地味に遭遇しました。
情報は得た!取り敢えず、屋敷の主の情報までは。
後は最も重要な浸入方法なのだが。
釘を刺されてるベロニカさんに頼ることはできない。俺の中で最強の位置付けにあるベロニカさんが出てきたら、俺の今までの悩みも行動も無駄だったみたいに一瞬で方がつきそうだ。それはそれで空しい。
傭兵コンビも同じ。ザンガスさんはともかく、ビーキンさんに知られれば止められそうだ。上流階級の後ろ暗さに詳しいからこそ、俺が行くことを止めるだろうし。ザンガスさんは手伝ってくれそうだが、ザンガスさんに頼ったらビーキンさんにもバレて結果的に止められる。
最初から誰かを頼るつもりなんてなかったが、俺は無能なので出来ることが少ない。少ないけど出来ることはあるので、ここはひとつ、一人で頑張ってみるか。
そんなことを考えながら街を出て、ゼルさんとの待ち合わせ場所である丘を目指して歩く。
門を潜り歩くこと10分。稲波潔17歳、生まれて初めてストーキングされてます。
気づいたのはついさっき。一人悶々としながら歩いていると、後ろから足音。丘に向かって一直線の、明らかに道ではない草原を歩いているだけなのに、何故つけられてる?
てか、つけてくる人、気づかれてないと思ってんのかな。バレバレなんですけど。大体、木も疎らにしかない草原で、100メートル程しか距離をとらないで尾行するって、隠れる気ないでしょ。振り返られたら終わりじゃん。俺より馬鹿かな?俺に馬鹿って言われるのは結構な重症だと思うよ?
と、思いながらも相手の目的が思い付かない俺は、そのまま気づいて気づかぬふり。接触してくるのを待っている。このまま丘まで行けばゼルさんが待ってるだろうから、何かあっても助けてくれるだろうしね。俺のゼルさんに対する信用は相当なもんよ。
ここからじゃあまだゼルさんの姿は見えないが、後ろの気配が動いた。一気に距離を縮めてくる。あ、接触されるときのプラン、何も考えてなかったわ。
「……お前、魔女ベロニカの召し使いだろ?」
気づいたら真後ろにいたよ。囁かれたよ。どうしよう、これってどう返せば正解なの?違いますって言ったら口封じのためにフルボッコ?そうですって言っても目的のためにドナドナ?え、これどっちもバッドエンドじゃない?
「答えろ!お前は魔女ベロニカの召し使いだな!」
「そうですが何ですか!バレバレなへったくそな尾行してここでやっと接触って、ただのヘタレですか。勇気が出なくてここまでついてきちゃったヘタレさんですか!?」
どうにでもなれ!と振り向きながら叫ぶと、そこにいたのは俺とそう年の変わらない、ローブを羽織りフードを被った男だった。……イメージとだいぶ違う。
「そ、そうか。ならお前、魔法は使えるな?」
何この人。なんで俺が魔法使えると思っちゃってんの?ベロニカさんのとこにいると魔法使えて当然みたいなこと思われんのかな。しかし残念、俺は無能さ!
「使えませんよー。何でただのパシリが魔法使えにゃならんのか」
「は?使えないとでも言うのか?」
何信じられないみたいな顔しちゃってんのコイツ。殴りたい。この綺麗なお顔の少年おもいっきし殴りたい……!
「それ聞いて何がしたいか知らないけど、使えない俺に何を求めても無断だって。他を当たってくださいなー」
腹が立ったのでそれだけ言って立ち去ろうとすると、今度は肩を掴まれた。不機嫌さを顔に出して振り向くと、目をつり上げた少年が口をモゴモゴさせている。なんなんだ。呼び止めたならさっさと用件を言ってほしい。
「―――ってるか……?」
「はーい、聞こえませんよー?なに?」
「街で!……エルフの女を見なかったかと、聞いている」
覚悟したように訊いてきた少年。
おや?
おやおやおや?
「ちょいと失礼」
「っ!?何をする!」
不意をついて少年が被っていたフードを脱がすと、はらりと落ちた金色の長い髪。白い肌に緑色の瞳。そして、特徴的な尖った耳。
「あー。街を彷徨いてたエルフって、もしかしてあんただった?」
捕まったエルフの女性を探していたと思われる、街を彷徨くエルフの話。噂の人物の方からやってくるとは。
「僕は!……妹を探していただけだ」
……あれ?妹……?
「ちょーっと待って。……あんたさ、年いくつ?」
「なんでそんなことに」
「訊いてんのはこっち!で?」
ぐずぐず文句を垂れそうな言葉を遮って強引に訊く。少し迷うように視線を泳がせ、こちらを見た。
「……45だ」
「あかん。参考にならない」
そいやエルフは長命だって、ベロニカさん言ってたわ。
俺が気になったのは捕まったエルフ女性がもし、こいつの妹だとすると、こいつはどんだけ童顔なのかってこと。見るからに大人な色気のあったエルフのお姉さんが、妹?あのエルフのお姉さん、俺くらい身長ありそうだったけど、目の前のこいつは俺より小さい。
ねぇ、おかしくない?
「……で、お前は僕の妹を見たのか……?」
「いや、あんたの妹かどうか怪しすぎるんだけど、エルフのお姉さんなら確かに街の中で見た」
「本当か!?」
がっちり両肩を掴まれた。俺より僅かに低い位置から見上げる緑の瞳。言われてみればエルフのお姉さんに似ていないこともない。
「場所は!あいつは今どこにいる!?」
「待って待って落ち着いて。取り敢えず、名前教えてよ」
このままだとずっとあんた呼びになってしまう。俺より(若干)小さくて童顔でヘタレだが、一応年上だ。敬う気はこれっぽっちもないが、名前を知らないなら知らないでこの先不便だろう。
「ファーニルだ。綿毛の森のファーニル。妹の名はフィリン」
綿毛の森?可愛い名前だな。
「俺は潔。ファーニルは魔法使えんの?」
「使える。そんなことより、フィリンはどこにいたんだ!?」
お!これはいい出逢いをしたものだ。協力者候補1、確保。
「そう焦るなって。彼女は街の中央、上級区画にある貴族の屋敷にいた」
「そうか!情報提供、感謝する!」
それだけ言ってさっさと立ち去ろうとしたファーニルの肩を、今度は俺が掴んだ。
「だから焦るなってば。上級区画は柵で囲われてる上、兵士が常に見回りをしてる。貴族や関係者しか入れないそこに魔法使って上手く浸入したところで、追われて屋敷に辿り着くことすら出来ないかもしれないだろ?」
「それは……そうかもしれないが、だからって!」
よしよし。もしかしたら魔法で透明になれるとかだったら簡単に屋敷にも入れるだろうけど、そういった隠密行動が出来るような魔法は使えないらしい。
このヘタレ一人に任せてもバッドエンドが目に見える。ここまで来た以上、今さら丸投げするような薄情な真似はしたくない。
やるなら最後まで、出来るならハッピーエンドまでだ。
「俺が屋敷まで連れていってやるよ。でも、そこからはあんたの魔法を使ってどうにか上手く助け出すしかない。ちょいと作戦会議しなきゃな。取り敢えずあの丘まで歩きながら話そ」
「……見ず知らずの俺に何故そこまでする。目的はなんだ?」
丘を目指して歩き出したが、ファーニルは立ち止まったまま俺を睨む。ファーニルが疑うのも無理はないと思う。エルフという立場上、俺という人間相手には警戒しなければならないのだろう。
でも、俺はそんなの気にしない。気にするだけ無駄だと思う。
「あんたが俺を信用できないのは、まぁ分かる。信用しろとは言わないけどさ、俺はあんたを当てにしてるんだよ。フィリンちゃん、だっけ?は、一人でもあそこから逃がすつもりだったし。そこに動機もバッチリなあんたが現れたんだから、俺としては頼らない理由の方がない。目的はってんなら、フィリンちゃん助けて俺のこのモヤモヤをなくすこと。偶然と言ってもああいうの見て見ぬ振りをすることは、こんなことをするくらい、俺にとっては嫌なことなんだよ。罪悪感に悩まされるの、それくらい嫌なんだ。これでいい?俺馬鹿だから、これ以上上手く言えないんだけど」
罪悪感。これが今回俺が動くに至った原因であり、原動力。事実を知った自分が動けば彼女は救われるかもしれない。僅かな可能性を見出だしてしまったからこそ、見捨てることへの罪悪感に苛まれた。
俺は、俺の為に彼女のハッピーエンドが見たい。
「もうモヤモヤしたくねーの。だから手伝ってよ、ファーニル」
これはただの利害一致の協力だ。俺の気持ちは、俺がどうにかするしかないんだ。だから、ファーニルがいてくれると凄く助かる。
俺は無能だ。この世界のこともまだ全然分かっていなくて、魔女に仕えてるのに魔法の才能なくて、でもザンガスさんみたく剣を持って戦うことも出来ない。
「俺は魔法も使えないし、剣も持てない雑魚なんだ。それでも俺に出来ることはあるから、魔法使える奴がいてくれると助かる。俺のことは信じなくていいからさ、フィリンちゃん助けるまででいい、手組もうよ」
ここでファーニルと手を組めれば救出出来る可能性がグッと高くなる。
ファーニルは真っ直ぐに俺を見ていた視線を、悩ませるように下げた。
「……フィリンを迎えにいくまでだからな。人間は信用出来ない」
「それで充分」
返答に満足して再び歩き出そうとすると、俺の周辺に突然影が落ちた。晴れ上がった空を見上げると、何度も見る大きな翼のシルエット。
「ああっ!ファーニルが歩かないからゼルさん迎えに来てくれたじゃん!」
翼を大きくはためかせ、悠然と降り立ったゼルさんことゼルディオーネさん。ゼルさんはファーニルを一瞥し、何をしていたんだ、と言いたげに「グルル」と唸った。
「ごめん、ゼルさん。後でまたご馳走するから許してよ」
それを聞いたゼルさんは、ふんすと鼻を鳴らして呆れたようだった。まだゼルさんと会話は出来ないが、最近ゼルさんが何を考えているかなんとなく分かるようになってきた。ベロニカさん曰く、お互いを信頼出来るようになれば、ちゃんと会話が出来るようになるらしい。俺はそれを目標に何をするわけでもないが、頑張る。
俺はゼルさんとお喋りがしたいのだ。
「な、んで、こんなところに竜王種が……。しかも、蒼鱗、なんて。もしや、泉の……?」
ファーニルが何やらぶつぶつ言いながら顔を青くしている。そんなに怯えなくても、ゼルさんは何にもしないのに。寧ろ優しい男前だ。
「んじゃあファーニル。詳しいことは明日また話そ。明日の夕方、今度は丘の上で」
そう言ってゼルさんの手の中に入り、未だ固まるファーニルを置いて帰路についた。
リューオーシュって、何だろうな?
イサギは未だにゼルディオーネがベロニカの使い魔だと思ってます。いつ気づくことやら。




