第105話 ギィガからの手紙である?
「お前は落ち着きを覚えるであるぞ、ティナ。」
「分かったー……」
宿に戻り、ロッテとポチと別れた我輩たちは、自室のベッドに腰を下ろしていた。
我輩はティナの膝上に乗り、見下ろすティナを窘め、ティナはティナでちゃんと反省しているようで狼耳を前にぺたんと倒し、尻尾も元気なく垂れて……ないであるな。すごいぶんぶん振ってるであるぞ。
しかし、フォローもせねばなるまいか。
「――だが、まぁ久々に会えて嬉しくはあるがな。その様子だと、元気であったようだな。」
これで、少しは機嫌がよくなったであろうと頭上のティナに視線を向けると……ほわっ!?何で涙ぐみながら笑ってるであるか!
と思ってたら抱き着いてきたぁ!?ワーウルフ特有の力がぁっ!
「うわああああああああああん!ネコだぁぁぁあ!私も会えて嬉しいよぅ!」
「ちょ、ティナ!ネコ様苦しそうだから、緩めて!」
「え?あ、ごめんネコ!つい!」
あー苦しかったである……って1年前にも同じようなことあったであるよな。あの時は少し苦しいだけでまだ平気ではあったが、成長した分力も強くなったみたいであるな。
見た目も、昔の面影は残っているものの、ラナイナに似た顔立ちになってきているであるな。銀髪のショートカットヘアーも彼女の活発さに合ってとても似合っているである。
「ギィガ達は元気にやっているであるか?」
「うん、元気だよ!……そうだ!お父さんからネコに会えたらって手紙預かっていたんだった!」
今まで忘れていたのであるか……ティナは持っていたポーチから折りたたまれた紙を取り出すと我輩に向けて開いて見せてくれた。
言語理解のおかげで字は読めるであるが、その前に
「ギィガって字、書けたのであるな。」
「お父さん、長だからね。書けるように頑張ったんだって。」
あの狼頭と豪快な性格を見たものであるから、机に向かって文章を書くなんて姿、思い浮かばないのであるが。だいぶ達筆のようであるし……読めるに越したことはないであるがな。えーっと?
『よう、ネコ!この手紙を読んでるってこたぁティナに会えたってことだよな。』
なーんか、こういう文章見ると、この手紙を読んでいるということは私はすでにこの世にはいないことでしょう的な文を連想するであるよな。ギィガが死ぬとは思えぬが。
『まずはワイバーンの肉だ。ありゃ美味かったぜ。量もあって全員に行き渡ってみんな満足だ。あんがとよ。』
おー、そんなこともあったであるな。世話になったお返しとして贈ったものであるからな。喜んでもらえたのなら何よりである。
『ニアからオーク共の話を聞いたが、お前結構活躍したみてぇだな。ま、俺ぁお前が只者じゃないとは思っていたがな!』
そらこの世界には存在しない猫であるから只者では無かろうて。
話だけということは、ギィガの集落にはオークの脅威はなかったようであるな。それはそれでよかったである。
『で、本題だ。お前のことだからティナが何でそこにいるか知りたいだろ?』
そうであるな。ティナ本人に直接聞いてもよいのであるが、中身があのままのティナであるから正直なところ『会いたいから来た!』とかで終わりそうであるからな。ちゃんとした説明が欲しいである。
『1年前、お前と別れた後な、ティナが俺に戦い方や読み書きを教えてくれって言いだしたんだ。あとラナイナには魔法とか家事をな。』
「!?」
見逃せない一文に我輩は思わず、ティナに視線を向けた。いきなり自分のほうに向いた我輩にティナはキョトンとしている。そんなティナに我輩は聞いた。
「え、ティナお前料理できるのであるか?」
「?うん。お母さんに教えてもらったよ?あとは町で本買って自分で勉強もした!」
ティナには悪いが想像できないであるな……やったとしても丸焼きとか野菜盛り付けただけーとかそういう簡易な料理しか作れなさそうなのに……あ、コーリィもショック受けてるである。コーリィ、料理はできないであるからな。
『でな、この前真剣勝負したんだがな?……父親の威厳とかないレベルで負けた。正直、落ち込んだぜ。』
ほう、ギィガの戦闘力こそ知らぬであるが、一族をまとめる長であるから実力は十分あるはずであるからそのギィガを伸したということは……あとは巨大ゾンビも1人で倒したこともある故な。
『はっきり言ってティナは天才だ。ワーウルフは若い歳から成長はするが、あの子の成長スピードは異常ともいえる。よほどおめぇに会いたかったんだろうな。』
ギィガも予想外であったのか、ティナのこの成長は。犬の成長は早いというであるが、人型になっても成長は早いのであるかな。
『あとは……そうだな。ティナのことだ。お前と結婚云々言っているだろうが……』
おっ、お前からも結婚するのはやめろと言ってくれとかそういうやつであるな?ギィガも親バカであるよなーカカッ
えーっと何々ー?
『ま、お前なら構わんぞ。』
その言葉を最後に手紙は終わった。……ギィガお前……次会ったら軽く猫パンチであるな。
ティナは我輩が手紙を読み終わったのを察したのか、手紙を閉じると、ニッコリと笑った。
「なんて書いてあったの?」
「読んでないのであるか?」
「ネコ宛の手紙なんだもん。読んじゃダメでしょ?」
うむ、まぁその通りであるな。
我輩は手紙の内容が気になるであろうティナに素知らぬ顔で告げた。
「……いや、ただの世間話だったである。」