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未定  作者: 41734
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2、妹


会社の食堂、ルーチンワークのように開いたfacebookで高校の同級生の結婚を知る。今年2回目。私は昔からやりたいこととか夢とかなくて、なんとなく高校を出て、なんとなく大学に入り、それなりに大変だったけど就職も決まり事務職として働き3年目。期待されるほどのキャリアを積むこともなく、私の代わりなんていくらでもいるであろう仕事を毎日淡々とこなし、さほど仲良くもない同級生の結婚を羨ましく思いながら一人で過ごす昼休みも慣れたもの。少しイライラしながら勢いでネイルサロンを予約する。こうやって私自身を磨くのも誰のためなんだろう。

私には彼氏といえる彼氏はいない。でも私は会社の上司と付き合っている。そして彼は既婚者だ。彼には私と同じ歳の奥さんがいる。それがまた腹立つ。でも絶対に言わないであろうけど彼が奥さんと離婚して私と結婚したいとか言いだしても、逆に私は願い下げだ。私は彼に何を求めているんだろう。


「飯田さん!」


急に声をかけられ、びくっと反応してしまう。滅多に会話しないうちの部署の主任が声をかけてきた。


「飯田さん、有給1日も使ってないからすごい余ってるけど、もうすぐ契約更新だから有給使わないうちになくなっちゃうよ?いま新入社会もいるし有給使うなら今だと思うけど。」


返事もしないうちに早口で要件を言われ、内容を理解するまでに時間がかかった。要するに新入社会がすごく有望で、おまけに愛嬌があり誰からも好かれ、同じ制服を着ているのにこんなにも違うのかと圧巻させられるような人がいるから、私はお荷物なんだと思った。友達も少ない私は有給使って休んだところで出掛ける人もいない。だけど私が長く休んだら彼は心配するだろうか…一人旅もいいな、なんて考えながら結局わたしは有給を使い、入社してから初めて長い連休を取ることになった。


会社の帰りに駅前で旅行のパンフレットを大量にもらい、旅行用にボストンバッグを借りるために実家に寄った。社会人になってから憧れで一人暮らしを始めたものの、実家まで電車で1時間かからず結局しょっちゅう実家のお世話になっている。私は一人っ子だから両親も可愛がってくれて…いゃ私は一人っ子ではない。10歳年上の兄がいた。私が小さい時にママが再婚して、私は実の父親の顔も名前も知らない。兄の顔や声は今でも不思議と覚えている。そんな兄も20年以上会っていない。実家の最寄り駅から歩きながら、ふとそんなことを思い出した。

実家に着いた時、家には誰もいなかった。スマホを確認すると先ほど私がママに送ったLINEの返信で、パパと外食に出かけている内容が届いていた。パパとママは本当に仲がいい。私もパパとママのような夫婦になりたい。私は連れ子だけど、パパとママの間には子供は授からなかった。たまたまなのか意図的なのかはわからないけど…パパは血の繋がらない私を本当に大切にしてくれた。厳しい時もケンカすることもあったけど、本当の親子以上に接してくれたと思う。


慣れた玄関を上がり、洗面所で手洗いうがいをして真っ暗なリビングの電気をつけると、留守電のマークが光る固定電話が目についた。どうせセールスか何かだろうと気にもせず留守電再生を押し、浮腫んだ足を解放するためストッキングを脱ぎ始めた。


ー……あっ、孝典です。えっと…酒蔵の裏の土地の件で電話しました。


遠い昔に聞き覚えのある声に、思わずドキリと胸がなって、電話の方を凝視してしまう。

お兄ちゃんだ…

20年前に聞いた兄の声は、私を20年前に連れ戻してくれるように懐かしかった。


ー相続のことで話があるので、折り返しください。


時間を見るとまだ20分ほどしか経っていない。私はストッキングを脱ぎかけたまま、リダイヤルを押した。20年も話していない兄と上手く話せるかどうかなんて、全く頭になかった。

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