産まれ直してください
産まれ直せたら… そんな事思った人は多いですよね。僕もです。
まぁ、今を精一杯生きてないで次に縋る時点で産まれ直しても同じ結果しか待っていないと思うんですが…
このゲーム『The quest for truth』の説明を軽くさせて頂く。
以前にも述べた通り、このゲームの売りは「異常なまでのやり込み要素」と「信頼できる仲間を見つけよう!」である。
「異常なまでのやり込み要素」は皆が想像しているような事だ。
キャラ設定は種族、容姿、ステータスの割り振りからとても細かく設定できる。
種族は人間から始まり、公式が作ったオリジナルモンスターまで多岐に渡る。
種族によって使える武器や魔法が違い、成長速度の違い、ジョブの進化も違えば特定の行動を起こしたときに得られる称号も異なってくる。
この称号がこのゲームでは重要な意味を持つ。
称号を得れば自分のステータスにプラス、マイナスの変化が起きる。
しかし、称号も無数にあるので得たい称号から種族を選ぶのは意味がない。
そもそも、どんな称号があるのか発売してから7年以上経った今でも解明しきれていないのだ。
装備も魔法も無数と言っていい程の数がある。
もう、wikiも情報が多すぎて逆に解り辛くなっている程である。昔掲示板で「他者の情報がここまで参考にできないゲームは他に無い」と言わしめ、このゲームでの合い言葉は「Don’t think.Feel.(考えるな、感じろ)」と昔の宇宙映画のような台詞になってしまった。
もちろん使う武器やプレイスタイルで得る称号も変わる。
しかし、一度キャラを作ると再設定ができないので決定ボタンを押すと公式メッセージである「これ以降はレベルアップボーナスの割り振り以外でキャラクターに関する設定はできません。決定しますか?」
「本当に決定しますか?他に選択肢ありませんか?」
「自分の想像と異なるキャラクターでも当社は一切責任を負いませんのでご了承下さい。決定しますか?」
とウザい3度の意思確認メッセージが流れる。
しかし、種族決定はプレーヤーのモチベーションに関わる最も大事な作業である。
噂ではとあるギャンブル精神旺盛な人が知らない名前のモンスターを選択し、胴体と腕だけの悲しい生物として生を受けたらしい。
ちなみに俺は普通に人間の戦士職を選んだ。化け物でストレス発散もいいが、人間として暴れたかったのである。敵(他プレイヤー)の油断も誘えるしね!
今では恐らく戦士の最上位である「武神」という職になっている。実際にいた武神という神をサシで倒し、そいつの神級装備”魔大剣 断界”を手に入れたらなった。
俺は他にも神級装備を6個、そしてギルド武器を持っている。
そして、当たり前だが重要なやり込み要素としてマップが異常な程広い、という点が挙げられる。
当然ダンジョンもあるし、一定の領域を支配しているモンスターもいる。
ダンジョンを攻略したり強いモンスターを倒せば得られる強い装備や魔法、称号も存在する。ダンジョンを攻略したり領域を支配しているモンスターを倒すと、その支配者は自分になる。
町を作ったり、ギルドの拠点なんかにもできる。領域支配者であるプレイヤーが支配領域内で他のプレイヤーに倒されるとその支配権は倒したプレイヤーに移る。
プレイヤーは攻略地図というものを初期装備として持っており、自分が一度行った場所の地形などが記される。そして、ある程度地図を埋めると得られる称号なんていうのも存在するし、自分が支配した場所、どれだけ敵や地形を破壊したかでも称号が付く。
つまり、このゲームは狙った事が絶対に上手く行かないようにできているのだ。あるスキルを手に入れても称号のせいで十分な効力を発揮しなかったり、逆に意味不明な称号が進化して自分にとって嬉しい結果をもたらす事もある。
そんな自分がどんなキャラクターに成長して行くのかが自分でも把握しきれないというゲームバランスが賛否を産んだ。
しかし、このシステムを気に入ったプレイヤーはどこまでもハマっていったのだ。
俺もその一人。
「あー、アイテムも金もステータスも奪われた。公式は絶対俺の事嫌いだな。この鬱憤は同じテストプレイヤーにぶつけてやろう。
取りあえず地に足つけたらレベル上げてギルド探ししなきゃな…
神域とか魔境に送られることは無いだろうけど、ステータスが低いなら地道にスライムとかゴブリン狩るか。ある程度上げたらプレイヤー狩りで手っ取り早く金と装備奪うぞー」
落ちて行きながらそんなことを考えていたら、落下が終わっていることに気づいた。
視界は真っ暗、とても狭くて暖かい空間に閉じ込められている。
すると、光がみえた。この空間から外に出られるのかと思った俺は光に向かってすごく狭い穴を無理矢理こじ開けるように手を伸ばす。
頭が出ようかというとき、皺の寄った大きな手が俺を掴んで外に引っぱりだしてくれた。
(まぶしっ! この婆さんでけぇ! 家もでかいな。ここは巨人のエリアか?!)
そこで俺は気づく。
(いや、俺が小さいんだ… 俺、赤ん坊になってやがる。)
そこで俺は最後のアナウンスの一部を思い出す。
『残ったカルマ値が膨大、かつ貴方は本拠地を失ったため正常なプレイヤーとしての召還は不可能になりました。』
(なんてことだ。要は『産まれ直せ』ってことかよ…
そんな事許されるの?許されないよね。
なんで楽しむ事が目的のゲームでこんな事されなきゃいけないんだ。
さすがQT始めからプレイヤーの意表を突いてくるな。
取りあえず現状を確認したら一度ログアウトしてメールを送らなければ。
俺は強くてニューゲームができると思って今回のテストプレイを承諾したんだから)
そんな風に考えていると突然尻を叩かれた。俺は驚き、なぜか大声で泣き出してしまう。
不思議な感覚だ。頭の中は冷静なのに泣いてしまう。
「泣かないからちょっと心配したけど大丈夫そうだね。元気な男の子だよ。抱いてあげなニーナ」
俺を叩いた婆さんがそういって俺を布団に横になっているお姉さんに俺を渡した。
黒髪に赤い目をした20歳になるかならないかくらいの美人なお姉さんだ。
俺を見て幸せそうな笑顔をみせてくれている。
(こんな奇麗な人が母親の設定なのか…
赤い目かー 吸血鬼みたいだなー。
吸血女王ならテイムしてギルドの守りに置いてたけどなー。)
現実の母との差を思い出し、ステータスを奪われた事がちょっと嬉しくなった瞬間であった。
しかし、俺はそんな喜びに酔いしれていて最後にアナウンスが言っていたもう一つの不穏な言葉を忘れていたのであった。
(『称号[世界の敵]の影響で今後、公式の機能は使用できなくなります。』)
称号は[ ]で、スキルと武器は< >で、会話は「 」で、心の叫びは( )でそれぞれ示すようにしています。