作戦会議をしました。
更新が随分遅れてしまいました。
すみません……頑張ります。
結局言い出せる雰囲気ではなかったので、ディックさん自らこれからについての話をし始めるまで、俺は黙った。珍しく黙った。そんな俺をわざとらしく心配そうな目で見てくるベロニカさんと、奇妙なものを見るような目を向けてくるファーニル。どっちも酷くないか?俺だって空気を読んで口を閉ざすことだってあるのに。
「おい、さっき任せろと言っていただろう。何か考えがあるんだよな」
「イサギさん、何かいいお考えがあるのでしょうか?」
ん?ああそうだった。理不尽な扱いについ思考が飛んでしまった。
「ん。俺としては二人がこの街で、エルフであることを公言しながらも、安全に暮らせるようにしたいわけであります。この目標があることを、まず皆さん理解したってことで聞いて欲しいんだけど」
それからさっきファーニルと話したことを、もう一度話す。
ファーニルも街で暮らすこと。
でも、ディックさんには頼らずひとりで暮らすこと。
それには後ろ楯が必要なこと。
フィリンちゃんの後ろ楯にもまだ不安を感じることなど。
俺が一通り話終えると、ディックさんが顎に手をやり唸った。
「確かに、奴隷商はどこまでも強欲だ、私の存在だけではそこまで強い牽制にはならないかもしれない。彼女をここに閉じ込めておく訳にはいかないし、だからと言って四六時中付き人を張り付かせるにも無理がある。ファーニルにも付き人を用意すれば」
「待て、僕はそんなに弱くない。自分の身は自分で守る」
「相手には戦闘のプロもいる筈だ。それを複数同時に戦えるかい?」
ディックさんの問いにファーニルが口を噤んだ。
俺も厳しいと思うなあ。ファーニルの実力がどれ程のものかは知らないが、数の暴力はかなり厄介だ。多対一の喧嘩なんて、規格外の奴じゃなきゃ一方的なリンチに遭うだけだ。ファーニルはどうも、規格外なのは年齢詐欺な顔だけだし。俺の中での規格外といえばベロニカさんだけだ。
さて。未だにニヤニヤしながら黙って俺を見ているベロニカさんがとっても不気味なのはスルーして、行動に入ろうじゃないか。善は急げ!タイミングってのは大事よ!
「ディックさん、これから領主さんとこに婚約報告しに行こうよ」
「え?今から、かい?」
突拍子もない提案に吃驚したのはディックさんとフィリンちゃんだけで、ファーニルは顔を顰めるし、ベロニカさんは相変わらずニヤニヤ。……もしかして、また心の中でも読まれてんのか?
「そこまで読めないから何を仕出かすかってワクワクしてるんじゃない」
「でも、これくらいは読めちゃう訳ですね……」
てか、ワクワクしちゃってるんですね。なら、ノリノリで使われてくれないかな?これからベロニカさんのネームバリュー濫用予定だから。
「どういうつもりだ?何を考えてる」
突っ掛かってくるのはやっぱりファーニルで。俺の軽い態度が気に食わないのか、また睨まれている。
「ファーちゃん知ってる?この街の領主さんて、気のいいお祭り好きなおじ様なんだって。だから街の活気付けに力を入れてるし、定期的に何かにこじつけたようなお祭りが開かれんだってさ」
これは宿り木亭に来る常連客から得た情報だ。俺が田舎者だと知って、ケイブルグラムの情報を自慢気に教えてくる客がいる。その客がやたら力の入った演説をしていたのだ。この街の領主は祭り好きの愉快なオヤジだ、思い付きで祭りをやりたがるから街の住民は退屈しねぇし金回りも良くなるから喜んで騒がしく参加する、結局は住民もただの祭り好きが多いだけの話だがな、と。
「でも、ここ最近祭りやってないらしくて。そこに住民支持の高いディックさんの婚約報告。こりゃ住民とお祭り騒ぎしたくなるでしょ」
「確かに、祭りネタに悩んでいたのを知ってはいたが、そう上手くいくか?」
「あ、そこは俺に任せて欲しいな……って、俺、領主さんに会える?」
「魔女ベロニカが同行するなら問題ないだろう」
「いいわよ、付き合ってあげる」
許可頂きました!ベロニカさんがオッケーしてくれるんなら根拠なく上手くいく気がする。
一人密かにテンションを上げていると、またしても睨んでくるファーニル。何がそんなに気に入らないってのか。
「その行動になんの意味があると言うんだ。ただ悪戯に僕達の存在を暴露するだけじゃないか」
成る程。俺が何を考えてるかさっぱり分からないというわけね。そりゃそうだ、何も説明しないまま過程の話に入ったからな。
それじゃあ、説明しよう。
「ファーニルは知らないだろうけど、俺、この街の人っていい人多いと思うんだよねー。傭兵ギルドのおっちゃん達は度量があるし、商店の人達も余所者の俺をよく気に掛けてくれる。兵士さんも気取ってない、医者のおばちゃんが余所から来た孤児を無償で看病して孤児院が引き取るのも知ってる。根が優しいんだと思うんだ。だから、そんな街だから、ちゃんと二人を紹介して街に迎え入れれば皆気に掛けてくれると思う。街の皆が、二人を守ってくれるようになるんじゃないかなって」
俺はそう思った訳だけど、その為にはちゃんとしたお披露目の場が欲しい。婚約報告を祭りにするんなら、それ以上の場はないだろう。街中に二人の存在を広める事が出来るし、そこにベロニカさんの姿をちらつかせれば牽制にもなる。バックにベロニカさんがいると知っても手を出してきたらただの馬鹿だろうし。……俺に言われるなんて相当だぞ?
「……僕らはエルフだ、人間が相対するには面倒な種族だろう。そう上手くいくとは思えない」
俺の言葉に返ってきたのは、ファーニルの不安げな顔だった。俺はそれにムッとしてしまった。
「あんねファーニル、他にいい案があるんなら俺はそれに乗りたいけど、今はこれがいいんじゃないかと俺は思うわけよ。ただ手を拱いているだけじゃ何も変わらない。それにさ、皆が皆、ファーニルが思うような人間だなんて考えないでくんない?俺の料理の先生とか、店の常連客とか、門番のお兄さんとか、俺の知ってる人達はお前がエルフだとしても、それだけでお前を疎んだりする人じゃねーよ。それとも、お前は人間の俺もやっぱり信用出来ないって?」
ファーニルの不安は本人じゃないからそこまで分からない。分かりたいけど。でも、そんなに不安になられると動けなくなってしまうし、俺の知る人達も、俺も信用されてないみたいで腹が立つ。
別にファーニルの為にやってるなんて押し付けがましいことは思っていない。それどころか、これは俺の自己満足の為だ。でも、そうだとしても、短い間だが二人でどうするか話し合って作戦立てて行動してきたんだ。今更信用出来ないなんて言われたら、俺だって腹も立つ。
「ファーニルがやりたくないってんならこの提案はなしにしよう。んで、違う手を考えよ。でもさ」
固い表情のファーニルを真っ向から見る。ヘタレな癖に強がりたがる、たぶん人間を怖がっているファーニル。
でも、俺だって人間なんだ。俺に散々言っといて、それでも人間の俺が怖いって、信用出来ないって言うなら、多くの人間を仲間につけようとするこの提案は取り下げようと思う。けど。
「全員じゃなくていい。せめて、ここにいる人間だけはちゃんと信用出来るってんなら、この作戦、やる価値あると思わない?」
困っているエルフに、無償で手を差し伸べる人間もいる。それを知ったんだったら、もう少し人間を信用してくれたっていいじゃないか。俺が信用する人達のことも、信用してくれたっていいじゃないか。
ああ、柄にもなく説教臭いことを言ったが、言いたいことはちゃんと伝わっただろうか。ファーニルの顔を眺めても、それを推し量ることは出来ない。
しばらく沈黙が流れてやっと、口を閉ざしていたファーニルがしっかりと俺を見た。
「……お前のことは、信用している。二度も言わせるな」
その言葉に満足し、ニヤリと笑う。
ファーニルからの賛成を貰い、短い話し合いの結果、俺の提案はすぐに実行に移されることになった。
ファーニルに俺の名前を呼ばせる日は近い!




