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ブラッディスキル ~出血多忙な旅人たちの冒険譚~  作者: 独りっ子
第一章 学園都市にて

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第二十話 『泊まってみよう!』

一か月。長い期間お待たせしました。

お泊り編? です。

お湯浴び場というのは、今でいうお風呂場のことです。

ブックマーク、閲覧、評価してくださっている方々、本当にありがとうございます! きちんと完結はするので最後まで見守ってやってくださいませ!

「一緒に泊まっちゃえばいいんじゃない?」


「いいと思うぞ」


「い、いいんじゃないかな」


「泊まっちゃえ泊まっちゃえー!」


 四人の熱い願いによって、カルラはほぼ強制的にミース宅に泊まることになった。四人の生み出す熱気に軽く押されながらも、うなずいた。まあ、どっちでも構わないんだけどさ。


「と、とりあえず入って待っててくれ」


 ミースが良いから覚めたかのように告げ、家の奥へと去って行った。ってあれ? 両親は家にいるのかな? さっき家を空けておくっていってたような……


「いやー。ミースの家に泊まるなんて何年ぶりだろ」


 虎マスクがうきうきしたような調子で言った。開かれた玄関からミースの家に入っていく虎マスクに、ザイクは慌てて引き留めていた。


「どうしたの?」


「い、いやー。さ、流石に勝手に入っちゃうのは……さ?」


「大丈夫。だってミースだから」


「え、え? だ、だから駄目だって……」


 特に何も考えずにそのまま家に入っていこうとする虎マスクと、腕を引っ張って止めようとするザイク。その様子をほほ笑ましく見ながらボクは悩んでいた。


 そろそろ虎マスクのことを名前で呼ばなきゃ、と。


 今までミースがずっと虎マスクとかいう変なあだ名で呼んでたからその流れのままボクもそう呼んじゃってたけど、最近どうかと思い始めてきた。確か名前は、シェスミア・スーレリカだから……シェス、かな。でもザイクと被っちゃうしな。スーとかでもいいけど微妙に適当っぽく感じるし。


「い、いないっ!?」


 ミースの叫び声がどこからか聞こえてきた。両親がいないことにでも気づいたんだろう。虎マスクのことは一旦保留にしておこうかな。


「ど、どうしたの?」


 軽くパニック状態になっているミースに、ザイクは訊いた。


「あいつら……」


 少し冷静になったミースが、ナニカに気付くと舌打ちをした。珍しいな。


「じゃあ軽くお湯でも浴びさせてもらうね」


「あ、ああ」


 ……!?


「ちょ、ちょっとシェス! か、勝手に人の家でお湯浴びなんて失礼……」


 ザイクはそう叫びながら虎マスクを追いかけて行った。というか、虎マスクは何も持っていなかったけど、着替えはあるのかな。


「これじゃ私の計画が……でもこの方が好都合かもしれないな」


 ミースがうつむいてぼそぼそと喋る。何を言ったのかは聞こえなかったけど、どうせ碌な事じゃないだろう。


「虎マスクとザイクがお湯浴びに行っちゃったけど、大丈夫?」


 ミースに軽く声をかけるが、ミースは気付いていないようで、何かをぶつぶつとつぶやいていた。


「あの二人、お湯浴びに行っちゃったよー」


 ミースの方を軽くたたいて知らせる。やっとミースは気付いてくれたようで、微妙そうな顔でこちらを向く。何故ボクが声をかけたかわかっていないようなので、軽く説明をしておこうかな。


「今お湯浴び場、水浸しじゃなかったっけ?」


 と思いながらボクも詳しくは覚えていなかったので、聞き返すような感じにしておいた。


「あー! そ、そうだった……さっきから全然だめだな私。……しっかりしないとな。ウィズもついてきてくれるか?」


「うん。じゃあ、いこっか」


 こうしてボクは、お湯浴び場に行くことになった。というか、これ絶対ザイク達困ってるよね。びしょ濡れになって目も当てられない状態になってる、なんてことになってなければいいけど。


「もしかして虎マスクはマスクを外して……」


 ミースが少しだけ期待したような感じでつぶやく。虎マスクが虎マスクを外した状態なんて今まで見たことがないな。そもそもなんで虎マスクをつけてるのかも少ししかわからないし。確か呪いが何とかって言ってたけど。まあ、それなりの事情があるんだろう。


 お湯浴び場についた。……目の前の扉が閉まっていることに不安しか覚えない。しかも中からは入っちゃいけないような声ばかりが聞こえてるし。うん、ここは気をつかって気付かなかったことにしよう。そして存在を忘れていたお土産を一緒に食べよう。よし、そうと決まったらミースを引っ張って準備を始めようかな。


「入るぞー」


 って、えっ!? 普通に入ってったよ。確かにそういったことに関してはミースは無知で、気付かなかったかもしれないけどちょっとばかり気を使おうとは思わなかったのかな。まあ、ミースだししょうがないか。誰かに言い訳しながら、ボクはお湯浴び場を覗いた。


「や、やめてって!」


「いいじゃないのー。ほーら、ここがいいんでしょう?」


 涙ぐみながらザイクが虎マスクにめちゃくちゃくすぐられてた。どうしてこうなったんだ、ザイクよ。しかも水浸しになっているお湯浴び場で組んず解れつしてるから互いに服がびちょびちょになってるし。虎マスクは美少女(推定)なんだから、気をつけないと服がすけちゃったりもするし。


「すとっぷ、虎マスク!」


「あ。ミースだ。混ざる?」


 白々と笑顔(多分)で返してくる虎マスクに、ミースは軽くにらみながら二人を引きはがそうとした。妙になまめかしい二人の姿に物怖じしないミースは鈍感といえばいいのか、バカといえばいいのか。少し顔を赤らめながら二人に近づいていくミースを見て、ボクはなんとなく思った。


 敵に気付かずに餌へと近寄る小動物みたいだな、と。


「えいっ!」


 ザイクからほんの一瞬離れてミースの腕を引っ張った。警戒した居たみたいだけど、ミースは簡単に倒れた。倒れた時の衝撃は虎マスクが守ってくれたみたいだけど。そして虎マスクの興味がザイクからミースに移ったのか、ザイクはくすぐり地獄から解放された。その代わりに、ミースはくすぐられているけど。


「どうしたの?」


 軽く煽るような笑みを浮かべて、ボクはザイクに訊く。ザイクは、火照った顔を手で仰ぎながら答えた。


「み、水浸しのお湯浴び場を見て、シェ、シェスが突っ込んでって、と、止めようとしたら……」


 少し恥ずかしそうに顔を伏せた。シェスってかなり力強いし、ザイクはシェス相手だと力が出せない。その二つが嫌味な感じにかみ合ってこうなったのかな。言っちゃ悪いけど、むさい男がくすぐられてるとか他人からするとどうでもいいしね。まあ、ザイクは気弱そうな外見だからそこまでむさくるしくはないからいいけど。


「み、ミースを助けなくていいの?」


 ザイクがミースを身代わりのように使ったことに罪悪感を覚えているのか、ミースの方をチラ見した。確かに助けてあげたいんだけど、美少女(内一人は推定)が絡んでる光景もなかなか……って煩悩に溺れるなボク。寸前で踏みとどまったボクは、ザイクに礼を言って交わりを止めることにした。


「助けに来たよ、ミース!」


 少し演技かかった口調で二人に声をかける。ミースをいじり倒そうとしたボクの意図に気付いたのか、虎マスクが堂々としゃべる。


「貴様、勇者だな。姫は我のものだ、勝手に手を出すでない!」


 え。この人ガチじゃん。一瞬引きかけてしまったけど、精一杯演技をしてくれると思い込みボクは声を返す。


「姫はボクの大事な人だ! 姫も嫌がってるではないか、その手を離せ!」


「ほう。たわけがほざくでない。ほら、姫も嫌がってないぞ?」


 そう言いつつ、虎マスクはねちっこい手つきでミースの身体をなでまわす。えっ、虎マスクってこんなキャラだったかな。ちょっと熱が入りすぎてミースがとられそうで嫌だな。


「と、虎マスク……や、やめろぉっ!」


 ミースもまんざらではなさそうだし。ってこのままじゃどんどん暗くなるぞ。何とかしなきゃ。


「姫! 今助けま……あっ」


 あ。


 ひっさしぶりに転んだなぁ。


 豪快に頭からお湯浴び場に飛び込みながらふと、ボクはそう思った。

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