第122話 カルラとの再会である
無事門を潜り抜けた我輩はティナの陰から抜け出し、妙な気配のする方へと駆けだす。方角的には……確か森があったであるな。ただティナが一人唸っているのが気になる。
「ティナ?どうしたであるか?」
「ネコ……こっちって今日私たちが空気草採取するのに進んだ道なんだよ。」
ほう?確かに今日女3人で採取依頼を受けたと言っていたであるが、変な偶然もあるのであるな。
そんなことを考えていると、ふと違和感に気付いた。我輩が走りながらティナに視線を移すとティナもこちらに目を向けている。この様子からティナも気付いているようであるな。
「魔物が出ないであるな。」
「うん。昼間はちょくちょく見かけたよ?」
魔物は昼よりも夜間のほうが活発に動くと言われている。そのため、防壁がないような村では夜は絶対外に出てはいけないと言われるほどである。逆に言えば、夜に出れば結構な頻度で魔物と遭遇するので、眠気と実力に自信があるなら討伐依頼にうってつけなのであるが……我輩ら、1体も遭遇してないであるな。我輩は除外であるぞ。
「ん?」
開けた場所に出たと思ったら、草原に何人か人影が見えるであるな。しかも、その人影のどれもに共通するものが付いているであるな。それは耳。ただの耳ではなく、顔の側面についているのではなく、頭の上……つまりはけもみみ。獣人たちであるな。
獣人の集団に近づくと、彼らも我輩らに気付いたのか、何人かがこちらに向いて――ふぁっ!?我輩いきなり目線が高くなった!?
「……ネコ、1年ぶり。」
どうやら我輩、金髪の猫耳獣人のカルラに抱きかかえられたみたいであるな。いや、相も変わらずの抱き能力であるな。ストレスを感じさせずに抱くとは衰えていないようであるな。いや、そんな品評している場合ではないのであるがな?
「久しぶりであるな、カルラ。……お前も来ていたのであるな。」
「妙に肌がざわついたから。でもネコに会えるのなら悪くない。むふー。」
やはりこいつも妙な気配を感じてここまで来たみたいであるな。
……待て、何でこいつ我輩の腹に顔うずめているであるか。
「カルラ、何してるであるか。」
「おふ。思っていた通りこれは癖になる香り……ネコ、もっと嗅がせて。」
「やめぃ。」
さらに顔を腹に押し付けかねん危ない目をしたカルラを何とか3本の尻尾で押し返す。それさえも光悦とした顔で受け止めるのであるからこいつ……案外ヤバいやつなのでは?
そこで、我輩がいきなり抱きかかえられた衝撃から抜け出したティナがハッと気づき、カルラの腕の中から我輩を引きはがす。あのティナ?ちょっと乱暴すぎないであるか?
「私の旦那に何するのー!」
「旦那?ネコ……結婚したの?」
「いや、してないであるぞ。」
それはティナが勝手に言っているだけであるからな。我輩は何も言ってない。
さて、するりとティナの腕から抜け出し、地に降りて辺りの獣人たちに視線を移す。
なるほど。殆どがシャスティの冒険者ギルドに所属している獣人であるな。ただ、猫の獣人はカルラだけなのであるな。他は犬や狼の獣人だったり下半身が馬の獣人、ケンタウロスがいるであるな。あとは羊の巻角をした獣人だったり。お、空には羽の生えた鳥人もいるであるな。
何れも面識がある故、話を聞いたのであるが、全員が気配を感じてきたらしい。
我輩も反応したし、獣人と魔物にだけ感じることができるみたいであるなぁ。
「ところでネコは大丈夫なの?暴れたりしてない?」
「む?あぁ、狂操状態の事であるか?我輩はそういうの跳ねのけるスキルがあるであるからな。」
もちろん"吾輩は猫である"のことであるが、名前やユニークスキルであることは言わなくてもいいであろう。
カルラも狂操状態の魔物と何度か遭遇しているのであるな。カルラに限って後れを取ることはないであろうなぁ……
ところで、この気配何だか強くなっていないであるか?そう思ったところで、上空から鳥人の声が届いた。
「おい!魔物が……魔物が来たぞ!それもゴブリンやオーク……オーガもいる!いや、嘘だろ!?共生しないはずの魔物が群を成してるぞ!?」