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ブラッディスキル ~出血多忙な旅人たちの冒険譚~  作者: 独りっ子
第一章 学園都市にて

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第十七話 『終戦』

 ボクはふらふらしながら暗殺者に近寄った。もし先ほどの攻撃がまた来ても、しっかりと対応できるようにしながら。


「はは、相討ちってとこかな?」


 親しみを感じさせるような笑みでほほ笑んだつもりだったけど、暗殺者の目には警戒の色がうかがえるようになった。警戒させちゃったか。失敗かな。とみうかさっき感じた疑問の解消のためになにか喋ってくれるといいんだけど。暗殺者もそれがわかって喋れないというリスクを負ってるみたいだし。


「えっ……」


 突然目の前が真っ暗になり、身体が言うことを聞かない。ボクはゆっくりと倒れていった。


 ように見えるように、「フリ」をした。遠くからミースの叫ぶ声が聞こえる。……ごめんね。あとで謝っておこう。……ってアレ? 目を閉じているのに、視界がぐるぐるする。ちょっとこれは本気でやばいかもしれない。握っていた槍をもっと強く握りしめる。そうすることで、曖昧な精神が戻ってくる気がした。


「……仕留めた」


 どうやら本気で倒れそうだったのが功をそうしたらしい。透き通った声でつぶやいたのが聞こえた。


「ばーか」


 その言葉にボクはそう返した。目を大きく開いて、両手で握った短刀をボクの首に振り下ろそうとしている様子を確認。攻撃動作に入ってしまったからには、もう変えられない。暗殺者はできるだけ早く攻撃しようと、短刀を振り下ろそうとした。ボクに覆いかぶさるようにして中腰になっている暗殺者の臀部(でんぶ)を蹴りあげた。


「っ!?」


 それでバランスを崩し、前傾姿勢になっている暗殺者に追撃をかけるため、蹴り上げた足を下ろし暗殺者の手をとった。手袋のような布で覆われている手を引っ張り、ボクは反転した。マウントポジションを取り、抵抗できないように両手を押さえつける。


 【収納】空間からロープ的ななにかを取り出し、暗殺者の両手を縛りつける。


「ミース! こっち来て!」


 ミースを呼んでおく。暗殺者がボクを蹴ろうとしてくるが、暗殺者の太ももに座ることでなんとか防ぐ。ミースがこっちに来たことを気配で感じた。ボクはミースに言った。


「ミース、コイツの顔の布を取って!」


「了解」


 暗殺者の手を後ろに縛り直し、ミースに暗殺者の被っている布をとってもらう。さて、どんな顔をしているのかな、彼女は。


「……え?」


 ミースが驚きの声を上げる。まあ、そうなるよね。だって暗殺者は女の子だったのだから。


「させないよ」


 彼女の自殺を防ぐため、ボクは彼女の口の中に手を突っ込んだ。こっちも手袋のような装備をつけているから噛まれたとしても大丈夫だ。大抵の毒も通らないようになっている。


「ミース、【解毒】をお願い」


「ああ。……【解毒】」


 彼女の口の中からまばゆい光が出て、空に消えていく。毒が浄化されている証だ。さて、そろそろ抵抗の手段は少なくなってきたかな。口の中でも縛ろうと思ったけど、最悪舌を噛み切られてもなんとかなるしな。


 彼女は険しい目つきでこちらをにらんでいる。……どうやって口を割らすかな。あまり下衆な方法はしたくないしなあ。そういうフリをする、っていうのも手段の一つなんだけどな。ミースの居る前でそんなことはしたくない。んー、でもそうでもしないと口を割らなそうだしな。


「どうする、ミース?」


「ん? 何がだ?」


 ボクの問いかけに、ミースが反応する。彼女に聞こえないように、小さな声で話をしようと思ったけど、彼女に聞こえそうで怖い。じゃあ【通信】でも使おうかな。あー、冒険者クラスに入っておいてよかったな。入ったばっかの時は何の役に立つんだ、っていうスキルの習得項目があったけど、必要なものもあるんだな。


(ねえミース。この暗殺者の口をどうやって割る?)


(尋問方法ということか)


(うん。大抵の拷問というか尋問には耐性がありそうで悩んでるんだよね)


(そうだな。殺すわけにもいかない)


(うーん)


(耐性がついていない方法で尋問をする、なんてどうだ?)


(いいとは思うけど、その方法はどうする?)


 ボクがそういうと、ミースはしばらく考える様子を見せた。しばらく沈黙が守られたのち、ミースが顔を輝かせて言った。


(じゃあ、――なんてどうだ!?)


(――か。よし、やってみようか!)


 ミースの思わぬ良案に、ボクは笑みを浮かべてしまった。明暗を思いついたミースも、向日葵のような笑顔を浮かべていた。二人が笑顔で迫ってくる、という軽いホラーな雰囲気におされたのか、暗殺者は冷や汗を浮かべていた。


 あまり人目にさらすのもまずい、ということでミースの家まで彼女を運搬することになった。しかし、家までの道のりで彼女をどうやって隠すか、ということについて様々な意見を交わしあっていた。すると突然、脳内に声が響いた。


『よお。さっきぶりだな』


 っ。コイツはさっきの……


『負け犬さん!』


 あ。やばい。いつもの癖が出てきちゃったよ。煽り癖が。まあ、この人なら大丈夫かな。というか、負けた方はしばらく買った方に干渉しないって約束したんだけどな。


『ルールについては謝る。後で詳しく説明もするからな。ああ、そうだ。彼女には【鈍化】というスキルを付与してあるからそこんところたのむ。で、オレがわざわざこうやって話しているのはな、一つ伝えたいことがあったからだ』


『何でしょう。いや、なに?』


『チッ。おっと失礼。これからオレたちはお前に一切かかわらないようにする。彼女に襲わせたのが最終試験だったんだ。彼女がお前に致命傷を与えられたらお前は失格。ずっと追いかけまわしてただろう。もしそうなっていたら彼女を自由の身にさせてもいた。そして今彼女はお前に捕まっている。この時点で彼女とオレたち組織との関係はなくなり、彼女は処分される運命となった。まあ、お前に愛玩用としてプレゼントしてもいいけどな』


 愛玩用、ね。うーん、ミースごめんよ。やっぱ無理みたいだ。


『じゃあ愛玩用としてもらうよ。当然初物だよね?』


『お。もらうのか。当然初物だぞ』


『じゃあもらっときます。ということで、これ以上ボクとボクの関係する人たちに悪くかかわらないでね。これを破ったらあなたを殺しに行きますから。あ、当然ボクを狙う組織もその中に含みますから。では切ってください』


『はいはい。じゃあな』


「ど、どうしたんだ?」


 ミースは、不思議そうにこちらを見つめてきた。あ、そうか。ミースはこの会話に参加していないことになっているのか。じゃあ彼はボクだけに【通信奪取(ハッキング)】をしたんだ。……どうせならミースも巻き込んでくれれば説明の手間が省けたんだけどな。


「んとね。実はお土産をもらう時に蛮族に襲われてね。なんとか撃退したんだけど、蛮族の中の一人がボクを狙う組織の一員だったんだ。んで、ボクたちとこれ以上かかわるな、ってそいつと契約した。でも何か知らないけど負け惜しみでこの暗殺者の女の子をけしかけてきた。それを、これは試験だ。彼女に勝ったならもう関わらないでやろうって言い訳した。そして彼女を愛玩用としてもらうか、返して処分させるか選ばされた」


 畳み掛けるように情報を伝えた。できるだけ少なくわかりやすくしたつもりなんだけど、伝わったかな。情報量が多かったから抜けている部分が多そうで困る。


「……多分。……ん? 愛玩用か処分? どうしたんだ?」


 あ。そこ来るか。まあ、そりゃあ来るよね。


「ここにいるってことは……ね?」


「えっ!? な、なんでだ!? ……あ。す、すまん」


「いやー、かわいそうにって思っちゃってさ。あ、初物だってさ」


「な、な、な!?」


 ミースの顔が段々真っ赤に染まっていく。あー、可愛いやつめ。カマトトというか無垢というか。知っていることと知らないことの差が大きすぎるよ。


「大丈夫。ボクが愛すのはミースだけだから。だから……安心して、ね?」


 そういってニコッと微笑んだ。ボクの言葉で落ち着いたのか、ミースは深く息を吸って胸をなでおろした、ように見えた。安心してくれたならいいけど、ボクのせいでミースに心配をかけるのは嫌だな。これからは誤解のないように言うようにしよう。


「あ……あの」


 ……? ああ、暗殺者か。彼女は心配そうな視線をこちらに送っている。


「私はどうすれば……いいのでしょうか?」


 不利になったらいくらでも敵に寝返る。人道的には最悪最低だけど、この世界での生き方としては間違ってないと思う。


「君の所属している組織のとある奴から聞いたら、お前はもうクビだから、敵の愛玩動物にもなっとけ、だって」


 ボクが口元を吊り上げながら告げると、彼女は悔しそうな表情を一瞬だけ見せたが、すぐにボクへと頭をお下げて言った。


「私の身体を差し上げますので、どうか……私の身内には手を出さないで下さい」


「え?」


「……え」


 突然の告白にボクが素で驚きの声を上げると、彼女はポカンとした顔でボクを見つめた。すると、しまった、とでも言いたげな顔をし、うつむいてしまった。


 何か色々つめの甘そうな人だけど、悪い人ではないみたいだね。とりあえず、力を貸してあげようかな。


「じゃあ、君はこれからボクたち奴隷ね」

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