第124話 九尾との激戦である!
「本ッ当にしつこいであるよな狐ぇ!」
「グリュァアアアアアア!!」
我輩は、九尾の狐が登場してからずっと奴の相手をしていた。正直、奴の相手は面倒だから他のやり手の冒険者に任せたいと思っていたのであるが……九尾自体が我輩に我輩に固執しているようで全然離れてくれんである。
もっと言うと、狐との1対1かと思いきや他の魔物も構わず我輩に襲ってくるのであるから厄介この上ない。まぁ、九尾も他の魔物を面倒がって殺してはいるのであるが。
「ネコ!」
「ティナ、お前はカルラのサポートをしてやるである!」
「でもその狐は!?」
「黒い状態ならまだしも白いこいつはまだ戦える!」
その言葉に若干の不安の色を覗かせながら頷いたティナは我輩の言う通りにアースウォールの反動で疲労しているカルラの元へと向かった。
まぁティナの不安も分からんでもない。だって黒い状態ならまだしもってずっとこの狐が黒くならない保証がない。今こそ戦えてはいるが、変色した時どうなるかは分からない。コーリィが来てバステトになれればまた別なのであろうが……応援要請に戻ったバルダーモは未だ戻ってきてない。
誰とも知れず我輩はため息をつき目の前に相対している九尾の狐を睨む。
「そんなに我輩が好きなら増やしてやるである。」
言葉の意味が通じなかったのか、荒い息を吐きながらも首を傾げる九尾であったが、何かに気づいたようで急に体を反らし自身に向けられた攻撃を紙一重で避けた。
九尾にそんな行動をとらせた者は――我輩だ。しかし、我輩ではない。強分身で作り上げた我輩、キャットである。
「本体の攻撃をいなせるであれば進化前である小生の攻撃は避けれて当然であるか。チッ」
「キャットよ、2匹でこ奴を攻めるであるぞ。」
「本体の考えだ。委細承知である。」
キャットは魔爪を発動し、我輩は3本の尾で狐に襲い掛かる。
確固たる意志を持っているキャットであるが、思考は我輩とつながっている故、コンビネーションは抜群である。
九尾の狐も最初は攻撃を仕掛けていたが、いつしか回避行動しかとれずにいた。それもそのはず。キャットがちょくちょくグラビティや相手の視界を奪う闇魔法ブラインドを使って奴の動きを阻害しているのであるからな。
キャットの嫌がらせは徐々に徐々に九尾の狐を蝕み、ついに我輩の3本の尾を奴の腹に叩き込むことができた。
「グギッ!」
「キャット、奴が黒くなる前に仕留めるであるぞ!」
「本体、それはフラグというものでは?」
不安になるようなことを言いながらもキャットは指示に従い我輩と息を合わせ九尾の狐に躍りかかる。
……まぁキャットが思ったことを我輩が思ってないわけがなくて。どの世界でもいえることであるが、そう事がうまくいくわけでもなくて。
「GYURAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
苦し気に呻いていた九尾の狐が叫び声をあげた。しかしそれはただの叫び声ではなく、衝撃波となり我輩たちを周りの魔物を、冒険者たちを、アースウォールを襲った。
近くにいた低位の魔物どもは一部の者は肉塊と化しそれを逃れたものは大きく吹き飛ばされた。冒険者たちは何人かは吹き飛ばされ一部はその場に踏みとどまり、ティナとカルラは後者であった。アースウォールは衝撃を受け大きなひびが出来てしまった。そして奴の一番近くにいた我輩とキャットは――
いや、うんめちゃくちゃ痛いであるな!瞬時に尾を地面に突き立てたから吹き飛ばれることはなかったが、衝撃をもろに受けたから痛みで体が震えるであるぞ……キャットは耐えられず消滅してしまったし……
九尾の狐はというと、やはりその体を黒く染めていた。第二形態のあるボスとか我輩嫌いなのであるが?体力衰えてる様子も見えないであるし。
「ちっ、”ウィンドカッター”」
「GYUAッ」
あ、てめっ苦肉のウィンドカッターを一笑してかき消しやがった。こいつ……勝利を確信しやがったであるな。
奴の九本の尾がそれぞれ針……いや吸血鬼に突き立てる杭のように太く鋭くとがっていく。それでとどめを刺すつもりなのであろうが、そうはいかんである。
「させないっ!"アイスブロック"!」
我輩の危機にティナが何もしないわけがない。先ほどの咆哮でダメージは負っているようであるが、正確に魔法を発動させ9本の尾を覆うように氷の箱を形成させた。
当たり前であるが、尻尾にも神経は通っている。急に冷気に襲われた九尾の狐は驚き氷を割らんと尾を地面にたたきつける。それで我輩を叩けばいい物の驚きがその思考を奪ったのであろう我輩とはあらぬ方向に叩きつけられた。
その隙に我輩はティナに回収された。
「助かったであるぞティナ。」
「ネコ、大丈夫なの!?」
「大丈夫ではないが……ティナ我輩の肉球をぷにぷにするである。」
「はぇっ!?どうしたのいきなり!」
そういえばティナは癒しの肉球を知らなかったであるか。
言われた通りにやってみろと言われ、彼女は恐る恐る我輩の肉球をぷにぷにした。よし、スキルは問題なく発動しティナの体に刻まれた傷を治したであるな。
「何これ!痛みが引いたよ!?」
「であるが、体力までは回復させることはできないである。そして我輩自身もな……」
もっと言うと、スキルを発動した分我輩疲れたであるな。
さて、九尾の狐は……流石に落ち着きを取り戻しているであるよなぁしっかり我輩を捉えているであるな。
怪我を治しはしたが、ティナも片膝をつき満身創痍。頼みのカルラも復活した魔物たちを相手にしておりこちらに来れそうもない。あ。詰んだであるか?
その時、九尾の狐の足元に上空から数本の矢が突き刺さった。
意識してないところからの攻撃に九尾は大きく後方へ飛び跳ね攻撃が飛んできた空を見やる。つられて我輩とティナもそちらに視線を向ける。そこにいたのは――矢を番えた鳥人のバルダーモであった。
そして奴がこの場所に戻ったということは
「ネコ様ーっ!」
「ネコ、ティナ無事!?」
「グルルォン!」
コーリィとロッテとその2人を乗せられるほど大きくなったポチ。
アースウォールの向こうからも声が聞こえる。そうか、ようやく応援が来たであるか。