領主さんに報告しました。
また未完成状態で投稿してしまいました。お待たせしました、完成です。
「おおお、ディックさんちよりデカイ……」
なんだこれマンションか、ってレベルの広さを誇る、ケイブルグラム領主、セダン・ヴィーダグルの屋敷。上級区画の中心にあるその豪邸はマクライエン邸より広くはあるものの、どこか親しみやすさを感じさせる造りになっている。というのも、周囲のレンガ造りの屋敷とは違い、木造。懐かしい日本家屋を思わせるが、デザインは西洋風。日本によくあるオシャレな家をそのまま巨大化させたような感じだ。庭もどちらかと言えば質素な方で、植木の本数が少なかった。
早速やって来ました、領主さんち。
近い距離をわざわざ2台の馬車を使って移動してきた。エルフの二人にはフードを深く被って貰ったが、俺とベロニカさんはそのままなので馬車を降りた途端に注目を浴びてしまった。
突然の訪問だったにも関わらず、領主さんは「珍しい客人だ、ぜひとも上がっていってくれ」と、素性を明かさない二人について追求せずに屋敷に迎え入れてくれた。
通された客室で紅茶とも違うハーブティーを飲みながら、小太りで賑やかな領主さんが楽しげに話すのを聞いていた。
「仕事以外の来客は久々だ。最近は王都からの書状やら貴族の揉め事やらばかりで忙しくしていたからな。おっとそんなことより、マクライエン卿が急に来るなんて珍しい。急ぎの用か、はたまた何か問題でも起きましたかな?」
領主さんがフードを被ったままの二人を一瞥し、それからディックさんにニヤリと笑って見せた。ディックさんは真剣な顔のままで立ち上がり、それに合わせて隣に座っていたフィリンちゃんも腰を上げた。
「ヴィーダグル伯爵、突然の訪問に対応頂きありがとうございます。本日は私事ではありますが、先ずは伯爵に報告をと思いまして」
そう言うと、ディックさんはフィリンちゃんに目配せし、彼女はひとつ頷いてフードを脱いだ。露になった美しい金髪と整った顔立ち、そして特徴的な尖った耳に領主さんが目を見開く。
「彼女の名はフィリン。ご覧の通り、エルフです。私は先程、彼女と一生を共にすることを約束し、婚約者となりました。しかしエルフと人間の溝は深く、私と結婚したとしてもこの街で暮らす以上、彼女の身に危険が及ぶ可能性があります。そこで、伯爵のお力添えを頂けないかと、無理を承知でお願いに参った次第です」
「……図々しいお願いで申し訳ありません」
あんぐりと口を開けて固まって面白い顔を晒していた領主さんだったが、目を伏せたフィリンちゃんからの言葉にハッと我に返った。
「いやはや驚いた。待ちに待った君の結婚相手が、この可憐なお嬢さん。しかも、エルフとは」
その言葉にフィリンちゃんがビクッとした。領主さん、ディックさんに向かってニヤニヤしてるだけだから、そんなに怯えなくてもいいだろうに。うつ向いているから気付かないんだろうけど。
と、そんなことより。俺も初対面なんだから挨拶せねば。
「俺もはじめましてなのでご挨拶。ベロニカさんの忠実な僕、潔です。フィリンちゃんを探し回ってたファーニルに捕まってここまで来ました。あ、ファーニルってのはフィリンちゃんの兄ちゃんで、ここにいる無愛想童顔くんのことで」
「おまっ!何をする!」
ファーニルのフードをひっぺがすと、その手を叩き落とされた。ファーちゃん、俺に対してちょっと暴力的じゃありません?
不服そうな顔をして領主さんにぺこりと頭を下げたファーニルを見て、思わず「おお」と声を上げそうになった。ディックさんの時はそんなことしなかったのに、さすがに立場を理解したのか。嫌々やってるのが顔に出ちゃってはいるけど。
そんなことは気にする様子のない領主さんはきっと器の大きい人なんだろうと思う。
領主さんは俺達のやり取りを見てかっかと笑った。
「二人とも、街で別々で噂になっていたろう。まさかそんなに仲がいいとは思わなんだが」
「……お前の所為で余計な勘違いをされたろう……!」
「さすが領主さん!俺とファーちゃんの仲を分かってくれるなんて!」
小声で批難してくるファーニルにイラッとしたので、大声でそんなことを言って抱き付こうとしたら、腹に一発割と本気な拳を食らってしまった。痛くて思わず踞ると、上からベロニカさんとディックさん、領主さんの笑い声まで聞こえてきた。大人連中が笑い者にしてやがる。
「りょ、領主さん。そんでさ、二人の婚約披露を兼ねてお祭りって出来ないですかね?これから二人もこの街の一員になるんだ、エルフってことでいろいろ大変なこともあるだろうけど、皆にちゃんと挨拶する場を貰えれば街の人はちゃんと二人を受け入れてくれると思うんだ」
街の皆に守ってもらう前に、ちゃんと二人を知ってもらって、この街に受け入れてもらわなければ。こちらから歩み寄る姿勢がなければ、いきなり「守ってください」なんてお願いしたところで反感を買うだけだ。ディックさんとの婚約というきっかけを理由に民衆を集め、挨拶する。フィリンちゃんとディックさんに許可を貰って二人の馴れ初めも話せば、好感の他にも同情だって引けるだろう。
同情されたくない、なんて言ってる場合じゃないよファーニル。同情だって、使えるものは使わなきゃね。
領主さんは俺の提案に強く頷きながら「面白そうだ」と呟いた。
「そりゃあ祭りをするにはいい理由だ。最近やっていなかったしなぁ。マクライエン卿の婚約なら住民たちも食い付きがいいだろうし、私としてはエルフの彼女との出会いが気になるところだが」
「あ、その話は許可貰ってから俺が広める予定なので、ちょっと待っててください。……領主さんにはいち早くお届けしますんで」
「そりゃあいい!許可とやらを貰ったらいつでも屋敷に来ておくれ。祭りまでは屋敷で準備をするからな」
領主さんと悪い笑みを浮かべると、周囲から冷めた視線が。いやいや、これだって必要なことだよ?
祭りは5日後に開催予定となった。ディックさんは領主さんと祭りの内容について話し合うためにその場に残り、それ以外は領主さんの屋敷を出た。
領主さんの協力は得た。
さて、次に向かうは宿り木亭だ。




