語っちゃいます。
「よぉイサギ。魔女様が一緒たぁ珍しいな」
「だよね。前回街に来た時からそんなに日が経ってないのにね」
「そうだね。そしてあんたらはいつも通り昼間っから酒飲んでんのね」
昼時を迎えていた宿り木亭は傭兵ギルドの連中で既に満席状態になっていた。ベロニカさんに気づいた先生が傭兵のおっちゃん達に席を詰めるよう言って、無理矢理テーブルを空けてくれた。ベロニカさんはにこやかにお礼を言うと、フィリンちゃんだけを連れて席についた。ファーニルは居づらそうに俺の後ろに立っている。
ザンガスさんがフードの二人を一瞥すると、俺に視線を戻した。
「そっちの二人は見慣れねぇなぁ。外から来たのか?」
「え、顔見てないのに分かんの?」
「匂いで分かんだろ」
「お巡りさーん!変態はここです!」
「おい!誰が変態だと!?」
変態でなければなんだ、犬か!匂いで人を判別できるなんて、嗅覚までS級かこのおっさんは。後でディックさんにチクってやる。
取り敢えずファーニルを紹介しようと素早くフードを取ろうとしたが、そう何度も上手くはいかないらしい。ファーニルにがっちり両腕を捕まれて身動きがとれなくなった。フードから僅かに覗いた目がぎらついていて恐い。
「ファーちゃん、どうしてそんなに拒否るのかな……?新参者が挨拶するのは常識でしょ?」
「だからといって、そう何度もお前のいいようにされて堪るか」
「じゃあ自分でフードとりなよ」
「……」
ヘタレ発動!俺の腕を掴んだまま黙りこくって俯いたファーニルは気づかない。俺がビーキンさんとアイコンタクトしていることに。
「挨拶って言うのはね、お互いの顔を見ながらするもんだよ!」
「はーいご開帳」
ビーキンさんが人差し指を立てて宙に何かを描くと、指の動きが止まると同時に描かれた模様が光り、ファーニルのフードがひとりでに落ちた。これはあれですね、魔法陣というやつですねかっこいい!
ファーニルの念話の魔法は呪文だったし、ベロニカさんは呪文も魔法陣も使わない。小さな陣だったけど、実際に見るのはこれが初めてだ。
ビーキンさんの魔法陣に感動している俺の前では、呆気に取られていたファーニルが慌ててフードを被り直していた。店内は既にざわめいているのに、今さら隠したところでもう遅い。店内の客たちは皆見ただろう、ファーニルの尖った耳を。滅多にお目にかかれないエルフが現れたことにざわめく店内。
ファーニルはフードを握り締めて俯いたが、ベロニカさんとテーブルにいたフィリンちゃんはヘタレとは違うらしい。徐に立ち上がり、自らフードを脱いだ。長い金髪の美しいエルフの彼女に、客たちが注目した。
「お騒がせして申し訳ありません。私はフィリン。見ての通り、エルフです」
おお、かっこいい。緊張はしているようだが、兄貴とは違って堂々たるものだ。
それを見たファーニルも諦めたようにフードを脱いだが、視線は床を見つめたままだ。
「こちらはフィリンちゃんの弟みたいなお兄ちゃんで、俺の友達のファーちゃんです」
「ファーニルだ阿呆!」
口を開こうとしないファーニルの変わりに紹介してやったのに、後頭部をひっぱたかれた。掴みはばっちりな筈なのに、何が不満なんだ。
「ほら、エルフが出るって噂あったじゃん?あれ、こいつの噂だった」
「へぇ、エルフがこんなところまで、ねぇ。何しに来てたの?」
「……フィリンを、探しに……」
ビーキンさんの質問にボソッと答えたファーニル。
ザンガスさんが俺とファーニルの分の椅子を確保してきてくれたので、二人がいたテーブルを一緒に囲んだ。
店内は先程の騒がしさがなくなり、ファーニルの声を聞こうと耳を澄ましているようだ。
「フィリンちゃん、奴隷商に捕まってさ。それを買ったディックさんちにいたんだよね。……ってあ。フィリンちゃん、これ話してもいい?」
「はい、いずれ話さなければならないことです」
フィリンちゃんの許可は貰った。ディックさんは……事後報告で。
「まぁ、ディックさんが買ったのは他の貴族んとこに売られて問題を起こされるより、自分が買い取って逃がしてやればいいって思ってのことだったみたいでさ」
「ほぉー。エルフ買うなんて、俺達庶民じゃ考えられねぇくらいの大金必要なんだろうな。逃がすだけだってのになぁ」
「だよねー、ディックさんまじイケメン」
大袈裟に頷くと、フィリンちゃんと目が合って恥ずかしそうに顔を叛けられた。なにあれ可愛い。
「でもさ、奴隷の首輪つけられててディックさんでも鍵を貰うことが出来なかったんだって。そのあとすぐに行方を眩ました奴隷商をあの手この手で探してたんだけど、今でも見つかってない」
「ああ、首輪があると追跡されるから、エルフの村にそのまま帰れないんだね。そのまま帰ったりしたら奴等を案内するようなものだもんね」
俺の拙い説明にビーキンさんが解説を入れてくれた。やっぱり頭のいい人は違うな。こんな説明でも状況を想像出来てしまうのか。
でもビーキンさんは何かに気づいて難しい顔をした。その目はベロニカさんに向けられている。
「……魔女ベロニカが出てきているのに、首輪がまだ填められているってことは、もっと厄介なことがあったのかな?」
ほんっと、頭のいい人は違うな。
「そうですその通り。その首輪、……えっとー」
首輪について上手く説明出来る自信がなかったので、ちらりとベロニカさんに視線を向けると、ベロニカさんはひとつ溜め息を吐いて口を開いた。
「その首輪は対象の魔力を取り込み、体に戻すことで変質させた魔力を上手く巡回させている。もし首輪を無理に外せば、体が変質されない『元の自分の魔力』を異質物と判断して拒絶反応、体の至るところで機能不全を起こすでしょうね。貴方も魔術師なら、自分の体に他人の魔力が流されることの苦痛がどれ程のものか、分かるでしょう?」
「そうだね、神経毒でも飲んだような感覚になる。一度、友人の慣れない回復魔法の練習に付き合ったことがあるんだけど、そこで経験したなぁ。あれも魔力を変質させて対象に流すのは同じだから、変質しきれない魔力が体に入って危うく大惨事になるところだったよ」
それはよっぽどのことだったのか、珍しくビーキンさんが青い顔で思い出を語った。そのあとどうなったんだ、ビーキンさん。ってか、あの首輪って、改めてとんでもない物だったんだなと思った。
「そんで首輪とると体を壊すし、とらないと村には帰れないってことで、フィリンちゃんはディックさんと結婚することになりました」
「……」
「はぁっ?」
一拍遅れて返ってきた反応に安心した。一瞬スルーされたかと思ったもんね。
俺の爆弾発言に静まり返る店内。この店内が昼時にこんなに静かになったのは初めてじゃないか?
ザンガスさんとか、吃驚し過ぎて飲んでたビール吹いたよ、汚いな。
「ちょっと待てや。話飛びすぎだろ!なんでそんな完結の仕方してんだよ!」
「え、だって。村に帰って好きでもない人と結婚するより、首輪言い訳に使って好きな人と結婚した方が良くない?って、俺がフィリンちゃんに言ったから?」
「んだよ、そこの別嬪はマクライエンに惚れてやがったのか!」
「え……あの……」
「おいお前!やっぱりお前がフィリンに吹き込んだんじゃないか!」
「え、なに。それじゃああの人、やっと結婚?しかも相手がエルフ?」
「いいじゃねぇか、貴族がエルフの女と結婚!前代未聞だな!」
「話題性もバッチリね、ちなみに、婚約披露のお祭りするらしいわ」
「お、やっとか!そりゃあいい!愉快な祭りになりそうだ」
「祭りはいつだ?」
「こうしちゃいられねぇ、帰って家族に知らせねえと」
「あーもー!うるせー!うーるーせー!」
誰に話し掛けられてるか分かったもんじゃない。他の常連からも声をかけられているのは分かるが、騒がしすぎて聞こえやしない。取り敢えず、要点だけ纏めようか。
「祭りは5日後!ディックさんが、奴隷商に捕まったエルフの女性を助けて落としてそのまま結婚することになりました!詳しいお話は俺が領主さんに話したら後ならお問い合わせ可能ですんで、また後でね!さあ、この話を街中に広めて来い!散れ!」
「おい!何様だー!」
「ひょろってんのに生意気だぞー!」
「うるせー!スレンダーと言えっつってんだろ!」
ヤジを飛ばされるのに負けじと言い返したが、静かになるどころか余計に煩くなってしまった。厨房から先生が出てきて怒鳴られるまで騒ぎは続いたが、店に来たときよりも騒がしいままだった。酒の肴になる話題を得たからだろう。
俺が言わずとも話は広まったろうが、せっかくだから煽っておいた。
さてと。
領主さんより先にネタバレさせてしまった。
早速、明日あたりにでも領主さんの屋敷に出直して語らねばなるまい。始まったばかりの人間とエルフのお話を。
……ラブストーリーとは俺の口からは絶対に言わないからな、恥ずかしい。




