第二十二話 『夜前』
短いです。
また間が開きました。
完結まで行けるか不明です。
「……か……!?」
「……ん……から!」
「……」
周囲の喧騒が耳に入る。重い身体を何とか持ち上げようとすると、気付く。思わず目を開けると、目の前にいたのはミースだった。どうやら、ミースに膝枕をしてもらっていたようだ。
「ありがとう」
後頭部の痛みは引いていた。正直状況はよくわからないけど、ミースがボクに膝枕をしていたことは事実のようだから、礼を告げた。何故こうなったかはいつでも訊けるしね。
「大丈夫か?」
ミースが心配そうに問いかける。……まあ、そうだよね。さっきまで普通に話してた僕が急にソファーに寝込んでいるんだからね。平気そうでも心配だよね。
しかし、なんで痛みがとれなかったのか。ミースのスキルのおかげで段々と回復に進んでるはずなんだけどね。時間が経つとともに痛みが戻ってくるということは、時間と共に痛みが出てきていると意味だ。新たに痛む箇所が出来たか、ミースのスキルが何らかの効果によって切れたか。可能性としてはその二つだろう。まあ、あんまり気にしてもよくないから頭の片隅にでもおいておこうかな。
「大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
瞳がうるおっている気がするミースを見ていると、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。でも、そろそろ何でミースがボクに膝枕をしていたのかが気になってきた。うん、訊いてみようかな。いや、でも好意でやってもらってるであろうことだから少し言い方が嫌味ぽく伝わってしまうかもしれない。かといって聞かないとすると、ボクの好奇心的に嫌だ。うーん、ボクは我が儘だな。
「よかった」
安堵するミースに、声をかけようとすると、カルラが何かを話し始めた。
「ミース様が心配する気持ちはわかるのですがまさか……」
「どうしたの?」
ボクが聞き返すと、カルラはミースに謝るような素振りを見せてから喋りはじめる。
「私がウィズ様の看病をさせていただいていると、ミース様に浮気を追及されてしまいました。ミース様も、すぐに冷静になられて恥ずかしそうにしていたのですが、なんというか、初々しくて素敵だなと感じました」
カルラの感想だった。というか、ミースそんなことしてたのか。ボクはこれまでもこれからも浮気という言葉は縁がないように気をつけているから、あんまり過敏にならなくてもいいのにな。いい意味で解釈をすれば、心配されているんだろうけど、悪い意味で受け取ると、信頼されていないということに……。でも、ミースはすぐに冷静になってくれてようだし、きっと信頼してくれているんだろう。
「カルラ……」
怒っているのか、恥ずかしそうにしているのか。ボクにはよくわからないけど、ミースが顔を伏せたことから多分恥ずかしかったのだろう。うん、やっぱりミースは可愛いな。
「大丈夫だよ」
多くを語らなくてもミースはわかってくれるだろう。ただ、時と場合によっては詳細な説明がないと相手は心配する。でも今はまだその時じゃない。というか、もしかしてカルラはボクに膝枕をしていたってことかな?
「……何か御用でしょうか?」
カルラを凝視していると、素知らぬふうに言われてしまった。うーん、確信犯なのかな。まあ、もう少し危険なことをしてきたらミースのためにもちょっとばかり躾けようかな。
「いや、あんまり危ない事すると身が危険になる、って思っただけだよ」
ボクの意味不明な発言に、ミースは首を傾げる。しかし、カルラに意味は伝わったようで、顔を青くしていた。わかってくれたならいいかな。
「あ、起きたー?」
「だ、大丈夫……?」
違う部屋から虎マスクとザイクがやってきた。ボクが寝てる間、二人で遊んでいたようだ。すっかりラフな服装になっている二人を見て気付く。……ボクの服装変わってるんだけど。
「ど、どどどどうした?」
怪訝な顔をしたボクに気付き、ミースが何かを否定する。いや、別にいいんだけどさ。なんか恥ずかしくない?
「もう、夜ですね」
誤魔化そうとするミースをフォローしようとしたのか、カルラが呟く。その言葉に、ボクは驚いた。ふと外を見ると、明るかった景色が、真っ暗になっている。そう、夜だった。
「うん、夜だね」
どこまでも続く漆黒の世界。ここは地球と違い、夜に光はあまりない。技術的に照らそうと思えばできるらしいが、なぜだかこの世界の人たちは皆、暗い夜を照らそうとは思わないらしい。この時間帯にある光源はせいぜいこのミースの家くらいだろう。たまにうろつく人とかが光をつけてるけど。
というか、動いていて気付いたけど、いつの間にか身体の痛みがほとんどなくなっている。多分あと三日くらい安静にしていれば旅に出ていいと言われるだろう。正直少し忘れていたな。少し前は旅に出る出る言ってたけど、今は旅に行こうかな、くらいの軽い気持ちになっている。これなら危ないことに首を突っ込んだりむやみに好奇心を働かせて怪我をすることもないだろう。
「い、いい夜だね」
ザイクは気を遣っているのだろうか。そう思ったけど、どこか感傷に浸っているザイクの顔を見る限り心から思っているようだね。この世界じゃいつもこんな感じの夜なんだけどね。まあ、先日の紅さん襲撃の夜は結構大変な夜だった気がするけど。主に復興関係で。スキルって本当にすごいと思う。おかげでたった数日で町がほとんど回復したからね。
万能故に孤独の力。なんて昔は言われてたけど、今は大衆化が進んできていてそんなこともあんまりなくなってきたかな。まあ、まだ差別はあるけど、生まれつきのものはしょうがないと割り切ることしかできない。妬みの眼差しを越えて生きていけるくらい強くならないと。そんな都合のいい人はいないけど。
「もうすぐ、旅に出られるね」
ポツリと、つぶやく。忘れかけていられたようで、覚えてるらしいミースとザイク。
「やっと、だな」
ミースもつられたようにつぶやく。
「い、色々なことがあ、ありすぎだよね」
ザイクの言葉で、思い出す。まず旅に出ようとしたらこの都市に紅龍が訪れる。倒したと思って休養をしていたらなんやかんやあってミースと恋人同士に。お花畑も行った。食事に行こうと商店街に行くと、変な組織のやつに絡まれる。何とか退けると、カルラが襲撃してくる。そして何故か今はお泊り会。
まるで意味が分からない。ちょっと詰め込みすぎだよね。
「ザイクと涙の別れをしたと思ったんだけど」
そう言って虎マスクは大きく口をあけて笑う。あー、あの時はザイクも少し泣いてて、ミースももらい泣きしてたな。懐かしく感じる。
「あ、あはは」
ザイクが微妙な表情で笑う。苦笑というべきか、照れ笑いというべきか。よく考えてみれば二人は気まずいはずだよね。次会う時はかなり先、それに対する覚悟を決めてお互いの道を歩き始めた。と思ったらすぐに再開。気が抜けちゃうね。
しばし、沈黙が守られる。
と思ったらミースが飛び上がっていった。
「ガールズトークをするぞ!」
……それはつまりボクとザイクはこの場から去るということでいいのかな。うん、ボーイズトークも悪くない。無言でザイクを引っ張っていこうとすると、虎マスクに引き留められた。というか、無理やり引きずられた。
「君もだよ?」
虎マスクは、当然のように告げた。
ボクは女子に数えられるのか?
「すまぬザイク……」
え、何かミースは申し訳なさそうにしてるし。もしかしなくてもザイクだけ除け者なのかな。
「頑張れ、ウィズ」
本人も堂々と……まではいかないけど、悲しそうにはしていない。確かにボクは見た目のみで判断すると女性になるし、それを嫌だとは思ってないけどさ。なんか、親しい人にいじられると違和感というかそんな感じが漂う。
「ベッドで待ってて!」
この場から去ろうとするザイクに、虎マスクが声をかけた。その言葉にザイクは、少し恥ずかしそうにしながらも軽く手を振って去って行った。
隠しすぎるのも気になるけど、隠さないのもどうかと思う。オープンの方が後々楽といえば楽だけど。
「さて、眠くなるまでガールズトークしようか!」
虎マスクが笑顔で告げた。
外はまだまだ暗い。ああ、夜は長そうだな。ボクはそう思いながらボーっと空を眺めていた。




