第四話 『決断』
「は、速い……!」
ししょーの後を追って走っているザイクは言った。
でも、これはまだ本気じゃないからね。ししょーが本気を出したら、常人ではついていけなくなる。
「私は先に行きます。ウィズ、ついてきなさい」
「えっ?」
思わず、ボクは師匠の言葉にマヌケな表情で返してしまった。ついていく……と言っても確実に追いつかないと思うけど。
「私がおぶりますよ」
ボクの疑問を見抜き、ししょーは何故か息を荒くしながら言った。嫌な予感しかしないんだけど。
できるだけこの展開を壊す方法はないかあがこう。
「ザイクとミースは、どうするのです?」
「後から来てもらいます」
あ。これは無理だ、刃向ったらやられる。おとなしく妥協しておこう。
「わかりました」
ボクの言葉を聞いた二人は心配そうにボクを見つめていた。
ごめん、ししょーには絶対に勝てないよ。
「ごめん。先に行ってくるね。できるだけすぐ追いついてきてね」
ふぅ。ボクもまだまだ弱いなぁ。
けど、少なくともこれがベターな選択だね。長く考えれば考えるほどチャンスはなくなっていくしね。今はこのまま進もう。
「頼む、ウィズ。頑張ってくれ」
「ファ、ファイト!」
ボクの勝手とも捉えられる行動にも二人は温かい応援の言葉をかけてくれた。ありがたいね。
少し、元気が出てきた。頑張ろう。
「行ってきますっ!」
ボクが元気よく言い、ししょーの背中におぶさった瞬間、視界が急速に変化しはじめた。
めまぐるしく変わる風景に少し混乱するが、ボクは無理やり心を落ち着かせて状況の整理をはじめた。
まず、ボクはししょーの背中に乗っている。そしてししょーはボクを背負いながら走っている。
ししょーの身体能力は尋常でないほど高いので、ただ駆けていてもボクの身体は尋常でない痛みに襲われていた。
ボクの着ている皮で作られた防具が壊れてしまいそうなほどであった。
ふと、身体の痛みが治まったので、ボクが視線を上げると、前方に紅龍がいた。
そしてそれと同時に紅龍と戦う学園都市の教師や強者、かなり離れて、学園の上級生徒がいた。
「では、やることはわかりますね? 私は前線に行ってきます。では、私の可愛い可愛いウィズ。また、あとで」
「は、はい」
ししょーの言葉に何とか反応し、去ったのを確認すると、ボクは目を閉じた。
そして数回。深呼吸をして、呼吸を整えた。
大丈夫、ボク。
あの日みたいなことはもう、繰り返さない。
グルアアァァァァッッッッッ!!!
「【タイガー・クロー】!!」
よし、落ち着いてきた。
どうやら、虎マスクも戦闘に参加しているようだ。
確か彼女は特別強いから、非常時の戦闘は許可されてる、だったんだよね。
「【血液循環】」
血液循環。それは、体内の血のめぐりを良くして、血を温め、血液の不純物を少なくし、血の質をあげるスキルだ。よし、次。
「【血の休養】」
血の休養は、体内の血液を一時的に増やすスキルだ。ただし、あとで貧血になる。一種のドーピングだからね。
まずは、この二つだけで問題はない。
あと、軽くおまじないをかけてっと。
まずは、遠距離からの攻撃かな。
いや、その前に、紅龍の特徴を確認しておこうかな。
まず、龍はこの大陸で一番強い種族だ。そしてその中でも、紅龍は強い龍だ。
実は、ヤツは、元々はただの龍だ。
けど、ヤツはその身体を血に染めている。
その血は喰らってきた生物の返り血でもあり、自分の血でもある。
そして、ある程度血がつくと、鱗の色も血の色となる。
つまり、弱肉強食を勝ち抜いてきた、龍の中のエリートなのだ。
ま、弱いはずがないよね。
ボクが出来ることはせいぜい、目潰しや、翼を傷つけるくらいかな。
タイミングを外さないようにしないと。
「【血塗れの狙撃手】」
決死の覚悟で行こう。
何より……ボクは出血では死なないからね。
使える命は使おうか。
ボクは弓を引き絞り、かなり遠くにいるヤツに向けて、放った。
斜め上に撃った矢は、ヤツの右翼に命中した。
しかし、威力が足りなかったのか、ヤツは何一つ動じなかった。
それどころか、ヤツはこちらに火の塊を飛ばしてきた。
「【命の壁】!」
「快復隊、ルフエル・ミース、障壁を発動させるっ!! 【削除】っ!」
「守護部隊、行きます! 【反射】【障壁】」
早くも追いついてきた親友たちの障壁と、守護部隊が張ってくれた障壁のおかげでなんとか、ヤツの攻撃を防げた。
けど、守護部隊の【反射】ですら、ヤツの攻撃は跳ね返せなかった。
そのことに軽く恐怖を感じると共に、守護部隊のすごさを実感し、ボクは守護部隊の方々にお礼を言って、微笑んだ。
「ありがとうございます。助かりました」
少し大きな声で守護部隊の方々にお礼を言い、微笑むと、軽く頬を赤らめた人が数人。
いや~、お礼はしないと、ね?
ま、確信犯だけどね。
ふふっ。少し、だけどボクにも余裕が出てきたね。
あー。守護部隊の一部の方、顔が少し赤いですよ、って言いたくなるけど自重しようか。
「精神的にも大丈夫か?」
ボクを心配そうに見て、聴くミースにボクは軽くほほ笑んで言った。
「もう、吹っ切れたよ」
もう、決めたことだからね。
「じゃ、じゃあ……行く?」
ザイクはそう提案してきた。
「うん。行こうか」
ボクは即答した。
そしてボクたちは、ヤツに近づいていった。
さっきの位置より、二、三百メートルほど離れたところに来たボクたちは、最前線での激しい戦闘に、目を奪われていた。
「あ、あれは……虎マスク、か?」
ミースは最前線にいる虎マスクを見てつぶやいた。
虎マスクが使っている【タイガー・クロー】というスキルは、彼女が被っている仮面に付与されている「WS」だ。
この他にも、仮面にはスキルがついている。
これだけ聞くとあの仮面がよさそうに見えるかもしれないけど、あの仮面には「被ったらある程度取れない」というデメリットがあるのだ。
仮面が脱げないということは、視界が狭まる、少しの圧迫感がある、という負担がかかる、ということでもある。
彼女はこのデメリットを背負って戦っている。
このことを知っているからこそ、ミースは驚いているのだろう。
たとえ、このことを前から知っていたとしても。
「お、俺たちも頑張らないと」
視線をヤツに向け、ザイクは言った。
「うん。……あのさ」
ボクはそう言い、二人の反応をうかがった。
「どうした?」
「な、なに?」
二人がこちらを向いたのを確認し、ボクは話し始めた。
急な話でもしっかりと耳をたててくれる、ありがたいね。
「ヤツは、ボクと同じか似た存在だと思う。だからこそ、ボクはヤツに狙われる」
少し早口に、そう言った。
正直、自分でもあまり意味がわからない。でも、ボクの頭の中が言え、って思っているんだ。言わないと、後悔する、ともね。
「え!? ど、どういうことだ……?」
ボクの突然の告白に、ミースは戸惑っている。
そりゃあそうだ。自分でもわからないことは、他人にもわからない。
「ボクの頭の中の知識では、『紅は紅を喰らうことで力を得る』という言い伝え? が昔からあるそうなんだ。この言い伝えが正しいなら、ボクはヤツに狙われる、ということ、なのかな」
ボクの言葉に混乱しながらも、二人は理解しようと頭をフル稼働させている。
「じゃ、じゃあ。ヤ、ヤツは強くなるために紅を殺そうとしている。って、こ、ことなの?」
状況をいち早く整理したザイクは言った。
「うん。なぜボクが紅なのかは分からないけど、多分、ボクは『血』のスキルをたくさん持っているから、紅にカウントされる、のかな」
これは急にボクの頭の中で浮かんできたことなので、ボクにも詳細はわからない。
けど、ヤツと戦うのにこの知識は必要になるのだと思う。
「では、とりあえずウィズを守ればいいのか?」
ミースは言った。
「う~ん。ボクは囮になってもいいけどね」
ボクは軽い思いで言った。
「ダ、ダメだよっ!?」
その言葉を強く否定するザイク。
……だよね。
「ま、それは冗談としておいて、ボクは周りに人がいないところに移動して、ヤツをおびきだすよ。ミースはこの事を最前線にいるししょーや虎マスクさんに伝えてほしい。危険だと思うけど、これはミースしかできない仕事だから、ね……お願いします」
ボクが安全にヤツをおびきだすには、ザイクの守備が絶対的に必要になる。
ミースには怪我をさせたくないしね。
傷付くのはボクたちだけで充分だ。
「――分かった。絶対に怪我をするなよ」
そう言い残して、ミースは最前線にと駆けていった。
「ごめんね、ザイク。巻き込んじゃって」
「ぜ、全然大丈夫だよ!」
ザイクは優しいなぁ。
うん、良い友達を持ったね。
じゃあ、なおさら死ぬ訳にはいかないね。
ボクたちは学園都市でも、人が少ないが、見晴らしのいい「丘」に向かうため、全力で走り始めた。
文体おかしくてすみません。
少しずつ改稿していきます。