他人の就活をしました。
蜘蛛の子を散らすように……とまではいかなかったが店内からおっさんたちを少しずつ追い出し、街へと放っていった。あとはおっさん達がディックさんとフィリンちゃんの話を広めるという任務を遂行すれば、取り敢えずではあるが知名度問題は解決。後にくるであろう「お問い合わせ」に俺が答えていけば、住民たちの理解も得られる……と思う。
ベロニカさんは「甘い考えだけど、やってみたら?」と背中を押してくれてはいるし、当事者二人からも了承を得ている。あとは、俺の後ろで未だにオロオロしているファーニルだが。
「ファーちゃん、料理できる?」
「ファーちゃん言うな!……出来なくはない」
ふむ、これはあまり期待できそうにないな。たぶん、意地を張ってそんなことを言っているだけだ。たぶん、ゆで卵を作ろうとして電子レンジに放り込んじゃうタイプだ。この世界に電子レンジないけど。だいたい、もしフィリンちゃんが料理出来る子だったとしたら、全くやらなかった可能性だってある。
「じゃあ、ファーニルはウェイターで。看板娘ならぬ、看板……エルフ?」
なんだか語呂悪いけど仕方ないか。俺の話について来られないファーニルを置いて厨房に入った。中では先生が山積みになった皿を手際よく洗っていた。
「お疲れ先生。俺以外に従業員欲しいって言ってたよね」
「ん?おお、イサギか。そうさなぁ、お前さんは一応生徒の立場だし、ちゃんとした人手が欲しいわなぁ」
これだけ繁盛する店なのに、店員が先生しかいないっていうのがおかしいんだ。俺を含めても二人だけ、前の世界じゃ考えられない。調理は勿論、買い出しから配膳、掃除まで全て一人でやってきた先生は確かに見た目通りのパワフルさだが、もっと余裕を持ってもいいと思うのだ。
そこでいつだったか、俺が働きすぎじゃないかと言うと、「そうだなぁ、そろそろしたっぱが欲しいな」とボヤいた。週休半日なんて、休みがあるとは言わないだろう。
そこでファーニルだ。ディックさんの手を借りたくないと言い張るなら、どこかで働いて稼がなくてはならないだろう。だったら知らないところで働かせるより、俺の手が届く、信用できる人の下で働いてもらった方が俺も安心出来るのだ。
「ファーニルどう?料理は出来ないけど、ウェイターとして。掃除と皿洗いも問題ないだろうし、慣れたら買い出しとかもしてもらえば先生も楽になるんじゃない?」
「ファーニルって、店に来てるあのエルフか?俺としちゃあ真面目に働いてくれんなら種族は問わねぇよ。それにイサギの紹介だし、それ疑ったりはしねぇ。本人の意思か?」
「んーん、ここで働くんなら俺が安心出来るから勝手に言ってるだけ。もういっこ言うなら、住み込みにさせてもらえるとなお良し」
先生に絶大な信頼を寄せている俺です。感覚的にはあれだ、父親みたいな。父さんがいたらこんな感じかなーという。ま、日本でこれだけパワフルなオヤジがいたらかなり浮くだろうけど。
「住み込みは構わねぇよ。どうせ俺しかいねぇ。部屋も余ってるしな」
さすが先生!太っ腹!
確認がとれたので店内に戻ると、まだ居座っていたザンガスさんとビーキンさんにファーニルが絡まれていた。ファーニルは俺の時とは違ってなんだか恥ずかしそうに話している。なんだコノヤロウ、随分な対応の差じゃねえか。
「なんだよファーちゃん、俺と話するときはいっつもむすっとしてる癖に。なんで二人にはそんな柔らかい態度なの?この潔くんにも分かるように説明してください」
「ぐっ!?重い、わ、あほ!」
気に入らないので椅子に座っていたファーニルの後ろに立ち、頭に腕と頭を乗せて体重をかけてやった。ブーブー言っていると、右脇腹に衝撃が。ファーニルの肘が食い込んでいる。凄く痛い。思わず唸って踞ると、傭兵二人の笑い声が。笑い事じゃないわ畜生。
「ファーちゃん酷い。俺というものがありながら浮気なんて……そしてDVだよこれ……」
「気色悪いこと言うな!」
「うんごめん。俺も言っててぞわっとした」
脇腹を擦りながら立ち上がると、椅子をファーニルの隣に持ってきて座った。
「聞いて聞いて。ファーニル明日からここで働くことになったから」
「……はぁ!?」
「おお、やっと新しい店員か」
「いいんじゃない?エルフの新人。話題になりそうで」
驚くファーニルを他所に、傭兵コンビはなんとも軽いノリ。何を話していたかは知らないが、人見知りするファーニルと打ち解けたようで。
ファーニルといえば、俺の言葉に固まっている。初めての就職先としてはいいところを紹介したつもりなんだけど。
「あ、料理は先生がするから、ファーニルは俺と配膳ね。注文とって、先生に伝えて、料理持ってく。最初のうちは俺が会計するけど、いずれは会計と買い出しも出来るようになろうね。そうそう、先生が住み込みでいいって言ってくれてるから家探しもしなくていいよ」
なんという好条件!住み込みで光熱費がタダ、稼いでるお店だから給料もそこそこ期待できるし、信頼できる上司付き。でも、たぶん週休1日か2日。でも先生のことだから、休みが欲しいと言えば聞いてくれるだろう。下手すると最初から有給ついてるかもしれないよ、このお仕事。
「おまっ、なんで勝手に極めてるんだ!」
「え、ファーニル一人で仕事探すつもりだったの?家も?てか、ちゃんとした生活送る気あった?路上生活とか俺が許さないからね」
気分はヘタレ息子に世話を焼くお母さんだ。高卒の息子が就活で出遅れて、それを心配してコネを使って仕事も一人暮らしの部屋も探してきちゃう心配性なママンだ。だから、路上生活でひもじい生活は認めません。
俺の質問に黙ったままのファーニル。知り合いもいない人間の街で当てもなく仕事や住居を探すことの難しさは分かっているようだ。
「ねー?取り敢えずでいいから、最初は俺と同じところにいようよ。先生は信用できる人だし、ここの常連客だって器のでかい人ばっかだ。そこの傭兵コンビは腕も立つし、なんかあったら頼ればいいしさ」
「自分の身は!……自分で守れる……」
「えー、フィリンちゃん探すのに俺を使おうとした奴がよく言うな。最初の内はちょっと気をつけてなきゃなんないの、分かってるよねー?」
そりゃあ、いつかはファーニルやフィリンちゃんが安心して暮らせるようになればいいと思ってる。だけど、さすがにそれがすぐに叶うとは思っていない。
難しいことはいっぱいあると思う。でも、ここなら頑張ればそれが叶うくらいに恵まれた環境が整っているということも、分かって欲しい。偉そうなこと言ってる自覚はあるが、俺が好きなこの街を嫌いにならないように、好きなままでいられるように、ファーニルにはちゃんと暮らして欲しいと思ってもいる。
この、人によっては馴れ馴れしく感じるようなフレンドリーさと、気安さのある街の人たちが、俺は気に入っているんだ。
「いーじゃん、知らない人と働くより、俺の方がいいっしょ?」
「うわ、イサギ必死」
「男口説いてそんな楽しいかねぇ」
「口説いてねーよ!説得してんだよ!」
真面目な話をしているのに茶々を入れてくるコンビ。ファーニルは難しい顔をしているが、俺から目はそらさない。
「……分かった、頼む」
溜め息と共に出た言葉は何か諦めたようにも聞こえるが、目はしっかりこちらを見ていて覚悟のようなものを感じた。
珍しく素直な返答に満足して、お手軽な俺は機嫌を良くした。何だかんだ言っても、俺に心を開いてくれているように感じるからだ。
「そんじゃあ、先生に挨拶しに行こう。これからお世話になるわけだし」
「なんでそんなにニヤニヤしてるんだ、気味が悪い」
「こらこら、明日から俺は先輩よ?先輩に向かってそんな口きいていいのかな?」
「だったら僕だって年上だが?そんな口きいていいのか?」
「その通りですねすみませんした」
軽口を叩きながら、二人で厨房に入っていった。




