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魔女ベロニカの無能な召し使い  作者: にやな
イサギとエルフの事情
21/27

ドキハラ初顔合わせです。

と!言うわけでやって参りました、マクライエン邸へ!


ちょっと冷や汗な俺を他所に、ベロニカさんは意気揚々と細かい彫刻の施されたドアを叩く。結局、ベロニカさんが来ることを誰にも知らせることなく今日を迎えてしまった。吃驚するかな、皆さん。


俺の時と同じようにキツい目付きのメイドさんがドアを開け、吃驚硬直している。そうだよね、ベロニカさん有名人らしいからね。ドア開けたら芸能人が片手あげて立ってるような感覚なのかな。


「これはベロニカ様。ここにはどういったご用件で?」


「うちのイサギが迷惑をかけたようだから。その謝罪ついでに少し手助けでも、とね」


「……こちらへ。旦那様をお呼びします」


昨日来た応接室に通され、今度はベロニカさんと出された紅茶を飲んだ。慣れない味を誤魔化すためにミルクと砂糖を大量投入したら、甘くなりすぎて喉がガサガサした。


「お待たせして申し訳ない、魔女ベロニカ」


きっちりスーツを着こなしたディックさんが、後ろにファーニルを連れて現れた。ファーニルは俺を睨み付けている。ベロニカさんを連れてきたことが気に食わないみたいだ。でもねぇ。


「そんなに睨んでもイマイチ迫力に欠けるのは童顔のせいだと思うから気にしても仕方ないと思うよ、ファーちゃん」


「気にしてない!なんで開口一番に侮辱されなきゃならなきんだ!」


ええ、侮辱だなんて。ただからかいつつ慰めてあげようとしただけなのに。


俺がファーニルと戯れている間に、ベロニカさんがスッと立ち上がってファーニルの前に立った。俺よりも背が低いファーニルだから、ベロニカさんを見上げて顔をしかめている。怯えてるんだと思う、たぶん。


「貴方のことはイサギから聞いているわ、エルフ・ファーニル。イサギに声を掛けるなんて、誉められる人選ではないけれど」


「あれベロニカさん。俺のこと誉めてくれてた気がしたのに、なんだかさらっとディスられた気が」


「とっても残念なことに、うちの召し使いはよく口が回る以外にはちょっと料理が作れるようになってきただけの凡人だから、頼るにはいろいろ不足過ぎるわね」


「そんなにいい笑顔でディスらないで!俺の硝子のハートにヒビが……!」


「硝子?冗談でしょ?ゴムがぴったりよ」


「ゴムのハート……なんか気持ち悪い」


ファーニルにダメ出ししてる筈じゃなかったっけ?矛先が完全に俺に向いてたけど。


「イサギの相手してたら話が進まないわ。取り敢えず、妹さんのところに行きましょう」


ベロニカさんに散々に言われ一人しくしくしている俺を置いて皆が移動し始めた。仕方ないので一番後ろをついていき、昨日と同じ2階の部屋に来た。

窓が開いていたためにドアを開いた瞬間、ふわりと風が通って前髪が目に入った。痛い。


「もしかして、貴女は魔女ベロニカでいらっしゃいますか?」


「そうよ初めまして、エルフ・フィリン」


軽く挨拶を済ませたベロニカさんは皆に座るように促した。俺もふかふかのソファーに腰掛けようとしたが、イサギは立ってなさいと後頭部を平手打ちされ、渋々ベロニカさんの横に立った。


「さて、早速本題だけど、事情はイサギから聞いてるわ。だから結論から言わせてもらうけれど、外したいなら早いとこ決着つけた方がいい。その首輪、かなりタチの悪い代物よ」


ベロニカさんが怖い顔をしている。一見、アクセサリーにも見えなくない首輪だが、ベロニカさんの目にはどうにも悪いものに見えているらしい。


「魔抗石が埋め込まれているのは、よく見る奴隷の首輪と同じだけれど、それには1度吸収した魔力を僅かに体に戻す機能がついてる」


「ベロニカさん、俺にも分かるような説明をお願いします」


「魔力が魔抗石に吸収されると、その魔力は魔抗石のものとして変質する。それが体に流されると体に異常をきたす筈。でもフィリンの体調に著しい変化は見られない。つまり、体が魔抗石の魔力がある状態に慣れつつあるということよ」


「慣れちゃダメなんですか?」


「長時間首輪をつけていると『首輪がない状態の方が異常』と体が判断してしまって、首輪をなくすと魔力の低下と虚弱体質になる可能性が高い。例えるなら、他人の血を輸血して体内に自分の血と他人の血が混ざって馴染んでいく。その状態から体内の他人の血だけを無理矢理抜こうとするようなものよ。そんなことすれば貧血になるでしょう?」


「成る程。頭のキレが悪い俺でも理解できました」


「わ、私はもう、首輪を外すと体調を崩すところまできてしまっているのですか……?」


フィリンちゃんが不安そうな顔をしている。そりゃそうだ。首輪とった途端に体調不良予告されてるんだもんな。学校で先生にスマホ没収されたとき、「スマホないので具合悪くなりました」って保健室行ったことあったな。あ、それと比べちゃいかんよね、すみません。


ベロニカさんがフィリンちゃんの首輪に触れた。繋ぎ目になっているところを指でなぞっている。


「……残念だけど、一生寝たきりの生活を送りたくなければ、これを外そうとするのは止めなさい」


「そ、そんな……」


「魔女!冗談言うな!たった3週間つけていただけで一生寝たきりだと?ふざけるな!」


泣き出しそうなフィリンちゃんを前に、ファーニルが怒鳴り声をあげた。俺も少し吃驚するくらい、ちゃんと迫力のある声だ。

対してベロニカさんは至極冷静に、少し冷めた目でファーニルを見た。


「3週間も、でしょう。その3週間、この子は微毒を飲み続けたようなもの。別に私の言葉を信じなくてもいいわよ。どうにか首輪を外すことが出来たとして、その瞬間フィリンがまともに呼吸が出来なくなったとしても私を責めないでちょうだいね。信じなかったのは貴方なのだから」


ベロニカさん怖い。ファーニルまで泣きそうだよ。


しかし、これで手詰まりか。

首輪を外せば奴隷商から逃れて村へ帰れるが、虚弱体質になる。首輪を外さなければ健康体でいられるが、奴隷商に監視され村へは帰れない。


ついに泣き出したフィリンちゃんをファーニルが抱き締め、それをディックさんが辛そうに見詰めている。ディックさんだってフィリンちゃんを助けようといろいろしてくれたんだ。こんなことになるとは思わないし、考えたくなかったろう。




でもなんでだろう。

俺の存在がアウェイなシリアスな空気に包まれている中、俺だけはイマイチそこまで手詰まり感を感じていない。

ぶっちゃけ、ベロニカさんならどうにか出来るんじゃないかと思っているし、そうでなくてもまだハッピーエンドになる手が残されている筈だ。それには俺以外の意思も必要になるけど、見ている限り賛同してくれそうな気がする。


「はいはいはい、皆さん辛気臭い顔はそこまでにしようか。俺からひとつ、提案があるんよ!」


さて、聞いてくだされ。

俺が考える、この先ハッピーエンドを迎えるためのシナリオを。



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