第三話 『戦闘準備』
全話三点リーダーなどを修正しました。
「どうする?」
ボクは焦る気持ちを抑えて冷静に訊いた。
「そんなの戦うにきまっているだろう」
ミースは眼を細め、険しそうに言った。見た目と釣り合わないオーラが彼女から滲み出ているのがわかる。
その瞳は、自分たちの旅立ちを妨害した存在に怒りを向けていた。
「今回ばかりは、俺も賛成だよ。学園都市にいる俺の友人たちは、誰一人として殺させねえ」
昔を思い出させる口調ではきはきと、そして強い意志を持ってザイクは言った。この時のザイクは相当感情がこもっていて、友人であるボクにとっても彼が怖かった。
二人がしっかりと決意しているのを見て、ボクはヤツと戦う覚悟を決めた。
今すぐにでもヤツに近づき、攻撃を仕掛けたい気分だ。でもボクたちの戦力では到底ヤツにかなわない。
どうする、どうすればいい。考えるんだ、ボク。
『クールに行きましょう、クールに』
ふと、師匠が言っていたことを思い出した。よし、落ち着くんだ、ボク。焦って何もいいことはない。
まず、武器をミースに渡そう。ザイクは自分で持てるからいいけど、ミースは自分でずっと持っていられないからね。
ボクは収納されていた自分の武器と、ミースの杖をだして、杖をミースに手渡した。
弓はしっかりメンテナンスしてあり、いつでも使える。
矢は、スキルでも創れるけど手間がかかりすぎる。一応普通に購入した矢が、三セットあるから足りてるね。
槍は……あったか、残念。できれば使いたくないんだけどなあ。
「今、この都市には、ウィズの師匠もいて、虎マスクもいる。そ、そして、ほかの強者たちもほとんど全員いる状態。な、なんだよね、ウィ、ウィズ?」
ザイクが、ボクに問いかけた。ボクはそれに、肯定の意味を込め、首を軽く縦に振った。
「わ、私たちが万全の状態の時に攻めてきた紅龍もざ、残念だったな」
強がってはいるが、軽く震えているミースの肩を軽く、ポンッ、と、たたいた。
「みんな、怖いんだよ? 当然、ボクだってね。だから、我慢しないで……ね?」
ボクは精一杯の笑顔で、言った。
――もしかしたら、笑顔が崩れていたかもしれないけど。そんなこと、今の余裕のない状況で気にしていられない。
「と、とりあえず、お、俺たちは紅龍の攻撃を防ぐ、ゆ、遊撃部隊か、しゅ、守備部隊に行くのがいいかな?」
この学園都市には、敵が攻めてきた時のための対策があり、まず、部隊ごとに別れるのが、対策の第一段階だ。
部隊は、攻撃部隊、守備部隊、遊撃部隊、回復部隊の四つに分かれる。
学生は、特別な場合を除き、攻撃部隊には加わってはならない。
そして、遊撃部隊は、自分たちでパーティーを作って行動出来るので、学生は大半が遊撃部隊に入る。
ボク達もその例にもれず、遊撃部隊に加わるつもりだ。
「ボクたちも遊撃部隊に行こうか。」
「よしっ、わかったぞ! 私たちが紅龍を倒してやるぞっ!」
ボクの言葉に、先ほどから立ち直ったミースは元気に答えた。
「……お、俺もそうしたい。無理は禁物だけど、あ、ある程度は俺が、ま、守るから!」
ザイクもヤツを倒したい、という気持ちは同じだったが、冷静に状況を考えていたようだ。
前提は変わらないけどね。
「自分の命を一番、大切にしてね」
今、この状況でボクが言えるのはこれだけだ。
けど、この言葉で、伝えたいことは伝えられたはずだと思う。
まずは計画を練ろうか。二人も一緒に考えてもらおうかな、いや、はじめにボクが骨組みを建てて話そうかな。
「作戦を練るよ」
ボクはそう言って、思い浮かんだ作戦の詳細を話し始めた。
「まず、紅龍を倒せる力があるのは、ボクの師匠だけだと思うから、できれば師匠と合流したい。これが、ボクらの作戦の第一段階。その次に、虎マスクさんとの合流。彼女の攻撃力は、欲しいからね」
ボクの考えている作戦をうなずきながら聴いているザイクと、目をつぶり、落ち着いて聴いているミース。うん、きちんと聴いてくれているね。状況が状況だからかな。
なんだかんだで、ミースも頭がまわるからね。この戦いでも、頼りになると思う。
「そして、各自、最高の戦闘をするために、スキルの発動準備をすること。――幸運なのかはわからないけど、ボクの切り札は発動可能だよ」
ボクの最高のスキルはまだ、今までで一回しか使っていなく、危険ではあるが、とても強力なものだ。
これは本当に切り札になると思う。
「ミースは精神統一をしといてね。ザイクは、一応イクザと入れ替わってもいいように、準備をしておいて。……まぁ、きっとないと思うけど」
「ああ」
「りょ、了解」
そして、ボクたちは師匠の家に向かった。
師匠の家は、商店街から少し外れたところにポツン、と建っている、木で造られた、質素な家だ。
その家の入口にある木の扉を、コンコン、とたたき、勇気を出して声をかけた。
「ししょー! 起きてください! ボク、ウィズが来ましたよっ!」
正直、自分をダシにするのは気が引けたけど、こんな状況だからしょうがない、と思う。
「……っ? ウィ、ウィズですか? さ、三十秒待ってください」
幸いなことに、すぐ起きてくれた、ししょー。
「できるだけ早くお願いします! 非常事態なのでっ!」
声を張り上げ、言葉を交わすボクとししょー。
「……やはり、ウィズの師匠は寝ていたな」
「よ、よかったのかな?」
少し、空白の時間ができ、二人を見ると、ししょーの行動に、納得、という感じにうなずいているミースと、いつも通り心配そうに、作戦が順調に進んでいるかをボクに訊く、ザイクがいた。
「今回はラッキー、だったね。かなり、ね」
ボクは、とりあえずザイクの方を見て、言った。ふぅ。第一段階は達成できたね。
「お待たせしましたぁー! ウィズー!」
そう言ってボクに、抱き着こうとしてくるししょー。
を、なんとか躱して、口早に今の状況を説明する。
紅龍がこの都市に攻撃をしかけようとしていること、ししょーの助けが必要なこと、この都市をボクたちで守りたいこと。
早口で説明しているボクをじっと見つめながら、相槌をうち、戦闘の準備をし始めるししょー。
ボクが話し終えると、
「わかりました。では、行きましょう」
準備が終わったのか、と言い、ついてこい、とボクたちに声をかけ、歩き始めた。
一瞬顔をあわせるボクたちだったけど、すぐにししょーの後について行った。
そして、ついた場所は、とある倉庫だった。
ただ、そこは普通の倉庫ではなかった。
「ぶ、武器がこんなに……!?」
そう、この倉庫は、『戦闘準備室』という名称の倉庫だ。
ボクは特訓中何回も来ているけど、ザイクとミースはここに来るのは初めてだ。
正直、この倉庫には二度と来たくなかったけど……
うん、何回も言うけど、非常時だからしょうがないと思う。
「血、だと!? ……割と最近のものだな。異常なほど量が多い。……ウィズ、ここで何をしたんだ」
かなり、強い口調でボクに問いかけるミース。そりゃあね。こんなもの見たら不安になるよね。
「特訓、だよ。痛みに耐えたり、スキルの練習を主にしてたら、血が飛び散ってこうなった。ただ、それだけだよ」
「ただの特訓でここまでの出血をするものなのか!?」
般若のような表情を浮かべ、ボクに問うミース。
「それはボクだから。これ以上はあとで、ね?」
「……わかった」
なんとか納得してくれたみたいだ。……良かった。
「いいですかね?」
空気を読んでくれていたししょーは、無感情に確認して、話し始めた。
「私の愛するウィズには、最高の武器を与えてますが、お二人は大丈夫ですかね? 念のため、予備の武器を持つのを進めますが……どうでしょう?」
ししょーの無機質な優しさが、ザイクとミースを襲った。
「……一応、いただかせてもらう」
「あ、ありがとうございます?」
軽く困惑しながらも、二人は自分の武器の代わりとなる武器を探し始めた。
ボクは、もう武器はあるので、暇を持て余していた。
蛇足なことかもしれないけど、ボクが師匠を、ししょーと呼ぶのにはわけがある。
簡単に説明すると、ししょーが、ボクのことを愛していて、強要しているからだ。
正直、ししょーでも師匠でも、変わらないと思うけれど、そのわずかな違いがいいらしい。
ちなみにししょーは本来、クールだ。
もう一度言う。ししょーはクールだ。
たとえ、今、ししょーがボクに抱き着こうと、駆けていたとしても。
「ウィズ。なぜ逃げるのですか?」
いつもは無表情な顔をかすかに歪め、問うししょー。
そりゃあ当然だと思うけどね!?
けどまあ、ししょーに常識は通じないからね、基本は。
「逃げたいからです」
ししょーが本気をだしたら、ボクは数秒で捕まる。
修行前よりは、逃げられるようになったけど、どちらにしても、捕まるは捕まる。
ししょーが本気を出さないのは、単純に、ボクの必死で逃げ回る姿を悠々と眺めたいから、とししょーは言っていた。
ししょーはクールだ。しかし、ドがつくほどのサディストでもあったりする。(基本的にボク限定)
そして、もう少しで捕まりそうになったところで、ミースとザイクがサブ武器を選び終えた。
ふぅ、助かった。
「ザイククンは、大剣で、ミースクンが傘ですか。良いセンスをしていますね」
ししょーは、初対面の人にはかならず、クン付けで呼ぶ。
傘。それは、とてもめずらしい材質でできており、魔法武器となっている。
持ち運べるサイズで、上空から落ちてくるモノから身を守ったり、槍代わりにしたりと、利便性が高い武器だ。
刹那。
グギャァァァァァァッッッッ!!!!!
また、紅龍の咆哮が聞こえた。
「急ぎましょうか」
ししょーがつぶやき、倉庫を閉め、走り出した。
サブタイトルが思いつかないです。