第二十一話 『痛み』
お待たせしました。
大変短くてすみません。
「大丈夫か?」
「ごめんね、ウィズくん……」
「い、痛そう……」
目が覚めると、寝かされているらしいボクの真上から三つの顔が覗き込んでいた。咄嗟に身体を確認するが、傷は残ってなかった。ただ、頭がズキズキと痛む。おそるおそる痛むところに触れてみたが、特に何もなっていなかった。すると、ボクの様子を見て何かを察したのか、ミースが言った。
「ちょっと頭から血が出てたようだが、治しておいたぞ。……少し痛みがあるようだな、すまない。まだまだ私は未熟だから……」
ん? 治してくれたのに、やたらとネガティブ。これは励ましてあげなければ。治療してもらったありがたいし。
「いやいや。普通の人なら感じないくらいの痛みだし、もうすっかり治ってるから大丈夫だよ。ありがとうミース」
「でも……」
「でもじゃないって。全然大丈夫だし。そこまで心配しなくても大丈夫だって」
「……いっつもウィズはそう言うのだ。だから急にどっかに行ってしまわないか心配なのだ」
……わお。ミースの暗い本音なんてひっさしぶりに聞いたな。こんな重要な話、もっと真剣なときに話してくれていいのに。まあ、ミースの本音が聞けたということでいいとしようかな。
「大丈夫、いなくなるときはミースも連れて行くよ」
冗談を織り交ぜた感じで、笑った。万が一にもそんな状況になってしまったら、実際はミースだけでも残そうとするけどね。
「……ならいいぞ」
ミースが少しだけ安心したようにつぶやいた。ついでに、ボクたちの様子を見ていた二人がにやにやと笑っているのが視界の隅に映った。まあいいかな。気にしないでおこう。
「虎マスクはウィズを怪我させたから笑ってはダメだ!」
ミースがにやにやしている虎マスクに気付いたのか、指さして言った。
「あはは、ごめんね」
こっちに深くお辞儀をしてから、虎マスクはミースに返す。笑っているようで、ボクにけがをさせたことについては反省しているようだ。というか、まるで虎マスクがボクに何かしたみたいな感じになってるけど、実質ボクが勝手に転んだだけだしな。
「ボクが悪いからさ、何かありがとう。……でもミースに悪戯したことは許さないからね!」
冗談っぽく言葉を占めてミースの機嫌をうかがう。これでミースに対しての誤解も解けるといいんだけどな。ミースは、自分を見つめているボクに気付いたようで、そっぽを向いたあとに小さく虎マスクに謝った。
とりあえず、この何とも言えない空気をどうにかできた。でも、この先につながる話題がないというか、何か手詰まり感がすごい。何かやってない忘れていることでもあるのかな。とりあえず、この場から離れて普通にお泊り会的なことをやったらどうだろう。うん、言ってみようか。
「ねえ……」
「なあ……」
ミースとセリフがばっちり被った。なんか発言のタイミングは一緒だったし、イントネーションというか問いかける感じとかも全く同じだった。更にいえば顔を上げて問おうとするところなんか見事にシンクロしてたね、うん。
互いに視線を合わせてアイコンタクトを送る。ボクはミースに譲るつもりだったけど、顔を真っ赤にして俯いてしまっている様子を見る限り、どうやらボクが行った方がいいみたいだ。でも、その前にミースがコミュ症にならないようにフォローしておかないと。
「ドンマイ!」
そう言ってミースに笑顔を向ける。……うーん、良く考えてみるとこの言葉はミースを小馬鹿にしているような感じがするような気がする。ま、いっか。
生暖かいような目で見られているけど、気にしないでおこう。ただ、あなたたちには負けるよって言いたい。
「とりあえず……着替える?」
ボクの脳内とは反対に、良い提案が口から漏れた。うん、見た限り水に濡れて色々透けちゃったりしてる二人を直さなければ。直す? ……ボクも混乱してるのかな。
「あ、ああ」
「えー。私はこのままでもいいよぉ~?」
「虎マスク、やめてくれ。いつものお前とかけ離れすぎていて寒気がする」
「はーい。ごめんなさーい」
ミースの言葉に素直に耳をかたむけた虎マスク。それと同時に、ミースが虎マスクの腕をつかんでお湯浴び場からつまみ出した。それにつられてボクとザイクもこの場所を出た。ミースは二人の着替えを取ってくるとだけ言い残して、どこかに行ってしまった。
少し寒そうに手で身体を温めているザイクと、なぜだか知らないけど笑っている虎マスク。虎マスクはちょっとタフすぎるんじゃないかな。
「ほら、行ってらっしゃい」
ボクはミースに言った。ボクの言葉にめずらしくミースは従い、二人を連れて行った。三人が去ったのを確認すると、ボクはうずくまった。……実はまだ頭が痛かったのだ。
「いたた……」
後頭部が熱い。大量に出血しているような気がするが、さっき確認したを思い出すと、血は出ていなかった。だからそこまで身体に影響はないと思うが、痛いものは痛い。ふらふらしながらもボクは壁を伝って部屋まで歩いていった。
何とかソファーまでたどり着いた。何故か頭痛がひどくなってきていて、正直死にそうなくらい痛い。とりあえず、ソファーに腰掛けて頭を押さえ……ようとした。
「あ……ウィズ様」
「えっ!?」
そこにはカルラがいた。……あー。ボクは今までのことを思い出す。そこには、ボクたちがお湯浴び場に行くときにスルーされて落ち込んでいたカルラがいた。うーん、自分の失敗を認めたくないわけではないんだけど、カルラはあの時あの場所にいなかったような気がする。
「すみません」
目が合って真っ先に謝られた。ボクが首を傾げていると、カルラは自分のスキルについて語り始めた。どうやら、色々あって【隠密】というスキルを入手したらしい。そして、つい試したくなってしまってボクたちに使ってしまった。すると、誰からも認識されなくなって、微妙な感情を抱いたらしい。
「いいよいいよ。むしろカルラを一人にしちゃってごめんね」
ボクは痛みを耐えながらも頑張って笑みを見せた。でも、そろそろ限界のようだ。痛みが尋常じゃないと気絶するっていうのはもしかしたら便利なのかもしれない。
ソファーを譲ってもらって身体を横たえる。カルラにはちょっと眠いから寝るとだけ告げておいた。
薄れていく意識の中でボクは何かの声を聞いた気がした。
と思ったら気のせいのようだった。
こんな小説をここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。頭が上がりません。もう少しばかり、お付き合いくださいませ。




