誕生しました
俺はQTVRMMOで新たにゼロとして産まれた。そう、産まれたのだ。
俺はニーナと呼ばれた俺のゲーム内の母親であろう奇麗なお姉さんに抱かれ、とりあえずメニューの起動を試みる。
もちろんログアウトするためだ。PCゲームの頃からQTはログアウト時にオートセーブが行われるためセーブポイントは存在しない。
なんの心配も無く「まぁ、頭で念じればフォンッって出てくんだろ?」と思って念じてみる。
しかし、何も起こらない…
(あれ?メニューが開かない。
メニューが開けなくてもログアウトする方法がある?
例えば、何か特定の場所に行くとか?それとも何かスキルがいる?)
そんな馬鹿な。ログアウトはしたい時にできて当たり前の機能だった。
(早速バグか?VRMMOでログアウトできないバグなんてシャレになんねぇぞ…)
色々念じてみた結果、自分のスキルと装備は確認できた。
しかし、当然メニューから確認したのではなく<状態確認>というスキルで確認したのだ。
いつ穫ったのかも分からないスキルで今まで使った事も無いモノだったが、俺は自分の200以上に上るスキルは全て覚えている。正直PC版では何の役にも立たないスキルだったがここで俺の窮地を救ってくれるとは。こいつとは長い付き合いになりそうだ。
といってもこんなバグは速攻改められると思うが。
<状態確認>で見た所、スキル、装備状態の装備に関しては何もなくなっていなかった。しかし攻撃系、戦闘時の肉体強化系などの戦闘に関するスキル、相手からスキルと装備を奪うスキル、己を偽るスキルなどの俺の専売特許のスキルを始めとして、鍛冶や錬成のスキルも灰色になっており使用できなくなっている。
使えるスキルは<毒無効><呪い完全無効><獲得経験値増加><ステータス向上>などの常時発動スキルのみだ。
発動していてホッとした部分もあるが、ゲームをプレイするにあたって必要になるスキルが軒並みロック状態になっているのは大きな不満である。
まぁ、赤ん坊の状態で敵を罠にはめ神級武器を振り回すなんてできるとは思っていないからしばらくは必要になりそうも無いかなとは思っているが。
また、自分が所有する装備も12個のうち11個は使用不可になっていた。
8つは武器で2つは補助効果のある装備、残りの2つはテイムと召還に必要なモノである。
自分が現在使用可能なのは<神々の加護>という指輪装備である。ちなみに、これは神級装備ではない。これも常時発動しているタイプの装備である。
[神狩り]なんて称号を持っているのになんで加護なんて貰えるんだ、と思うだろう。
しかし、俺は[神を隷属させた者]という称号を持っているし、なおかつプレイスタイルで邪神達からの祝福も受けた事があるためこんな装備を持てている。
多くの神の加護を受けた装備であるため下手な神級装備なんかよりずっと高性能を誇っているのだ。すごいだろー。
ちなみに今俺の指に指輪は嵌っていないが、何となく存在っぽいモノは感じている。
第六感というのか?違うか。まぁ、なんか変な気分だ。
今スキルや装備が使えないのは間違いなくステータス不足が原因だろう。
アナウンスで称号の清算と言っていたがもしかして称号が奇麗さっぱりなくなってしまったのかとも思ったが、ギルドの所有権は失われないという感じの事を言っていた気がするし、称号が無いと所持できない神級装備を持っているため称号がなくなっているとは考えない。
でも、ステータス向上のスキルや加護をちゃんと受けている状態でステータス不足ってことはそれらがなくなったら俺はどうなってしまうのだろう…
加護の中には『自分のステータスを2割向上させる』なんてものもあり元のステータスが大きければ効果も大きいなんてモノもあるが、それを差し引いた所で赤ん坊にしかなれないステータスしかないのならば俺のスキルや加護を抜いたステータスは小数点レベルなのではないのか?
そして、清算というアナウンスの言葉を思い出した事で俺は最後の言葉も思い出した。
『称号[世界の敵]の影響で今後、公式の機能は使用できなくなります。』
まさか…ね。
公式の機能ってメニューが使えないという事か?
メニューが開けなければログアウトできないよね。
しかし、俺は何も恐怖は感じていない。そりゃそうだろ。これゲームだもん。
ログアウトできなくても異変に気付いた製作者側がなんとかしてくれるだろう。少し衰弱状態になる事は覚悟しといた方がいいかもしれないがこのままログアウトできないなんて事はあり得ない。
そんな風に思って俺はとりあえずゲームを楽しむ事に気持ちを切り替えた。
武器はPCの時は自分のキャラにカーソルを合わせて選択できたけどこの世界ではどうやるのだろう。
つーか、グラフィック奇麗すぎる。まじで現実世界にいるようだ。ゲームの中なのに五感が働いている。
俺はキャラクター二人を見たり、家を見たりしきりに頭を動かしていた。
すると頭上から。
「あらあら、産まれたばかりなのにもう色んな事に興味を持っているの、ゼロ?
私は貴方のお母さんのニーナ モーガンよ。狭くて汚い家に私と二人だけどこれからよろしくね。」
そう俺の母親キャラクターは言った。
俺の名前はゼロのままか。よかった。
お母様、なんで子供にそんな名前をつけるのですか。
俺は自分のキャラ名の由来を思い出し少し暗い気持ちになる。
俺は「どうも、こちらこそよろしく」と言おうとして「あー、あー」と声が出る。
そんな俺を見たニーナが幸せそうな笑みを浮かべるとゲームのキャラクターなのにも関わらず俺もなんだか幸せな気持ちになった。
「さぁ、産湯につけて体を清潔にしてあげないと」そういって婆さんが俺を抱く。
「あ、お願いします。ステラさん」
「これから大変だろうけど何かあったらいつでも頼りな。しばらくは定期的に手伝いに来るから」
「ありがとうございます。でも、どんな困難もこの子の為に乗り越えてみせますよ」
「心配だねぇ。あんたは村の外れに暮らしているけど村人に何かされたら言うんだよ。必要な物は私が買って持ってきてあげるから」
「はい。お言葉に甘えて困った時は頼らせていただきます」
そんな二人の会話を聞きながら俺はぬるま湯で体を洗われ柔らかなタオルに包まれた。
間もなく強い眠気に襲われた。
(これでログアウトできるだろう。目を覚ましたら自分の部屋のベッドの上かな。
もしかして普通にこの世界で目を覚ましたりして…
あんな世界でいきるよりこの世界で生きた方が面白いのは確実だなー
成長スピードはどんな感じなのだろうか。新しいスキルの獲得とかできるのかなー
早くモンスターやプレイヤーと戦いたいぜ!)
そして俺は眠る。
自分の身に何が起こったのかを何も知らないまま………