃ。じゃから痛みを与える手段を使うにきまっておろう?」
その言葉に、九尾の調子に乗った表情が瞬時に固まった。奴がヤバいと察する前に、妾は押さえつけられたままの奴の鼻っ柱を掴み、力を行使する。その効果は発揮されたようで、九尾の顔に焦りが生まれ始めた。
『な、なんだ!?意識が切り換えれねぇ!』
「呵々、捕まえた。逃げようとしてもそうはいかん。何、駄賃を払ったら離してやろう。"心打・雷猫パンチ"」
猫パンチとは言ったが、スピードは一切乗せていない。それこそ、ポンと叩く程度じゃ。傍目には攻撃とすら思えぬじゃろうが……クズ男にとってはそうではないじゃろう。その証拠に
『ギ、ギャアアアアアアアアアアア!!』
大声を上げて苦しみ悶えておる。押さえつけているグサタが少し難儀するほどじゃのぅ。……ちょっとグサタには悪いことをしたかのぉ。
『バステト様、一体何をなされたので?』
「何、魂に電撃を流しただけじゃ。密接してるお主には、電気が流れなかったじゃろう?」
『そもそも電撃を魂に流すということすら聞いたことありませぬが……?』
と言われても出来るからのぉ。おっと、叫び声が途切れ、激しく暴れていた九尾が沈静したのぉ。息は……あるようじゃのう。クズ男との接続は切れたと思うが……一応拘束しておくか。この地に眠る魂たちに再度頼み、土の腕で九尾を縛り付ける。最早グサタが抑えんでもいいじゃろう。
「とりあえずこっちは解決じゃのう。でじゃ、グサタよ。お主に頼みじゃ」
『ハッ、如何様にでも』
「妾――いや、我輩と私はこれから動けなくなるから運んでくれ」
『はい?』
「あぁ、すまぬ。限界じゃ。」
そこで妾の景色は消し去り――代わりに我輩の意識が復活した。
うぅむ、バステトの反動……1年間で強くなったおかげか魔力欠乏症とまではいかぬがやはり動けぬであるな。