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第117話 卯之原亭であるか?

 漢字なんて久しぶりに見た……と言いたいところであるが、実は我輩のステータス画面は日本語で漢字も当然使用されるので特別久しく見るなんてことはないのである。が……それ以外だと漢字は見たことはないのであるが。

 ポチにあの漢字が読めるかと聞いてみたところ、多言語・多鳴理解を持っているポチであっても分からないと首を傾げた。この世界で漢字は記号か何かと認識されるのであろうか。そんなことよりも、漢字が使われているということはいるのであろうな、日本人。

 しかし、卯之原亭であるか……名前から察するに食事処でいいのであろうか?

 我輩らが、建物の前でどうすべきか考えていたその時、ガララと卯之原亭の引き戸が開きそこから人が――


「ギギッ?」


 ……え?ゴブリン?小柄な体で緑色の肌に尖った鼻。今まで何度も屠ってきたゴブリン……とは違うであるな。こ奴からは他のゴブリンにはない強さを感じるである。それに首に巻かれたチョーカーのようなもの。これは従魔の証ということであろうか?とにかく、目の前のゴブリンには敵意がないようで、我輩とポチを交互に見たかと思うと手を突き出し、指を二本立てた。


「ギッ?」

「う、うむ?」


 その行為に一瞬たじろいだ我輩であったが、その意味をすぐに理解できた。つまりは2人かと聞いているのであろう。我輩とポチで2人……いや、2匹であったな。ゴブリンの問いに答えると、ゴブリンはちょいちょいと手招きをし、卯之原亭の中へと入っていった。

 我輩とポチは顔を見合わせ……ゴブリンを追うように卯之原亭の中へと入った。

 何だか懐かしい匂いがする卯之原亭の中は暑くもなく寒くもなく過ごしやすい温度で保たれていた。まず目に入ったのが……懐かしき将棋で使う大きな王将の駒であった。こんなところで見るとは。しかし、これは……居酒屋?


「ギギーッ!」

「「「「ギギャー!」」」」


 我輩たちを案内したゴブリンが何やら声を上げると、カウンターの奥から似たような鳴き声が複数聞こえ、そこからぞろぞろと5体のゴブリンが現れ、一斉に我輩らに向けて頭を下げた。見ると全員が小奇麗な格好をしており中には鉢巻をまいて如何にも居酒屋の店主風なゴブリンまでいる。何であるかこの店……?

 異様な光景にポチと共に唖然としてるとさらに奥から何者かがやってきた。


「あらっ!早い時間にお客さんかと思ったら猫ちゃんじゃないの!」


 人間であるな……それも割烹着を着た恰幅のいいおばちゃんであるな。うん、前世でよく見たまさにおばちゃんなおばちゃんである。

 そしてこの猫を知っている反応からするにやはり異世界人であるな。


「失礼するであるおばちゃん。ここは飯屋なのであるか?」

「あらっ、異世界の猫は喋るのねぇ。えぇそうよ?ここは卯之原亭。居酒屋ね。私は店主の卯之原トヨ子っていうのよ。」


 異世界の猫だからというよりスキルを持っている我輩だから言葉を話すことができるのであるが……まぁ話す必要はあるまい。

 しかし、居酒屋なのは僥倖であるな。


「我輩ら、見た通り魔物であるが、ここで食わせてもらうことはできるであるか?金はあるであるぞ?」

「構わないよぉ!あら、でも猫ちゃんにワンちゃんじゃあ食べられないものあるんじゃないからしら。ほらえーっと、そう!玉ねぎとか。」

「いや、その辺は大丈夫である。我輩もこのポチも嫌いなものはないである。」

「バウン!」


 我輩の言葉に同意するように吼えるポチ。その尻尾は大きく揺れてこの店の料理を楽しみにしているようだ。


「あら、それならいいわね!それじゃカウンターにお座り?すぐに出すからねぇ!」

「お願いするのである。メニューはお任せで我輩には何か酒が欲しいである。」

「あいよ!たっちゃんはおしぼり!よっちゃんはエールとお水を出しとくれ!」

「ギィッ!」

「ギギッ!」


 トヨ子さんの号令でゴブリン達が働き始める。この動きから見るに、このゴブリン達はトヨ子さんの従魔なのであろう。テキパキとカウンターを拭き、2つの椅子を少し下げ我輩たちにそこに座るように促す。そして椅子に座るとさっと机に湯気を立ち昇らせたおしぼりと我輩の方には泡立つエール。ポチには水が置かれた。

 ……おしぼりは手を拭くものであるが……我輩食べるとき尻尾使うであるな。ポチに至っては前脚使えないから……顔でも拭いてやるであるか。ほれ、顔向けるである。


「はい!お通しね!」


 カウンター越しにトヨ子さんが小さな小鉢を我輩たちの眼前に置いた。その中を覗いてみると……おぉ、僅かに香る酸味。酢の物であるな。

 うむ、歯ごたえがシャキシャキしてて美味いであるな。……ん?ポチ何を見て……おま、小鉢もう空なのであるか!?お前まさか一口!?

 や、やらぬぞ?

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