第七話 『決意』
今回は少し長いです。
誤字が多いと思います。すみません。
「あ、あれれ?」
ボクはさっきと似たような空間にいた。
前世の知識だけど、こういう場合って目が覚めるんじゃなかったっけ。
とりあえず、周囲の様子を確認するために周りを見渡した。
さっきと同じような壁に囲まれた空間。
けど、広くて紅色の模様がない。
……当然だけど匂いはしなかった。
特に音も聴こえない。聞こえるのは自分の心臓と自分の呼吸の音だけ。
風も一切吹いていない。
手を広げてなにかないか探すけど、なにもないようだ。
地面は、固い。雨が降って固まったあとの地面のようだった。
ほかに確かめられることは――
スキル、くらいかな。どうやら先ほど習得したスキルがこの状況に関係してそうだし。
「【紅の加護】」
ボクは口に出して、言った。
しかし、なにも起こらなかった。
ボクは、待った。
そしてボクの体感だけど、一時間ほどが経ったときだった。
「紅の加護について説明するぞ」
彼の声が聞こえた。……一時間は待たせすぎじゃないかな。
まあこれ、録音みたいな感じだと思うから、声は届かないと思うんだけど。一応、批判をさせてもらおうか。
「一時間は待たせすぎじゃない?」
「なお、一時間という時間にもわけがあるんだ、待たせてすまない」
光の速さで返された。
ま、まあこの質問は誰だってするよね。しょうがない、我慢しよう。
「このスキルは、簡単にいうと、色々な行動に対して、補正がかかる」
ふむふむ。それで?
「それだけだ」
……え? そ、それだけですか?
「あと、決してチートになるわけじゃないから安心してくれ。お前はチートが嫌いみたいだからな」
えっと、ありがとうございます?
なんか、彼、何気にすごいことをしてるね。
「では、この人生を楽しんでくれ」
会話は一方的に終わった。
正直、この空間が創られた意味が分からない。
わざわざ説明する程度のスキルではないようだし、遺言があるわけでもなかった。
まあ、これはいたずら程度だったのだろう。そう思っていないと怒ってしましそうだしね。
うっ。イライラするなあ。
どうせまた一時間とか待たされるんだろうな。
あ~。次会ったらボッコボコにしてやる。
そんなことを思い、時間が過ぎるのを待った。
しかし、三十分経っても現実には戻らない。
……ま、まあ一時間経ったら戻るよね。
この空間なんか不気味で正直怖いんだよね。
カタッ
どこかから物音が聞こえた。
「えっ」
おもわず悲鳴が上がりそうだったけど、なんとかこらえた。
こ、この空間にはボク以外誰もいないはずなのに。
「誰だ?」
ボクは辺りを警戒しながら言った。
素早く周囲を見渡す。
が、先ほどと同じで、周囲にはなにもなかった。
ポタッ
「ひゃあっ!」
ボクの首に水滴が垂れた。
あ。これ、絶対紅さんの仕業だよね。
「殺されたいのかな。紅さんは」
少し声を張り上げて言った。
これだけだと彼は調子に乗りそうだな。
はあ。彼はまじめな人だと思ってたんだけど。
本当に、残念だったな。
助かる命も助からない。
「コロシマスヨ」
あっ、やばい。ボクの本音がでちゃった。
お、落ち着くんだ、ボク。
自分で言うのもなんだけど、この時のボクって怖いんだよね。
なんか……目から光が消えてて。更に目元が暗くなってて。あんまり自覚はないんだけど。
これはミースに訊いた話だから、信用性はない。
あ。何かがおさまった。
というか、彼。まだくたばってないのかな。
さっき死んだはずじゃなかった?
……まさか彼が神なんてことは。いや、ないか。
世の中そんなご都合主義じゃない、よね?
いやいや、二回もあんな紅のことを考える必要はないよ、ボク。
それにしても、変な仕掛けが収まってよかった。
ボク、怖がりだからああいうの苦手なんだよね。
だから仕掛けを壊すことに思考が向いちゃって大変なことになるんだよなあ。
正直今回は原因の人物を壊しに行くとこだったよ。
おっと、思考が危ない方にいってる。
……でもあいつ蹴り飛ばしたいな。本気で。
けどやつ、もうくたばってるはずなんだよなあ。そんな気が一切しないけど。
と、いうか。
「さっさと戻せよ」
声に出てしまったけど、これが今のボクの本心だ。
あ~、さっさとミースとザイクに会いたいな。
そして大体五分が経った、という時だった。
「すみませんでした。うちのバカが」
「へ?」
思わずマヌケな声を出してしまった。
ボクはどこかから聞こえてきたその声を不思議に思ったが、急に謎の眠気に襲われた。
何なんだよ……これ、は。
ボクは眠気に負けてしまい、その場に倒れた。
謎の声の正体を暴けないまま。
ウィ――だ――な――か!?
だ――じょ――あ――し――て。
「んっ」
お――か!?
おち――て――ミース。
「んっ……ん?」
「起きたか、ウィズ!? どこか痛んだりはしないか!?」
……ミース? どうやらボクは今、ミースの部屋にいるようだ。
なぜ? どうして?
さまざまな疑問が頭の中を駆け巡る。
しかし、今はボクがこの状況を整理して訊くより、ミースの質問に答えるしか選択肢はなさそうだ。
ボクは回らない舌を何とか回転させながら、言った。
「だい、じょうぶ、だよ。しんぱい、しないで」
舌っ足らずのぶりっ子のような口調になってしまったが、なんとか言いたいことは言えた。
そんなボクの様子を見て、落ち着いたのか、ミースは涙目になりながら言った。
「よかった」
と。
ミースがどのような思いでボクのことを心配していたかは、ボクにはわからない。
でも、どこまでも素直に、純粋な思いでボクを心配してくれたのはわかる。
その事実は嬉しかった。やっぱり前世でも今世でも友人という存在は大事だね。
「ど、どうしたんだ? 私はなにか面白いことをしたのか?」
ボクが笑っているのを見て、ミースはボクに顔を近づけて訊いた。
ボクはそんなミースに軽くほほ笑んで話を逸らした。
ボクからの返答がなかったのでミースはさらに顔をボクに近づけてきた。
「か、お。ち、かい、って」
今、ミースの顔はボクが少し首を動かしただけで触れてしまう位置にある。
嬉しい気持ちや下心もあるが、今そのような事態になってしまうと困るのでボクはミースにそう伝えた。
「ん? あ、ああ。すまない。私も動揺していてな」
ミースはボクに言われて落ち着いたのか、顔を軽く赤らめながらボクから顔を離した。
そのミースの表情にボクは心を奪われた。
しばしミースの顔を見つめた後、ボクは自分の前世について語ることを決めた。
「ザイク、は?」
容体が安定してきたのか先ほどと比べ、流暢に話せるようになった。
ボクは事実をまとめて語るために、周囲に見当たらないザイクを呼んでもらうことにした。
「少し待っていてくれ。今呼んでくる」
ボクがザイクを呼ぶ理由に疑問を持ちながらも、ミースはザイクを呼びに行ってくれた。
つかの間の休憩時間だ。
そういえば、ボクが目覚めたあとすぐに部屋を後にした白衣の人物は誰なのだろうか。
あ。ミースのお父さんかな。ここはミースの家だし、お父さんが確か医者をやっていたなあ。
浮かんだ疑問に答えを出したボクは、深呼吸をしてミースが来るのを待つ。
これから話すことは下手したら二人に引かれてしまうような話だ。……いや、あの二人ならきっとボクを受け入れてくれると思う。
ボクはあの二人を信頼している。
だからボクは事実をそのまま話そう。
ボクが目をつむり、話す内容の順序を考えていると、足音が耳に入った。
ガラッ。
そんな音とともに入ってきたのは、いつも通り眉が下がっているザイクと先ほどと全く変わっていないミースだった。
「だ、大丈夫?」
心配そうに訊くザイクにボクは笑って、言った。
「大丈夫、だよ」
ボクの言葉にザイクは、良かった、とつぶやきながら少しだけ笑った。
二人が心配していたことが解決して安心しているのを確認したボクは、話し始めた。
「これから、ボクの前世について話をするよ。重要な話だからしっかり聴いてくれると嬉しいかな」
「え、え?」
「前世、か。ウィズ、お前……」
二人があっけにとられて言葉も出なくなる、という展開は起こらなかったようだ。
ザイクの戸惑いぶりにボクは心の中でこっそり笑った。
対するミースは何かに察したようで、先ほどとは違う心配の目をボクに向けている。
「まず、ボクは地球という惑星の日本という国に住んでいた」
ちゃんと意味が伝わっているかが心配だけど二人が必死で頭を働かせてくれているから大丈夫だろう。
惑星、という概念がこちらの世界にあるかはわからないけど、言ってみないと何もわからない。
「日本、という国にはスキルがない。そしてモンスターもいないんだ」
「スキルがない? ではどうやって暮らしていたんだ?」
この世界の一般常識では当たり前のことがない国日本。
ミースはそんな国に対して当然だが疑問を持ったようだった。
まあ、ボクも同じ立場だったら同じようなことを思うはずだ。
「当たり前」がない、ということは下手をしたら生きてはいけないということだ。
「科学、という分野があったんだ。科学というのは何かを創りだしたり、既存のものを便利にする技術の名称だよ」
「べ、便利そうな分野だね?」
「確かに便利だったよ。けど、スキルではできることができない、というのが大体だからどっちが便利とは決めれないかな」
地球にいたころの平凡な記憶を思い出しながら、話を続ける。
「そんな平和な世界でボクは暮らしていたんだ。そしてボクは、とある狂人にとらわれた。実はこの国では法律という制度があってね、それによって制限される行動があるんだ」
「たとえば?」
ミースは合いの手がうまいな。話が進むと気分もよくなるものだね。これぞ会話、だね。
「人を殺す、とかね」
「え、え? 人を殺してはダメなの? ば、蛮族とかはどうするの?」
「蛮族は日本にはいなかったんだ。だから自分に危機が迫っているとき以外は人を殺しては駄目だったんだ」
訊いた限りでは理想のような幸せな国の話を聴いて、二人は羨みの目をボクに向けた。
「ただ、その法律を破る人もいたんだ。ボクをさらった狂人はその一人だった。そしてボクはソイツに無理やり人殺しをさせられた」
「人殺しは駄目なのでは?」
ミースの疑問にボクは口早に答える。
「人殺しをしたら死ぬわけではないからね。法律はあくまで口約束のようなものなんだ。ただ、人を殺したのがばれてしまうと、人殺しをした人は捕まる。あ、捕まるというのは拘束されるわけではなくて、長期間同じ場所に監禁して改心させるということだよ」
「こ、殺さないの?」
見るからに臆病な青年が殺すなんて物騒な単語を発すると日本人としては畏怖の対象でしかないかもね。
「改心しなかったり、ひどい方法でたくさん人を殺したら死刑になって殺される場合もあるよ。ただ、日本でそんなことはめったになかったけどね」
「ほう。考えた人物は頭がまわるな」
ボクは話がかなりそれていることに気付き、再び話を本題に戻した。
「話を戻すね。ボクは狂人に殺人を強制させられ、精神を病んだりもした。とても平和な国だったからね。血とは縁がなかったんだ」
ボクの言葉に険しい表情を浮かべるミース。どうやら正義感の強い彼女にとってはこの話は嫌悪するものだったらしい。
「ヤツは怖かったね。常に返り血で汚れていたし。ま、そしてボクは犯行がばれて捕まったんだ」
「お、檻に入れられたの?」
ザイクの言葉にボクは首を縦に振って答える。
「それでボクは……えっと、冤罪ってわかる?」
冤罪、という言葉は確かなかった気がする。
そもそも裁判という制度がないのだ。
だからこの単語は伝わらないと思ったんだけどな。いや、待てよ。冤罪は、簡単に言うと事実を認められないということだから、やっぱり伝わるかな。
「えっと、事実誤認が起こるということで合っているか?」
ミースは少し考えてから、ボクに訊いた。ミースは博識だからね、流石だなあ。
そしてザイクの方も首を縦に振っているので、意味は通じているようだ。
「あってるよ」
ボクは話が伝わっていることを確認したので、続けて言った。
「そしてボクは冤罪で殺されたんだ」
その言葉に一瞬戸惑いを見せた二人だったが、時間が経つにつれて意味を理解したのか、悲しげな眼でボクを見た後ミースは言った。
「大丈夫、ウィズ。私たちには今があるじゃないか」
その言葉は決して名言ではないだろう。ただ、たとえこれがどんな言葉であれ、ミースの想いが詰まっていることは理解できた。
ただ、このちょっとした感動を壊さないように気を使ってくれているザイクが目に入って、気になってしまう自分も結構気を使うんだな、と思った。
ボクの視線に気づいたのか、ザイクは深呼吸をし、一呼吸してから言った。
「と、とにかく、こ、これからだよね!」
思わずグッと来てしまった。二人が予想以上にボクを信頼してくれていたのは、感情の波が強くないボクでも涙が出てしまいそうだった。
その事実がとても嬉しかった。