現実
4.現実
この会社に私は必要なのだろうか。
連休を取るにあたり、自分の仕事を新入社員に引き継がなければならなかった。引き継いでみると自分の仕事のどうでもいい内容に改めて気付かされる。愛嬌があり若くて可愛い平成生まれの新入社員はニコニコと聞いてくれたが、あまりの引き継ぎの少なさに苦笑いをしていた。
有給申請書を記入し、上司に提出する。そう、私の彼氏とは言えない彼に。昨日、仕事帰りにホテルに誘われ、断らないどころかまだ彼に少しでも必要とされているとすら感じてしまった私はきっと底辺の人間なんだろう。昨日、彼はどんな気持ちで私を抱いたのだろう。きっと奥さんは同じように抱かないのだろう。この15日に及ぶ連休を提出したら彼はなんて言うだろう。驚いて理由を聞いてくるだろうか。会えなくて寂しいと言ってくれるだろうか。
申請書を受け取った彼は表情ひとつ変えず、承諾して受け取った。理由すら聞かれることはなかった。それでも私はまだ仕事中だからだろうとまだ少し彼に期待していた。それでも昼休みになっても退社時刻になっても、彼から声をかけられることはなかった。それどころかLINEの一本もなかった。夜8時以降は彼が奥さんと家で過ごしているから連絡はしないことになっている。時刻はまだ7時過ぎ、まだ電車の中だろうて思い、私は彼にLINEを送った。
《お疲れ様☆私、連休取るんだけど何とも思わないのかな⁇》
物腰は柔らかだけど、あまりにストレートな言葉になってしまったことに少し後悔、する暇もなくすぐに既読マークがつく。胸が高まった。
《申し訳ないんだけど、今日は記念日だから妻と出掛けてるんだ。連絡しないでほしい》
彼から送られてきたメッセージに胸が締め付けられるように感じた。一瞬だけ怒りが込み上げ、すぐに悲しみに変わった。私はなにを期待していたのだろう。そして彼は愛する奥さんとの記念日前日に、どんな気持ちで私を抱いたのだろう。
泣きたくても泣けないまま、抜け殻のようにアパートの鍵をあけ、部屋に入ると自分が里帰り用に準備した荷物が目に入った。明日、20年ぶりに兄に会える、そんな楽しみな気持ちよりもつい1時間ほど前に送られてきたLINEが私の気持ちを不安定にさせていた。もうこのまま今日は寝てしまおう。そしてこのまま朝がこなくてもいいや、そんなことを思ったら溢れ出る涙で視界が霞んだ。