出会い
3、出会い
俺はテレビもほとんど見ないし、酒蔵で仕事をしている以外はたいていタバコを吸いながらぼーっとしている。世の中の35歳は普段なにをして過ごしているのだろう。そんなことを考えていると、床に置いていた携帯がけたたましく鳴り響いた。俺の携帯はたまに酒蔵組合から連絡が入る程度で、滅多に鳴ることはない。酒蔵にインターネットの繋がったパソコンもあるからスマートフォンにする必要もないと思っていた。画面を確認すると母親の自宅からだった。
はい、もしもし。
誰からの電話であろうと俺はこうやって出る。
電話の向こうは無言だ。電波が悪いのだろうか。
もしもし。
もう一度、もっとハッキリと言った。
ー…お兄ちゃん…?
母親の声ではなく、若い女性の声に一瞬で頭の中で整理整頓が行われる。
ー…お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?私、美穂だよ!わかるでしょ?
美穂…妹だ、間違いない。なんて返事をしたらいいかわからず、曖昧な答えをすると美穂は嬉しそうに続けた。
ーお兄ちゃん久しぶり!声、全然変わってないね。懐かしい。ママいま出掛けてて帰ってきてないんだ。酒蔵はどう?おじいちゃんやおばあちゃんのお葬式も私行きたかったんだけど、ママに行かなくていいって強く言われて…でもいつか御線香くらいはあげに行きたいって思ってるんだよ。
20年ぶりに会話する妹はスラスラと早口で少し興奮したように話していた。
ーなんだっけ、名前とか全然覚えてないけど酒蔵の人は元気?てか、お兄ちゃんは元気?結婚したの?お兄ちゃん確か35歳だよね?子供は?いたら私の甥か姪だね!
マシンガンのように質問を投げかけてくる美穂に、俺はただただついて行くのに必死だった。なんせ俺の記憶の中の妹は顔を真っ赤にして鼻水を垂らしながら、いじめられて泣いている姿なんだから。こんな大人の女性の声になって、懐かしさよりも戸惑いの方が多かった。
俺は今の酒蔵の状態、母校が廃校になったこと、結婚してないし子供もいないから跡取りが大問題だというこど、家に毎日一人だから夜少し怖いことなど冗談を交えながら美穂に話した。美穂も電話の向こうで笑いながら俺の話を聞いてくれた。だから俺も笑いながら話せた。こんな風にたくさん笑いながら誰かと電話することなんかなかったかもしれない。かれこれ30分近く電話で話していた。美穂は有給をたくさん取ったから、新幹線で会いに行くと言ってくれた。おじいちゃんやおばあちゃんに御線香あげたいから、と。でも母親に言うと絶対に反対されるし、何よりも今の父親に申し訳ないと…だから内緒にしてくれと言っていた。新幹線の時間わかったらまた連絡すると明るい声で言われ、なんだか俺は少し楽しみに感じていた。
それから母親から折り返しきたのは2時間後だった。酔っているのか、めんどくさそうに調べてから連絡すると言われた。成長した妹は、俺を捨てた母親に似ているのだろうか。