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魔女ベロニカの無能な召し使い  作者: にやな
イサギとエルフの事情
17/27

これが事実だったんです。

門の通過はバッチリだった。ファーニルには悪いけど、女の子ってことにしていた方が、あのおじさんは無茶なことしないのだ。大丈夫、髪も長いし綺麗な顔してるし俺より背低いから女の子でも通るよファーちゃん。

でもこれから問題起こしに行くんだから、騙しちゃったおじさんには後でちゃんと謝りに行こう。


さて。第一関門を無事突破すれば、後は真っ直ぐにマクライエン邸に向かうだけ。

柵付近は兵士が常駐しているが、内部の巡回は人数が少ないことを初回訪問で確認住み。それにこそこそするより堂々と歩いた方が、俺のイメージ的には自然だろう。後ろをついて歩くファーニルは黙ったまま。さっき俺が言った喋れない設定を律儀に守っているのだろう。俺がああ言ったのは、声で女ではないことがバレるからだ。おじさんが見ていないここなら別に話したっていいんだけど、まぁいいか。


マクライエン邸の前まで来るとファーニルには俺がフィリンちゃんを見た窓側に回る。そこで隠れて待機してもらい、俺が屋敷内の状況をある程度把握した後、ファーニルは風魔法を使って窓から浸入する手筈だ。今回は本来攻撃用の風魔法を自身の飛翔目的に使用するため、かなりの騒音が予想されるということで、ファーニルの浸入は周囲からしっかり人を遠ざけてから行うことにした。連絡はファーニルにかけてもらった念話の魔法でする。それで状況を伝えながら、俺は中にいる人たちを出来る限り誘導し、ファーニルに存在が気づかれないようにする。


俺の口先でどれだけ誤魔化せるか分からないが、ファーニルの存在を隠さなければ。俺は、屋敷中の注目を集められればそれでいい。


離れていくファーニルと頷き合い、意を決して玄関のドアを叩いた。ドアはすぐに開かれた。


「はい、どちら様でしょう?」


出てきたのは中年のメイドさんだった。身綺麗でちょっとキツそうな印象だ。


「こんにちは。ベロニカさんの召し使いで、イサギといいます。ベロニカさんから書状が届いていると思います、その件でお使いに来ました」


「魔女ベロニカから、書状……?」


「あれ?届いてませんか?」


「申し訳ございません。確認致しますので、どうぞ中でお待ちください」


「あ、はい。それじゃあ、お邪魔します」


しめしめ、堂々と浸入成功。ちなみに、書状なんて嘘っぱちでした、ごめんなさい。それと今回の作戦、ベロニカさんのネームバリューを乱用します、すみません。

知られたらベロニカさんに躾という名のセクハラされそうだけど、背に腹はかえられん。頑張れ、俺。


屋敷の中は映画で見るような欧風の造り。貴族のイメージだった金色なんてどこにもなく、ランプの台座がシルバーくらいなもので、ダークブラウンを基調としたシックな配色だった。

案内されたのは応接室で、ふわふわのソファーでメイドさんが帰ってくるのを待った。出された紅茶はベロニカさんの家のものとは別の香りがして、あまり好きにはなれなかった。


置時計の振り子の音を聞きながら緊張感なくボーッとしていると、応接室に誰かが入ってきた。振り向くと、きっちりとジャケットを着こなした若いお兄さんが入ってきた。雰囲気で分かる、彼が当主だ。


「すまない、待たせてしまったね。当主のディック・マクライエンだ、宜しく」


「宜しくお願いします」


「書状の件、メイド長から聞いたよ。どうやらこちらには届いていないようなんだが、うちに送ったのは確かかい?」


「あれ?そうなんですか。うーん、俺が行き先を聞き間違えたのか、それとも使い魔が届け先を間違えちゃったのか……?」


「使い魔が届け先を間違えることがあるのかい?」


「すみません人のせいにしようとしました、たぶん俺が行き先を間違えました」


「はは、正直者だなぁ」


爽やかな挨拶に握手。快活さを感じさせるハキハキとした話し方。

ただのパシリの俺にも嫌味のない同等の扱いをしてくれる。確かにこれは支持されるわ。


「うわぁ、すみません。間違えてお邪魔した上に紅茶までご馳走になっちゃいました」


「いや、そんなことは気にしないでくれ。それより、君と話がしてみたかったんだ。街では今、君の噂が飛び交っているだろう?少し話し相手になってくれないか?」


「え、でもそんな、大したこと」


「遠い南東の街から美味い焼き菓子を取り寄せてあるんだが、その紅茶と一緒だと絶品だぞ」


「喜んでお相手させて頂きます」


お菓子に釣られた訳じゃない。ほら、ここで当主を捕まえておかないと作戦がね。……断じてお菓子に釣られたんじゃないからな!

でも、当主は残念ながら俺が子供に思えたのか、くすくす笑っていらっしゃる。ちくしょう。


「すまないね、まるで若い頃の弟を見ているようだったから。今でこそクールに振る舞ってはいるが、あの子も小さい頃はそれは甘いものに目がなくて。よくお菓子で釣っていたよ」


「おお、弟さんと仲がいいんですね」


「他の貴族と違って後継ぎの争いはなかったんだ。弟は昔からひたすらやりたいことだけをやる、自由な奴だった。貴族でいさせるのが可哀想に思えるほど、いろんなことに興味を持っては挑戦していったよ。私もそれに感化されてしまってね、随分と視野が広がった気がする」


「なんだかまだ見ぬ弟さんに親近感を感じます」


「そうだろうとも。君は弟の若い頃に雰囲気が似ている。そして、君も私の知らないことを知っているだろう?どうなんだい、魔女に仕えるというのは。私は魔法なんて使えないからね、さぞ不思議なことがあったりするんじゃないかい?」


おお、当主の目に輝きが見えるようだ。


……俺だけだろうか?

話しているとどうも、この人が表裏を作って悪いことするようには思えない。

ただの勘だが、違う。フィリンちゃんの憂いの原因は、この人じゃない。


「……ディックさん、この屋敷にいるエルフは、フィリンちゃんですか?」


「……見たのかい?」


そもそも、隠すつもりなら窓のカーテンを開けておく方がおかしいのだ。監禁するなら、誰の目にもつかないような場所に閉じ込める。出られないように、助けが来ないように。

でも、フィリンちゃんは縛られていたか?手足を拘束されていたか?いつでも出られそうな窓を前にして、捕まったエルフが逃げない訳がない。

じゃあ何故、フィリンちゃんはあそこにいた?


「フィリンちゃんは捕まって売られた訳じゃなかったんですね。俺には、ディックさんがそんなことするような人に思えない」


「初対面で、まだ殆ど言葉を交わしていないというのに、そう思い込むのは少し危ないんじゃないかい?」


「だったらなんで、俺をこのままにしておくんです?書状の話も嘘だって気づいてますよね?それでも俺を引き留めたのは、俺がここに来た目的を知るためですか?」


矢継ぎ早な質問に、当主、ディックさんはため息を吐いた。


俺は勘違いしていた。フィリンちゃんがここにいたから、単純にこの屋敷に閉じ込められているんだと思った。ファーニルの話でそれもほぼ確定していた。でも間違っていた。


恐らく、フィリンちゃんは彼女自身の意思でここにいるんだ。


「……ファーニルが。フィリンちゃんの兄ちゃんが迎えに来てます。何かの理由でフィリンちゃんがここから出られないなら、教えてくれませんか?」


正直に話しても大丈夫だ、この人は俺の味方になってくれる。

俺の勘はよく当たるからな。


ディックさんはまた、深いため息を吐く。先程とは違い、真剣な目が俺を見つめた。


「確かに、上の部屋にいるのはエルフの女性。名前はフィリン。この間、私が奴隷商から買った」


「と、言うには随分と緩い監禁ですね。いや、軟禁、ですか。フィリンちゃんを奴隷として扱っていませんよね」


「彼女を買ったのは、エルフの奴隷が出回れば街が荒れると思ったからだ。エルフは少ないが故、個々の結び付きが強い。彼女を取り返しに街を襲われでもしたら取り返しのつかないことになり兼ねない。しかもそうなるとすれば、原因を作るのは貴族だ」


「他の貴族が買う前に、ディックさんが買って逃がしてあげようとした、とかですかね」


「その通りだ。……私は人を人として扱わない奴隷商を認めない。それに、彼女は怯えきっていた。それでも涙は流すまいと気丈に……私を睨んでいたよ。私も人だ、彼女の不幸にひどく同情したんだ」


フィリンちゃんを買うのにどれだけの大金を支払ったことだろう。ただそこから助け出すために、街の治安のために欲しくもない奴隷を買う。そういうことが出来る人なんだ。


さて、状況が一転したぞ。ファーニルに説明せねばな。




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