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第六話 『遺書』

「起きてくれ」


 何かの声につられ、ボクは目を開いた。


 見渡す限りの白と赤の壁。いや、紅と表現した方が適切かもしれないね。

 もう一度、四方を見回すと、ボクは白と紅が混ざっている壁に囲まれていたことに気付いた。

 軽く頭が痛むのを気にしながら、ボクは足に力を込めて立ち上がった。

 さっきの相手は。と思って辺りを見回すと そこには、紅い髪を腰辺りまで伸ばしている、男の人がいた。

 ……ん? 男の人?

 誰だ?


「悪かったな」


 彼は突然、頭を下げてボクに向けて謝った。

 えっと。


「失礼ですが、どなたですか?」


 ボクは丁寧な口調で彼に尋ねた。


「先ほどのことを覚えていないのか?」


 先ほどの、こと……? ……う~ん。駄目だ、思い出せな……っ!?

 あっ!


「あなたでしたか。えっと……紅さん」


 ボクは彼のこと、そして、先ほどのことを思い出した。

 すると何故か、彼は顔を歪めて、こう言った。


「紅さんはやめてくれ」


 彼があまりにも嫌そうだったので、少し、反省しながらも言い訳をした。


「すみませんね、変な名前をつけて。でも、あなたをブラッディドラゴン、とかヤツ、って呼ぶわけにはいかないので」


 彼はきっと、紅龍(ブラッディドラゴン)なのだと思う。

 彼はボクの説得力ある言葉にため息をつきながらも、言った。


「それより、悪かったな」


 うん……? あぁ、多分さっきのことかな。

 ボクは彼の罪悪感を取り払うように、笑顔で言った。


「憑かれてたならしょうがないですよ」


 これはボクの勝手な予想だ。彼は、正気を失っていて、なにかに意識を乗っ取られていたのではないのか。

 そう考えていたボクは、カマをかける意味でも言った。


「お前の推測通り、俺はよくわからん奴に憑りつかれてた。すまない」


 彼はボクの問いに、とても素直に答えてくれた。

 それでも謝る彼を見ているのはそろそろ忍びなくなってきたので、ボクは話題を変えることにした。


「そういえば……なんでボクはここに?」


 単純な疑問だ。

 ボクは倒れたはずなのに。

 うん、いい話題転換だ。

 ボクが言うと、彼は思い出したようにボクを見て、言った。


「ああ。それなんだが、俺が死ぬ直前に【遺書】っていうスキルを発動させてお前をこの空間に呼び寄せたんだ」


 え。……あ。アレかな。

 遺書ってことは彼はもう……いや、やめておこうか。


「そうなんですか」


 ボクは関心を高め、うなずきながら返事をした。

 なるほど。つまりこれはボクと同じ存在の方からありがたいお話を聴けるのかな。


「そんなことより、お前、良い前世だったな」


 彼はボクの前世をわかっていながらも、のんきに言った。

 前世、か。


「……アレ(・・)のどこが良い前世なんですか」


 ボクは苦笑しながら言った。

 本当にそう思う。


「……さっきのは冗談だ。大変だったな、お前」


 彼は軽く手を合わせてから、ボクを気遣うように言った。


「同情はお断りですよ」


 ボクはそれに対して、軽く答えた。

 ……まあ、前世じゃ災難だったとは思うけどね。


「冤罪で死刑、って。嫌でも同情するがな」


 そう、前世のボクは、殺されたのだ。

 冤罪で。

 凶悪な殺人鬼が日本を地獄絵図にしている中、ボクは、たまたま(・・・・)その殺人鬼に捕まってしまった。

 そして、殺人現場に連れて行かれ、ボクに人を殺させた。

 とは言っても、ボクは殺していない。

 ヤツ(殺人鬼)が事前に被害者に薬を盛っておき、薬の効果が表れるころに、路地裏に誘い、ボクと相対させ、ボクが殺したかのように見せかけたのだ。

 それを、何度も繰り返した。

 ボクは、そのたびに吐いた。

 目の前で人が吐血して死んでいく光景を繰り返し見れば、誰だってそうなると思う。

 死ぬ寸前。ボクを睨みつけながら死んでいく人。誰かになにかを伝えようとして死んだ人。悲鳴を上げ、絶望の中で死んだ人。

 なぜ、警察に見つからないのか。なぜ、通報されないのか。

 血だらけになりながらボクは思っていた。


 ボクは、死ぬ気で、ヤツと戦った。

 なんとかヤツの目をかいくぐり、報復のための作戦を整えた。そして、ボクの通報により、ボクはヤツとともに捕まった。

 この時、初めて警察に感謝した。

 取り調べではボクの言葉を真っ向から否定してきたけど。

 ボクには、何故かしら裁判で死刑の判決がでた。

 当然ヤツもだ。

 ヤツを見て、ボクはざまあみろ、と口パクで言った。

 とりあえず、ヤツさえ殺せればよかった。

 ヤツはボクを殺そうと、様々な手段で罠を仕掛けてきた。

 しかし、ボクはヤツの行動をすべて読んで、すべて回避した。


 ボクは、ヤツを追い払った後、泣いた。そして、遺書を書くことにした。

 仲がよかった友人や、家族に向けて。

 刑事さんに必死で頼んだ。

 彼は、了承してくれた。

 実は彼は、ボクが冤罪だと知っているのだ。


 しかし、様々な事情により、ボクの冤罪は証明できなかった。


「それにしても、すごいな、お前は」


 彼がボクを眩しそうに見ながら、つぶやいた。

 それは、ボクのとった行動に対してだった。


 唐突だが、ボクは人間にとって一番相手に印象を与えるための方法は、遺書だと思う。

 だから、ボクは遺書を書くことにしたのだ。

 それに、ニュース特集でなんども報道されている殺人鬼二人、中の一人が遺書を書いたなんてのはお茶の間を騒がせることになるだろう。

 警察がどこまで情報を消そうとも、一度流れた噂は消えはしない。

 ボクに冤罪をかけた奴らに立派な報復(復讐)ができるだろう。


 と、いうことで、ボクは親友、または悪友。そして両親にメッセージを書いて、この事件の真相もこっそり書き、刑事さんに遺書を届けてもらうことを頼んだ。

 真相をあかすかどうか、というのは彼らに任せることにした。

 あと、謝罪も書いておいた。

 ボクのせいで母校にはマスコミが押し寄せ、彼らの生活も大変なことになっているそうだ。

 ……まあ、彼らは前世のボクを信じてくれていたようだけど。

 うれしかったな。


 そして、遺書を刑事さんに渡した次の日。

 ボクはヤツとともに殺された。


 その時、ボクは憎悪の瞳を向けていたヤツに言ったんだ。

 ざまあみろ、てね。



 そして、今に至るというわけだ。

 一応、転生、ということになるのかな。

 まあ、神様なんて言う高尚な存在にはあってないから、本当かどうかはわからないけど。


「で、前世がトラウマとなって、血を操るスキルが使えない、というわけか」


 そう、ボクは血を操れない。

 前世で大量の流血シーンを見てしまったのが、トラウマとなっているのだ。


「血関係のスキル、といったら血を操ることを連想しますけどね、普通」


 ボクは軽く肩をすくめながら言った。


「まあ、残念だったな、とだけ伝えさせてもらう」


 彼は、ボクを慰めてくれた。

 昔のことなのにね。


「今のボクにはあまり関係がないので。気にしてませんよ」


 確かに残念だったけど、あまり気にしていない。

 これには理由がある。

 それは――


「だって、これからはほのぼのとした生活ができますからね」


 今のボクは、戦闘をするつもりはない。

 よくあるチートを持っていないし、なにより戦うことに疲れたのだ。

 だから、ボクは自衛のためにしかスキルを使わないことにする。

 といってもこの世界で生活するためにスキルを使用することはあるが。

 友達を守るためにもスキルは使う。


「前世の分も楽しんでくれ。まあ、俺が言うことではないがな」


「いやいや。ありがとうございます」


 ……やっぱりいい人だったね。


「じゃあ俺はそろそろ退散するかな」


「え? ……もうお別れですか?」


「ああ。もともとは死んだ身だしな」


 彼は、言い切った。

 そして、ボクにあることを伝えた。


「え!? そ、それって……」


「よく覚えておけ。じゃあな、短い間だったが楽しかったぞ」


 彼は口の端を上げて言った。


「く、詳しく教えてくださいっ!」


 彼の身体が段々透けていく。

 すまないな、と口が動いてるのはわかった。

 けど――


『楽しんでくれ』


 ボクは、彼に笑みを向けた。

 彼は、笑ってくれた。

 そして、彼は消えていった。


 ――不思議な人だったな。

 なんか、神様っぽかったし。

 前世じゃ偉い人だったりね。……まさか、ないよね。

 いや、もういない人のことを考えるのはやめよう。

 ボクは気持ちを切り替え、深く、息を吸い込み、ゆっくり吐いた。


「よしっ」


 ボクが気持ちを改めた、その瞬間だった。


「スキル【紅の加護】を習得しました」


 えっ。紅の……加護?

 頭の中に聞こえた機械的な声にボクは混乱した。


 そんなボクの心情とは反対に、視界が白に染まっていく。

 まわりの壁が崩れていく。

 ボクの足場がなくなっていく。


 ……あれ。ボク、この空間から抜け出せないんだけど。


 視界が光で染まっていく。

 ああ。これで眼が覚めるのかな。


 

 ボクは気を失った。


 


 そして目が覚めたのは、まっさらな、先ほどと同じ白い空間だった。

予想を壊す斬新な展開を。実現はつらいようです。


もうすぐテスト週間なので、来週の投稿はお休みさせていただきます。

多分、再来週も無理かと。すみません。


追記。どうでもいいですが、ちょうど初回掲載日から二か月目でした。

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